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世界に衝撃を!!! 激しい競争の下で入念に準備を進めるバスケットボールU19男子代表

青木崇Basketball Writer
世界と戦う意識の浸透を重視するU18代表 (C)Yoko Konagayoshi

"SHOCK THE WORLD!!!"

7月1日からエジプト・カイロで開催されるU19世界選手権は、日本が世界を驚かす絶好のチャンスだ。昨年のU18アジア選手権準優勝で手にした世界の舞台に向け、U19代表を率いるトーステン・ロイブルコーチは戦えるチーム作りに余念がない。昨年10月から行ってきた合宿すでに6回を数え、5月に東京、6月の沖縄では2試合のエキシビションマッチも含まれる。カイロ入りする前にはドイツに遠征し、最後の準備を進めることも決定済みだ。

今から3年前の2014年夏、日本はU17世界選手権の出場権を得たものの、インターハイ開催の影響によって開幕戦の前日に現地入りするまで、チーム練習まったくできないという準備不足で大会に臨んだ。結果は、開催国のUAEに勝っただけの1勝6敗。唯一のプラス材料は、八村塁がNCAAディビジョン1でプレイするきっかけになったことくらい。後にガバナンスの問題を理由に日本バスケットボール協会(JBA)を資格停止にしたFIBAのパトリック・バウマン事務総長は2014年12月に来日した際、”JBAから敬意を払われていないと感じたか?”という質問に対し、「日本のバスケットボール・ファミリーに共通したビジョンがないことを示す好例」と批判していた。

あれから3年、今回のU19代表はFIBAタスクフォースによって改革されたJBAから十分なサポートを受けている。東野智弥技術委員長はロイブルコーチとともに、チーム力を上げるために新たなタレント探しに奔走。4月の合宿からはアリゾナ州にあるピマ・コミュニティ・カレッジでプレイする194cmのガード、榎本新作を代表候補に選出した。今シーズン平均15.3点、FG成功率52.7%を記録し、今後NCAAディビジョン1の大学へ進む可能性を秘めている榎本の存在は、U18アジア選手権で得点源となっていた西田優大(福岡大附大濠高→東海大)、杉本天昇(土浦日本大高→日本大)とともに、オフェンス面でチームを牽引する存在になるかもしれない。「マーフィーはペリメターだし、同じポジションに天昇と三上(侑希:中央大)さんもいるから、競争は激しいです」と西田が語るように、ポジションごとに高いレベルで競い合う環境で合宿は行われている。

西田優大 (C)FIBA.com
西田優大 (C)FIBA.com

ポジション争いという点では、ポイントガードが最も激しい。昨年のインターハイとウインターカップで福岡第一高の二冠達成に大きく貢献した双子の重冨周希と友希(ともに専修大)について「あのサイズでは相当いい選手」と語るように、ロイブルコーチは合宿で見るたびに驚かされている。2年前のU16、昨年のU18という2つのアジア選手権で先発ポイントガードを務めた伊藤領(開志国際高)がひざの故障でメンバーから外さざるをえない状態は、チームにとって大きな痛手だ。重冨兄弟のメンバー入りが高まったという見方をできる一方で、ロイブルコーチがサイズを重視した場合、U18アジア選手権で伊藤の控えだった水野幹太(福島南高→法政大)にとってはチャンスとなる。また、シューティングガードが本職の榎本をポイントガードで起用しても決して驚かない。

日本が世界と戦ううえで最大の懸念となるのは、身長で劣るフロントラインだ。昨年U18で控えセンターだったシェーファー・アヴィ幸樹は204cmとサイズがあり、アメリカ・ニューハンプシャー州にある強豪、ブリュースター・アカデミーでプレイ。バスケットボールを初めてからまだ3年目と経験こそ少ないが、渡米した1年間でスキルアップとフィジカルの強化が進んだことは、チームにとって大きなプラスである。

「スターターはみんなディビジョン1コミットだし、ベンチから出る子もトップレベル。練習やオフシーズンのピックアップゲームといったところが、自分にとって勉強になった。ポジション争いをしていたのが、去年U17の世界選手権でリトアニア代表の先発センターとして出ていた。その子はすごくうまく、世界レベルの相手だったので、(自分の)レベルアップにつながったと思います」

ブリュースターでの1年をこう振り返るシェーファーは、奨学金がもらえないウォークオンといえ、デューク大やノースカロライナ大と同じアトランティック・コースト・カンファレンス所属のジョージア工科大にリクルートされての入学が内定。3月の合宿からチームに合流したシェーファーについて、ロイブルコーチは次のように語る。

シェーファー・アヴィ幸樹 (C)FIBA.com
シェーファー・アヴィ幸樹 (C)FIBA.com

「FIBAアジア以来初めての参加で、ちょっとリズムが崩れているかなと思った。半年間来ていなかったが、チームにいい結果をもたらした。みんな好かれるなど人気もあるし、賢いですからシステムも忘れていない。2年半前はサッカーをやっていたわけですから、この短期間でこれだけの選手、このレベルになるのはなかなかいない。まだバスケットボール歴3年目ですから、小学4年生みたいなもの。アメリカでの経験が相当生きていると思うし、ブリュースターでチャンピオンシップを獲得したから、自信を持っているんじゃないかと思う。イランでやった時よりも相当うまくなっている」

サイズということでは、八村塁(ゴンザガ大)が5月の合宿から参加予定というのも明るいニュースだ。学業優先でU19世界選手権に出場できないのでは? という懸念も残されているが、U17世界選手権で将来のNBA選手たちを揃えたアメリカ相手に25点を奪うなど、高い身体能力とスキルを武器できる選手なのは明らか。世界に衝撃を与えるためには八村の存在が必要であり、ロイブルコーチも「八村が加わってくれると、10点は違ってくる」と話す。リバウンド争いで圧倒されないようにするには、八村とシェーファーによるフロントラインがベストだろう。

トーステン・ロイブルコーチ (C)FIBA.com
トーステン・ロイブルコーチ (C)FIBA.com

スペインとの初戦までに残された時間は2か月強。国際試合ならの高さやフィジカルの強さに、日本は順応していかなければならない。3月の合宿では関東の大学3校相手に全勝したといえ、ロイブルコーチは選手たちに満足させないよう厳しいコーチングをしている。それは、「どのレベルで準備しているかといえば、プロ相手のバスケットボールです。スペインは全員がプロですし、カナダは8人NBAドラフトで指名される可能性があると聞いているから、彼らもほぼプロ選手。大学の1部所属チームに勝って満足しているようじゃダメ」という言葉でも明らか。マリを含めたグループ戦3試合で全敗すれば、ファイナル・フェーズの1回戦でアメリカになす術なく大敗という3年前と同様の結果が予想できてしまう。

グループ戦で勝利を手にすることは、準々決勝進出への希望をもたらし、U19代表が世界の舞台で戦えることを証明できれば、JBAに対するFIBAやIOCの印象は確実によくなる。その流れからフル代表が2019年のワールドカップ出場を果たすと、開催国として東京五輪でプレイできるチャンスは高まるはずだ。今年のU19世界選手権は、アンダーカテゴリーの世界大会ということ以上に、日本のバスケットボール界にとって大きな意味がある。だからこそ、U19代表には”世界に衝撃を!!!”与えるような活躍を期待したい。彼らはその可能性を秘めている…。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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