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バスケットボール日本代表がオーストラリア相手に劇的な勝利。心身両面でのタフさを最後の最後まで堅持

青木崇Basketball Writer
オーストラリアからの勝利に喜びが爆発の日本 Photo by FIBA.com

Back against the wall.(もう後がない)

 2019年に中国で行われるFIBAワールドカップのアジア1次予選、日本は昨年の11月のウィンドウ1と2月のウィンドウ2で一つも勝てずに4連敗。昨年のアジアカップ王者のオーストラリアに敗れ、チャイニーズ・タイペイがフィリピンを破った場合、日本のワールドカップ出場の夢は断たれる。Bリーグで絶対的な得点力を発揮しているニック・ファジーカスの帰化、ゴンザガ大で活躍する八村塁の代表入りによって戦力アップしたといえ、オーストラリアを倒して予選で生き残るには、攻防両面で質の高いプレーを40分間続けなければならなかった。

 マシュー・デラベドバとソン・メイカーのNBA選手を加えたオーストラリアに対し、日本は八村が試合序盤にミドルレンジからのジャンパーを決めてリズムをつかみ、1Qだけで13点をマーク。スロースタートだったファジーカスも2Qでエンジンがかかり、中盤で立て続けに3Pを決めたとき、日本は36対24とこの試合で最大のリードを奪う。オーストラリアのサイズに対応し、フィジカルでも負けない2人の存在は、他の日本代表メンバーに大きな自信をもたらした。

 一方、アンドレイ・レマナスコーチが「必要なインテンシティで試合をスタートできなかった。日本はアグレッシブだったし、ボールをよく動かし、シュートも決めていた」と振り返ったように、前半の不調がオーストラリアにとって大誤算。危機感を持って挑んだ日本とは、メンタルの部分でも差があったことも否めない。

 3Qにクリス・ゴールディングの3Pシュートが当たりだして勢いに乗ったオーストラリアは、ミッチ・マカロンのシュートが決まった4分6秒に52対50と逆転。八村のシュートが立て続けにリムに嫌われるなど、オフェンスが停滞し始めていた日本は、このまま引き離されてもおかしくない展開になりかける。しかし、メンタル面のミスをしていなかったことと、前半の20分間で得たやれるという自信が、これまでの4試合とは違うことの予兆になっていた。

 オーストラリアのアンスポーツマン・ライク・ファウルによって、一時退場を強いられた馬場雄大に代わって入った辻直人が着実にフリースロー2本を決めて同点にすると、直後のオフェンスでファジーカスがレイアップを入れて再逆転。その後は緊迫したゲームになりながらも、日本は最後までリードを維持する。1点差で迎えた残り24秒、激しいリバウンド争いからボールを手にした篠山竜青が速攻からレイアップ。3点差にした後のディフェンスでは比江島慎がこの試合8本目のリバウンドを奪い、見事なロングパスで八村のダンクをアシストするなど、日本は土壇場で勝つために必要なビッグプレーを決めていた。千葉ポートアリーナを埋めたファンの大声援によるホームコート・アドバンテージがあったといえ、40分間タフに戦い切るメンタルの強さを発揮できたからこそ、日本は勝利を手にすることができたのである。

「すごい試合だったし、チームや我々がやってきたことを誇りに思う」と語ったファジーカスは25点、12リバウンドのダブルダブルを達成。八村が24点、7リバウンドと期待に応えたことに加え、2人をバックアップする竹内譲次の奮闘も光った。スタッツは6点、5リバウンド、4アシストだったが、オフェンスでは積極的に攻める姿勢を見せていた。ディフェンスでもオーストラリアのビッグマン相手に負けないタフさを見せていたことは、18分39秒間の出場でプラスマイナスがチーム最高の+18という数字でも明らか。フリオ・ラマスコーチは竹内のパフォーマンスについて、「譲次はとてもよかった。ディフェンスではビッグマンのシュートを(必死に手を出して)コンテストしていたし、リバウンドできちんとボックスアウトをしていた。オフェンスではニックや塁とのプレーで今までになかったスペースをうまく使い、アタックしてのフィニッシュや(得点機会の)クリエイトをしていた。彼はゲームを理解しているし、賢い選手だ」と称賛した。

ファジーカスと八村をバックアップしながらも、国際試合経験の豊富なベテランとして、オーストラリアのビッグマン相手に素晴らしい仕事をしていた竹内 Photo by FIBA.com
ファジーカスと八村をバックアップしながらも、国際試合経験の豊富なベテランとして、オーストラリアのビッグマン相手に素晴らしい仕事をしていた竹内 Photo by FIBA.com

 自身の得点こそ6点と少なかったが、ピック&ロールから何度もチャンスを作って6アシストを記録した比江島は、「素直にめちゃくちゃうれしいです。相手がオーストラリアですし、アジアで初めて土をつけたこともそうですし、崖っぷちの状態で勝てたのがうれしいです」と試合を振り返る。40分間集中を切らすことなく、タフに戦い続けたことで手にした難敵相手の勝利は、日本のバスケットボール界にとって大きなステップアップ。しかし、7月2日のチャイニーズ・タイペイに勝たなければ意味がない。ラマスコーチは試合後の会見で「月曜の試合のことを考えている」と語ったように、今の日本代表には目の前の試合、目の前にある1ポゼッションをハードに戦い続けるしかない。彼らが置かれた状況は、正にこの言葉がピッタリである。

Survive and Advance.(生き残り、そして前進する)

 

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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