Yahoo!ニュース

田臥のポジティブな姿勢とコミュニケーション能力は、栃木ブレックスが這い上がるために欠かせない要素

青木崇Basketball Writer
変貌したチームの成長を新たなチャレンジと感じる田臥(写真/栃木ブレックス)

 10月25日の夜、サンロッカーズ渋谷戦を20点差の大敗で終えた後、田臥勇太は拍手しながらハドルに加わり、落ち込むチームメイトたちの自信を失わせないようなコミュニケーションをしていた。「新しいメンバーでやっていますので、一つずつ1試合1試合大切に戦って、チームとして成長して強くなるために、しっかりとできることを毎試合しっかりやっていくことが目標です」と以前話したように、古川孝敏と須田侑太郎が琉球ゴールデンキングス、熊谷尚也が大阪エヴェッサに移籍。ヘッドコーチもトーマス・ウィスマンから長谷川健志に変わった今季のチームは、機能するまで時間がかかると予想されていたし、田臥も覚悟していた。

 ラスト5分で14点差を逆転された10月14日の千葉ジェッツ戦をきっかけに、栃木はまさかの5連敗を喫している。これまで奮闘してきた持ち味のディフェンスやリバウンドも、渋谷戦ではコントロールできないシーンが増加。長谷川コーチもフラストレーションからテクニカルファウルをコールされるなど、チームの状態が悪化していると見られても仕方ない。

 スポナビライブで栃木の試合を2節連続で解説させてもらったが、試合後の取材で田臥の話を聞いた時、ポジティブな姿勢をまったく失っていないと認識できた。昨季は試合の積み重ねが優勝するためのプロセスという考えをベースに、負けをチームに必要とされる修正を発見する材料にしていた感がある。しかし、今季は田臥自身も試行錯誤しながら、新たなチャレンジとして自分とチームを見つめているという印象が強い。それは、これらのコメントからも明らかだ。

これをいいレッスンとして次につなげようと最後みんなで言い合ったので、下を向く必要はないと思うし、しっかり前を向いてチームとして強くなっていこうと、みんなで話しました」(10月14日の千葉戦後)

「控えのメンバーでいい部分もたくさんあったと思いますので、どんどん出てきて仕事を徹底しようと挑む気持、トライしようとしているのはすごく伝わっているので、それをみんなで形にどれだけしていけるかが大事なので、本当に毎日毎日やっていきたいと思う。控えメンバーも責任と自覚をもってやってくれたら、それはチーム力のアップにつながる」(10月14日の千葉戦後)

簡単に行くはずはない思っていたので。ただ毎試合毎試合、もちろん勝利を目指して戦うので、勝敗に関しては1試合1試合集中していく。ライアンも最近よく試合中に言うんですけど、点差とか勝ち負けというよりも、自分たちのゲームの中でどうバスケットをやっていくかを本当に意識してやっている。結果が出ればベストですけど、相手も強いわけで、なかなか簡単に行くわけがない。ただ、そういう状況の中で一人一人どう感じて、チームとしてどう強くなっていかなければならないかを真剣に捉えなければ、このまま変わらずになってしまう。その繰り返しだと思っています。絶対勝てるチャンスはあるし、それをどう見つけて自分たちのモノにして行くかというのは、メンバーが変わったからこそ、コーチが変わったからこそ、とにかくこだわってやっていかなければいけないと、試合をやっていて感じました」(10月15日の千葉戦後)

本当にこのチームはこれから。東京や先週の千葉は自分たちがやるべきオフェンス、バスケットがみんなわかっていて、徹底してこの段階からできていると思いました。自分たちはそれをまず作っていく過程の段階なので、いかにみんなが一人一人意識していけるかどうかだと思います」(10月21日のアルバルク東京戦後)

負けが続いていても、最後までファンの方が戦ってくれていることは本当にありがたいこと。ファンの皆さんには感謝の気持でいっぱいです。こういう時だからこそ、戦い続けなければいけない。アメリカだったら帰ってしまう人がいてもおかしくないと思うので…」(10月22日のアルバルク東京戦後)

「やるからには勝ちたいし負けることは悔しいが、一試合一試合を経験して一つずつ成長していくことが大切。一つ試合をしたら反省し、次の試合で修正できるかどうかを考えながらやるのが楽しみだし、それがチームの勝利につながることを目指してやるだけ」(10月25日のサンロッカーズ渋谷戦後)

 田臥が2004年秋に在籍したフェニックス・サンズは今季、開幕からわずか3試合でヘッドコーチを解任。「ここにいたくない」とツイートした主力選手を試合で使わず、トレードする方向でフロントが動き出すなど、NBAは開幕直後に大きな問題が発生しても不思議でない。Bリーグもプロである以上、決して表に出なかったとしても、ちょっとした問題がチーム内で起こる可能性は常に秘めている。昨季のB1でも、一体感を完全に失くしたと思えるチームがあった。

 しかし、連敗の長期化でフラストレーションが充満しそうな状態であっても、ポジティブさを失わない田臥の存在は、栃木にとって無形の財産。アメリカと日本で様々な経験を積み重ね、ベテランとなった今でもバスケットボールというゲームを積極的に学び続ける姿勢、気付きを的確にチームメイトへ伝えるコミュニケーション能力は、栃木が苦しい現状から脱却するために必要なのだ。

 これまで田臥が発してきた言葉は、正に今季のスローガンである”BREX MENTALITY”を象徴するもの。開幕早々から苦しい状況に直面しているものの、今の栃木には低迷から飛躍への軌道に乗る時間が十分に残されている。それを現実化させるには、BREX MENTALITYが浸透した一体感を構築していくしかない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事