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なぜ那須川天心は「KOで勝つ!」と記者会見で口にしなかったのか?1・23大阪で世界ランカーと対戦─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
来年1月、プロボクシング3戦目に挑む那須川天心(写真:山口裕朗/アフロ)

初めての世界ランカーとの対峙

「前回、メキシコの地域チャンピオンにしっかり勝ってた。今回は世界ランカーとの闘いですが、圧倒的な差をつけて勝ちたい。左手の骨折も、もう回復している。さらに成長した姿を見て欲しい」(那須川天心)

12月14日、東京ドームホテルで開かれた記者会見で『Prime Video Presents Live Boxing 6』の開催が発表された。日時、場所、主要対戦カードは以下の通り。

■2024年1月23日(火)、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)

【WBA&WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ/12回戦】

寺地拳四朗(王者/BMB)vs.カルロス・カニサレス(WBA1位/ベネズエラ)

【WBA世界フライ級タイトルマッチ/12回戦】

アルテム・ダラキアン(王者/ウクライナ)vs.ユーリ阿久井政悟(1位/倉敷守安)

【8回戦/54.88キロ契約】

那須川天心(帝拳)vs.ルイス・ロブレス(WBA世界バンタム級13位/WBO世界同級14位/メキシコ)

【8回戦/54.5キロ契約】

与那覇勇気(真正)vs. 辰吉寿以輝(大阪帝拳)

メインに据えられるのは、おそらく寺地の王座防衛戦、ダラキアンvs.阿久井、与那覇vs.辰吉は、11月15日の大会が消滅したためにスライドした形だ。そして、このイベントでもっとも注目が集まるのは、やはり那須川天心のプロボクシング転向3戦目であろう。

デビューから2連勝し、今回は世界ランカーとの対峙となる。相手のロブレスは那須川と同じ25歳で、15勝(5KO)2敗1分けの戦績を誇る。右構えのファイターでKO率は高くないが、終盤にペースを上げることができるスタミナ十分なタイプ。9月に対戦したルイス・グスマン(メキシコ)よりも格上の相手と拳を交えることになる。

9月18日、東京・有明アリーナでのプロボクシング2戦目、那須川はメキシコ王者ルイス・グスマンからダウンを奪い圧勝した(写真:山口裕朗/アフロ)
9月18日、東京・有明アリーナでのプロボクシング2戦目、那須川はメキシコ王者ルイス・グスマンからダウンを奪い圧勝した(写真:山口裕朗/アフロ)

自分が納得のいく闘いをしたい

記者会見でメディアからの質問に答える那須川を見ながら、ひとつ気になることがあった。それは「KOで勝つ」あるいは「倒して勝ちたい」とは一度も口にしなかったことだ。

2戦目のグスマン戦の前に彼は、こう話していた。

「今回は倒します。ただ(KOを)意識すると固くなってしまうので自然体でやれとチームからは言われている。それでも自分の心の中では倒しきりたい思いが強い」

だが、今回はそうは言わなかった。

「倒して勝ちたい」ではなく「圧倒的な差をつけて勝ちたい」に言葉が置き換えられていた。

それは何故か?

おそらくは、周囲の声に惑わされることなく自分が納得のいく闘いをしたいからだろう。

髪をゴールドに染め記者会見に登場した那須川天心。「(前戦で傷めた)左手は回復した。さらに成長した自分をみせる」と自信をのぞかせた(写真:SLAM JAM)
髪をゴールドに染め記者会見に登場した那須川天心。「(前戦で傷めた)左手は回復した。さらに成長した自分をみせる」と自信をのぞかせた(写真:SLAM JAM)

与那覇勇気とのデビュー戦、グスマンとの2戦目、いずれも那須川は相手を圧倒し文句なしの判定勝利を収めた。上々のスタートだ。しかしファンは欲深い。だから言う。

「KOで魅せてくれよ」と。

那須川も、その期待に応えたい。だが目指すボクシングとのギャップも感じている。彼の持ち味は第1にスピード、そして目の良さを活かしてのディフェンス力、3つ目がキレのあるパンチを繰り出すタイミングだ。

まずは相手を圧倒する。その先にKOできればと考えるのが良策だろう。なのに「倒さなければ」と考えてしまうと動きに力みが生じ自分の持ち味を殺しかねない。

だから、那須川と彼の陣営は「圧倒的な差をつけて勝つ」ことを目指すと決めたのではないか。

ボクシングという競技において、倒すことがすべてではない。すべてのラウンドで相手を圧倒して魅せてもいい。そのやり方が那須川には適しているように思う。浪速の舞台での3戦目を楽しみに待ちたい。

また会見では来年2月24日、東京・両国国技館『Prime Video Presents Live Boxing 7』の開催、そして主要対戦カードも以下の通り発表された。

【WBC世界バンタム級タイトルマッチ/12回戦】

アレハンドロ・サンティアゴ(王者/メキシコ)vs.中谷潤人(前WBO世界スーパーフライ級王者/M・T)

【WBA世界バンタム級タイトルマッチ/12回戦】

井上拓真(王者/大橋) vs. ジェルウィン・アンカハス(6位/フィリピン)

【WBO世界スーパーフライ級王座決定戦/12回戦】

田中恒成(1位/畑中)vs.クリスチャン・バカセグア(2位/メキシコ)

いずれのイベントもテレビ生中継はなく『Prime Video』で生配信される。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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