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バスケットボール選手やコーチにとって、英語ができることはメリットでしかない(2)

青木崇Basketball Writer
高校時代にガードコンビを組んだ伊藤と松井 (C)Takashi Aoki

バスケットボールと学業を両立する習慣を身に助けた松井啓十郎と伊藤大司は、モントロス・クリスチャン・スクールを卒業後、NCAAディビジョン1でプレイする機会を得た。大学は当然学業優先だけに、遠征先で授業を受けるだけでなく、テストもあったという。試合が金曜日と土曜日と決まっているアイビーリーグのコロンビア大に進んだ松井は、日曜日に勉強を徹底的にやっていた。ポートランド大でプレイした伊藤は、移動の飛行機内で予習をし、遠征先のホテルでチューター(大学の個別指導教員)についてもらいながら勉強するだけでなく、積極的に取り組んでいるという姿勢を見せるようにしていた。これは、アメリカで生きていくために必要な存在をアピールするための手段であり、これも正にコミュニケーション。伊藤は次のように説明する。

「先生も鬼じゃないから、フロアで頑張っているというのをわかっているって思うと、(レポートの)提出時期を延期してくれたりとか、この宿題は”こうって”こっそり教えてくれるというのがあった」

現在NCAAでプレイする渡邊雄太(ジョージ・ワシントン大)と八村塁(ゴンザガ大)は、前編の(1)で書いたように日本の高校を卒業してからアメリカに渡った。しかし、高校をアメリカに過ごした2人にしてみると、その3、4年で大きな違いがあるという思いは強い。「ある意味、塁はもうちょっと早く行っていれば、英語の壁が今でなく3年前に来ていて、大学に入ってからはスムーズになっていたかもしれない。今のゴンザガでローテーションに入っていたかもしれないよね」という松井の言葉は、英語をできることがバスケットボール選手にとって有益であることを示すもの。日本を出るならば、早いほうがいいことは、2人の中にある共通認識。松井はこう続ける。

「一番の問題は勉強とコミュニケーションだと思う。アメリカに行って自己アピールをしなければいけないというのが、僕たちは最初わからなかった。自分で発言しなければならない、自分はこう思っていると言わないと、相手は全然振り向いてくれない。そういうことも、大学に行ったらどんどん必要になってくるわけだから」

伊藤も「自分からコミュニケーションをとることは、チームメイトやコーチに対してすごく大事。僕はめちゃおしゃべりというか、自分から話に行くのが昔から好きだった」と、子どものころから自己主張する習慣を身につけることを勧める。日本でもできる一例は、チーム内でリーダーシップを発揮することであり、アメリカへ留学したいのであれば、必ずやっておきたい予習と言えよう。自己アピールということに焦点を当てると、2人はあることを習慣にしていた。

モントロスではケビン・デュラントとプレイした伊藤 (C)Takashi Aoki
モントロスではケビン・デュラントとプレイした伊藤 (C)Takashi Aoki

「高校のときに僕もKJも意識してやっていたのが、ドリルをやるとき常に一番前に行くんですよ。そのときに目立つわけじゃないですか、毎回一番だなということで。アピールの一つということで。でも、そのとき英語がわからなかったら一番に行けないわけじゃないですか。そうじゃないと“邪魔するな”ってなるし、見てから最後のほうでやるのは、アピールのチャンスが少ない。英語がわかっていて一番に行く、”あのアジア人また一番や”っていうアピールというのは、すごく大事な気がします。アメリカで生きていくには。英語をしゃべれるのはもちろんですけど、理解できるというのがそういった部分で大事かなと思います」(伊藤)

「大司がだいたい一番。自分はあまり先頭のほうじゃなかった。でも、授業は絶対前に座れと高校も大学も言われました。絶対一番前に座って、”とりあえずアピールしろよ、後ろに座るのはよくない”と」(松井)

「一番でやるということは、理解していないとできないじゃないですか。一番でやるからには聞いて理解しなければというのがある」(伊藤)

「一番目にやる人が後にやる人のトーンをセットする(雰囲気を作る)。そいつが一生懸命やれば後が付いてくるけど、そうでないとダラダラしてしまう。そういう意味で、一番前に行くということはプレッシャーじゃないですけど、自分がちゃんとやらなければという姿勢を練習から取れることになる」(松井)

松井は2005年にNIKEフープサミット出場 (C)Takashi Aoki
松井は2005年にNIKEフープサミット出場 (C)Takashi Aoki

英語でのコミュニケーションをしっかりできれば、ちょっとしたことでNBA選手と交流する機会があるのもアメリカの魅力。松井はニューヨークに遠征中のダーク・ノビツキー(マーベリックス)がコロンビア大で練習している機会に遭遇し、共通の話題を見つけて自分から声をかけた。

「あっちから声をかけてくることはないから、ノビツキーのところへ行って、(NIKE)フープサミットの世界選抜に選ばれていて、コーチがイタリアの名将だった人で、僕も同じ人でやったことがあるよという共通の話題から入り、それで写真を撮った。そのあと一人残ってシューティングをしていたから、シューティングを見ていていたという感じでした」

伊藤が4年間過ごしたポートランドは、NBAのブレイザーズが本拠地を置く。夏の間、ダミアン・リラードら多くのNBA選手がワークアウトをやっており、ピックアップゲームを一緒にやることもあった。もちろん、これはバスケットボールのプレイだけでなく、英語できちんとコミュニケーションできるから得られる機会。「ピックアップゲームやドリルを見ていても、何を言っているかがわかるじゃないですか? それだけでもだいぶ違う」と言う伊藤は、NBA選手たちがやっていることを自身のワークアウトに取り入れることをしていた。

20分弱に渡る取材の最後に、バスケットボールをもっと頑張りたいという小・中学生に対し、英語を学ぶことが重要さを改めて伝えてもらった。2人が経験してきたことは、日本バスケットボール界の今後に役立つすごく貴重なものであることを、多くの皆さんにわかっていただければ幸いである。

「英語ができるとバスケだけじゃなくて、人生において英語ができたほうがメリットはすごくある。それこそ旅行へ行ったときに英語が使えたほうが、いろいろなことが楽になるし、英語がしゃべれることでのデメリットは何もない。そういう意味で英語は絶対役に立つと思う。サラリーマンになるのか公務員になるのかわからないにせよ、英語は勉強しておいたほうがいいし、バスケやるんだったら、いつかアメリカに行きたいという思いが出たときにすぐ行動に移せる。だから、英語はしっかり勉強しておいたほうがいいかなと思います」(松井啓十郎)

「英語がわかっていて海外に留学し、バスケットボールをやるのであれば、チームスポーツだからコミュニケーションが大事。特にアメリカは自分を主張しなければならない国で、バスケをやっていくうえでは、ある程度自分で喋ることができて、”もっとこうしてくれ””オレはこうできる”というアピールポイントとして必要になってくると思う。あとは、実際アメリカに行って、すぐそこにNBA選手が練習していたり、ピックアップゲームやワークアウトをしたりとかいう環境がいっぱいあるわけじゃないですか。そこでしゃべれることによって、普段体験できないようなことができて、そいつに直接行って”あのドリルはどうやったのか?”とか、英語がしゃべれるからこそできることと、自分から積極的にコミュニケーションを取りに行く性格があるからこそできる価値だと思うんです。そういう意味でも英語力とコミュニケーション能力、自分から積極的に行くという要素というのは、すごく大事かなと思います」(伊藤大司)

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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