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朝倉未来は、本当に引退してしまうのか? YA-MANにKO惨敗した直後の心理を考察─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
YA-MANと闘い1RKOで敗れた朝倉未来(写真:RISE CREATION)

開始から僅か77秒での惨劇

「まったく記憶がなくて、自分が何者かもわからない状態で朝倉未来を調べて客観的に見て、これはもう引退ですね。何でこんな自分に沢山のファンがいるかもわからない状態ですが、長い間本当に格闘技にはお世話になりました。ありがとうございました。いまの気持ちです」

11月19日夜、朝倉未来(JAPAN TOP TEAM)がインスタグラムで現役引退を表明した。『FIGHT CLUB』(東京都内/場所非公開)でYA-MAN(TARGET SHIBUYA)とOFG(オープンフィンガーグローブ)着用でのキックボクシングルールで対戦し、1ラウンドKO負けを喫した直後のことだ。その後、自身のYouTubeチャンネルでも同様の発言をしている。

試合は、一方的な展開となった。

YA-MANが開始早々から猛然と攻める。一気に距離を詰め左右のパンチを振るっていく。これに朝倉は対応できずYA-MANに試合のペースを握られコーナーに追い込まれた。そして、右強打をまともに喰らってしまう。

ダウン!

朝倉は何とか立ち上がるも直後に追撃を受け再度倒され、ここでレフェリーが試合を止める。開始から僅か77秒での惨敗だった。

YA-MANの右強打が朝倉の顎にクリーンヒット。この一撃で勝負は決した(写真:RISE CREATION)
YA-MANの右強打が朝倉の顎にクリーンヒット。この一撃で勝負は決した(写真:RISE CREATION)

2度目のダウンでレフェリーが試合をストップ。ロープにもたれるようにして倒れる朝倉と両手を広げ勝利を喜ぶYA-MAN。この試合の模様はAbemaで生配信された(写真:RISE CREATION)
2度目のダウンでレフェリーが試合をストップ。ロープにもたれるようにして倒れる朝倉と両手を広げ勝利を喜ぶYA-MAN。この試合の模様はAbemaで生配信された(写真:RISE CREATION)

今回の試合は朝倉の本職であるMMA(総合格闘技)ルールで行われたわけではない。前述した通り、キックボクシングルールでの闘い。この分野においてはYA-MANがチャンピオン(RISE OFG -65キロ級王者)であり、朝倉はキック初心者。よって、十分に予想できた結末なのだが、知名度の高さ故に「朝倉が勝つ」と信じて疑わぬファンも多く、そのためショッキングな結果に映ったということだろう。

朝倉は必ずリングに戻ってくる

YA-MANが勝って、朝倉が負けた。

だがこれは、YA-MANが格闘家として朝倉を上回ったことを示すものではない。フリーファイトにより近いMMAルールでの闘いであれば勝敗が逆になっていた可能性が極めて高いからだ。

むしろ逆に、キックボクシングルールでの試合で王者YA-MANが負けていたなら、『RISE』の威信にかかわる問題に発展するところだった。

さて、朝倉は本当に引退してしまうのか?

それは、無いだろう。

試合前、自信満々だった朝倉にとってKO負けのショックは大きかったのだろうが、

今回のキックルールでの試合は「興味本位」だったはず。

調整期間もほとんどない状況下でオファーを受け、新イベント『FIGHT CLUB』を盛り上げようとの想いも手伝いリングに上がった。その試合を自身の格闘技ラストファイトにして良いはずがなかろう。

ファイターが負けたショックから「引退」を口にするのはよくあること。

時間をおいて冷静になると気持ちは変わる。

(このままでは終われない)

そんな想いが、心底から沸き上がってくる。

朝倉の引退発言は、試合直後の記憶が完全に戻らぬ状況下でのものと捉えるべきだろう。

「30歳で引退する」

そう一度は宣言しながら好きな格闘技から離れられなかった朝倉が、このままグローブを置くとは思えない。

少し休養時間は必要だろうが、必ずリングに戻ってくる。実業家としても成功しているから「もう闘わなくてもいい」とはならない。

なぜならば朝倉未来は、闘いの舞台でしか味わえない快感を知ってしまった漢だから。

再起を待つ─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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