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Bリーグ初代王者を目指す川崎のスパングラーは、エナジーとハッスルという才能で相手との違いをもたらす

青木崇Basketball Writer
NBLを制した昨季に欠けていた要素をチームにもたらすスパングラー(写真:築田純/アフロスポーツ)

カレッジ・フットボールの名門、ノートルダム大を長年率いたルー・ホルツは、"Work ethic is a talent."(仕事への熱意は才能である)と発言したことがある。「努力は才能に勝る」という言葉をよく見聞きするが、バスケットボールの試合でハッスルやエナジーでチームに活気を与えることを一貫してできるのは、ある種の才能だと個人的に思っている。そんな才能を持った選手をBリーグの中で選ぶならば、川崎ブレイブサンダースのフォワード、ライアン・スパングラーがNo.1だろう。

オクラホマ大でNCAAファイナル4を経験した後に川崎入りしたスパングラーは、自らがボールを持って得点を奪うタイプの選手でない。しかし、スペースを作るための動きやスクリーンをかけることなど、数字に出ない部分でオフェンスに貢献し、ここぞというタイミングで得点に絡める。コート上で見せるエネルギッシュなプレイ、特にリバウンドやルーズボール争いで強さを発揮することはチームを勢いづける一方で、相手にとって心身両面でダメージとなる。川崎の大黒柱であるニック・ファジーカスは、スパングラーがもたらすハッスルやエナジーを「もちろん才能だ。こういったことは教えられて身につくものじゃない。昨季のチームにはエナジーガイを欠いていた。彼がリズムを取り戻すことは、成功へのカギとなるね」と語る。司令塔の篠山竜青も才能と認めたうえで、スパングラーの存在が違いをもたらすというすでに認識を持っている。

「背は大きくないですけど、球際のだったり、ランニングプレイでNCAAでも活躍してきた選手なので、ニックにもない部分を持っているところでは、非常にバランスもいいですし、頼りにしています。20、30点稼いでくれる選手じゃないですけど、いいスクリーンをかけてのダイブやリバウンド、スペースに飛び込むというところで、そこにつられて辻(直人)やニックがノーマークになったり、来なければライアンがノーマークになるというちょっとしたアジリティー(機敏、軽快さ)が、非常にチームをうまく機能させる大きな要因の一つになっているので、本当に重要なワンピースになっていると思います」

1月28日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦で左ひざを故障しスパングラーは、約3か月間の戦線離脱を強いられた。4月22日のサンロッカーズ渋谷戦は久々の実戦ということもあって、試合終盤でもフィジカルに戦い切れる体力を取り戻す必要性が明らかになる。しかし、速攻のときにスペースを作るために一生懸命に走り、リバウンドなどペイント内の攻防でもアグレッシブなところは健在。「エナジー、ハッスル、リバウンドはチームにとって大きな要素だ」と話すスパングラーは、4月28日の横浜ビー・コルセアーズ戦で3本のダンクを決めるなど18点、12リバウンドで勝利に貢献。オフェンス・リバウンドを6本奪い、そのうちの3本は自身の得点へとつなげるなど、ハッスルプレイで存在感を示していた。ハッスルやエナジーは才能なのか? という質問をすると、「そう思う」と素直に答える。

高校時代のスパングラーは、スコアラーとして活躍していた。「周りにすばらしいスコアラーがいたから、ボールが来ても無理に得点する必要はなかった。ボールを持っていなくても得点できるといった違う方法を見つけ出したということさ」と、オクラホマ大のときに今のプレイスタイルが定着したという。バスケットボールは様々なスタッツを出すスポーツだが、勝敗については"intangible"(数字に出ない無形のもの)で決まることも多い。「チームのためにどんなことでもやる。いい試合だろうが悪い試合だろうが、ハッスルすることは自分でコントロールできる」と話すスパングラーは、"intangible"で他のチームとの違いをもたらす点で貴重な存在と断言できる。

ファジーカスという絶対的な大黒柱と辻という得点力のあるシューターを筆頭に、様々な役割をこなせる選手たちをそろえる川崎だからこそ、スパングラーがフィットしているのは明らか。「状態は90%、コンディションも悪くない。ゲームの感覚の部分がまだまだってところだ」と現状を語るスパングラーが、今後ハッスルとエナジーで存在感を増すことになれば、強い川崎はさらにパワーアップすることになるだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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