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1年間で信頼できる友人関係を構築した弟分を思い、再び名古屋に戻ることを決めた元NBA選手

青木崇Basketball Writer
ソウへの思いを胸に今後の活躍が期待されるカーニー (C)TFE Nagoya

 B2が開幕して間もない10月5日、豊通ファイティングイーグルス名古屋は辛い出来事を発表した。それは、シェリフ・ソウが生命の危険にさらされる可能性もある髄膜炎による離脱。B2制覇を目指すチームの首脳陣は、代役となる外国籍選手を早急に探さなければならない状況に直面すると、昨季チームに在籍したロドニー・カーニーに声をかけてみた。代表理事を務める坂口肇はこう振り返る。

「私はロドニーに戻ってきてほしいと思っていたのですが、本人が本当に戻ってきてくれるかなという気になって、半信半疑でした。(オファーは)出しました。彼は先シーズン日本でやって、NBAへの復帰に向けてトレーニングをしていたのを知っていました。NBAのロスターが決まってしまい、しばらく休んでいるみたいな状況だったので、ひょっとしたらもう1回日本でやらないかというコンタクトをしたら、”どうして今さら?”と言うので、”実はシェリフがこういう状況なんだ”と伝えると、それだったら行くと言ってくれました」

 カーニーは昨季終了後アメリカに帰国すると、NBA復帰へ向けてインディアナ・ペイサーズでワークアウトをしていたものの、ロスターに空きがなかったため契約に至らずに終わる。日本に戻ることはないと感じていたものの、ソウのニュースを聞いて心境に大きな変化が生まれた。「とても悲しかったよ。シェリフと私はいい友人関係にあるからね。何が起こったのかを話してくれたらよかったんだけど、日本に来てからすぐにテキストメッセージを送り、彼が大丈夫なのかを確認すると、”よくなってきている”と言ってきた。でも、とても悲しかったね」と語るカーニーは、再びファイティングイーグルスでプレーすることを決断したのである。 

 セネガルから沼津中央高に留学し、2015年に近畿大から入団したソウは昨季序盤、カーニーと今季福島ファイヤーボンズに在籍するソロモン・アラビの元NBA選手たちと一緒にプレーすることについて、「彼らから学ぶことは多いし、いろいろなことを教えてくれる」と話していた。そんな環境で過ごした1年間で、ソウはカーニーと友人関係を構築。「シェリフは素晴らしい人間性を持っている。楽しくて、ジョークもよく言うし、自分からも多くを学んでいるから、いつでも彼のそばにいるようにしている」と語るカーニーからすれば、日本にいるかわいい弟のような存在になっていた。それは、「アレン・アイバーソンやステフィン・カリーがチームメイトだったけど、私とシェリフの友人関係は特別だよ」という言葉を続けたことからも明らかだ。

髄膜炎で戦列を離れたソウにとってカーニーは頼れる兄貴のような存在 (C)TFE Nagoya
髄膜炎で戦列を離れたソウにとってカーニーは頼れる兄貴のような存在 (C)TFE Nagoya

 春に結婚し、夏に父親となったソウにとっては、家庭を持つ2児の父親であるカーニーがいいアドバイザーになっている。父親としてどうあるべきか? ということで質問を受けた際には、「私からのアドバイスは、”とにかく自分自身のままでいること。厳格すぎる父ではなく、できる限り最高の父親であれ”ということだ」と返答したという。カーニーとソウの間にある絆はバスケットボールだけでなく、家族を含めたものになるくらい強い。今季のNBA復帰が実現しなかったことで、次にどうするかという選択肢の中から、ファイティングイーグルスに戻るという決断を下すことは、カーニーにとって難しいものではなかった。

 11月になって退院したソウだが、坂口代表理事の「髄膜炎の中にもいろいろな種類があって、彼がかかったのはしばらく、数か月薬を服用しながら様子を見なければいけない状況なので、もう少し時間がかかると思います」の言葉からすれば、今季中の復帰はかなり難しいかもしれない。しかし、11月12日に行われたホームでの信州ブレイブウォリアーズ戦で姿を現したことは、少しずつ回復していると認識していいだろう。そのことをカーニーが喜んだのは言うまでもない。

「本当によかったよ。よくなっているように見えたし、ジョークをたくさん言い合った。食べ物や家族の話、彼には娘が生まれたから、そういったことを話したね」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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