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『11・4 RIZIN』鈴木千裕は王者ケラモフ相手に「アゼルバイジャンの奇跡」を起こせるのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
敵地に乗り込み王者ヴガール・ケラモフに挑む鈴木千裕(写真:RIZIN FF)

波乱万丈なストーリー

RIZIN初の海外イベント開催が、目前に迫っている。

11月4日、アゼルバイジャンの首都バクー、ナショナルジムナスティックアリーナ『RIZIN LANDMARK 7』。メインカードはRIZINフェザー級タイトルマッチ、王者ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)vs.鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)だ。

7月30日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.2』で朝倉未来(トライフォース赤坂/現・JAPAN TOP TEAM)に161秒で一本勝ち、フェザー級王座にも就いたケラモフにとって、今回は凱旋試合。アゼルバイジャンにもライブ配信される中、RIZINのベルトを腰に巻いたことで国内での人気も急上昇、いまや彼は”時の人”となっている。

7月30日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.2』で朝倉未来に完勝したヴガール・ケラモフ。クレベル・コイケが減量失敗で手放したフェザー級のベルトを腰に巻いた(写真:RIZIN FF)
7月30日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.2』で朝倉未来に完勝したヴガール・ケラモフ。クレベル・コイケが減量失敗で手放したフェザー級のベルトを腰に巻いた(写真:RIZIN FF)

そんな彼に挑む鈴木も今年に入ってから注目度が格段にアップ、浮き沈みの激しい波乱万丈ストーリーでファンを魅了している。

一昨年11月から5連勝した実績が認められ、6月の『RIZIN.43』(6月・札幌)でクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)を相手にタイトルマッチに挑んだ。しかし、腕ひしぎ十字固めを決められ無念の敗北(クレベルの契約体重オーバーにより正式記録はノーコンテスト)。

これで、積み上げてきたものが一気に崩れたかと思われたが、その僅か1カ月後、鈴木に予期せぬチャンスが舞い込んだ。

「パトリシオ・ピットブル(ブラジル)と闘わないか」

7月『超RIZIN.2』数日前の電撃オファーだった。

RIZINならではの無茶ぶり。調整の時間もなく普通なら断るところだが、鈴木はオファーを受けた。

ピットブルは言わずと知れたBellatorのフェザー 級王者。35勝(23KO&一本)7敗の戦績を誇り、昨年大晦日の『RIZIN.40』では、鈴木を秒殺したクレベルを破ってもいる。

鈴木に勝ち目はないと思われた。

ところが、スーパー・アップセット(大番狂わせ)。開始早々からピットブルと激しく打ち合い殴り倒したのだ。これには日本のみならず、世界の格闘技ファンが驚いた。

起死回生─。

クレベルに敗れドン底に落ち一度は現役引退も考えた鈴木が、36日後に世界のトップ戦線に躍り出たのである。この勝利により彼は再びRIZINフェザー級王座挑戦の機会を得た。

7月30日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.2』のリングでパトリシオ・ピットブル(左)を1ラウンド2分32秒、パンチでKO、世界を驚かせた鈴木千裕(写真:RIZIN FF)
7月30日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.2』のリングでパトリシオ・ピットブル(左)を1ラウンド2分32秒、パンチでKO、世界を驚かせた鈴木千裕(写真:RIZIN FF)

明確な鈴木千裕の作戦

さて今回の試合だが、大方の予想は「ケラモフ圧倒的優位」。

私の見立ても同じである。フィジカル、テクニック等の総合力にかなりの開きがある。数字にすれば「95‐5」でケラモフ優位だ。

それでも鈴木は、こう話す。

「(ケラモフには)穴がない。打撃も組みも寝技もできるバランスの良い選手でトータル的に秀れている。それが(ケラモフの)魅力であり強さなんです。

でも、突出しているものは何もない。

俺には、突出しているものがある。打撃で倒しますよ。ケラモフは、どうせタックルしか狙ってこない。俺とは打ち合ってきません。それでもチャンスを見出して勝ちます!」

鈴木に気負いはない。

なぜならば、当日の試合で自分がやるべきことが明確にイメージできているからだ。ケラモフは開始早々にタックルを仕掛けてくる。まず、それを切って凌ぐ。その後、ケラモフは打撃を出しながら組みつくチャンスを探ってこよう。この局面で強烈なパンチを見舞うことに鈴木は集中する。

一発を当てて、活路を開く…戦法に迷いがない。

クレバーだ。そこにしかストライカーの勝機がないことを鈴木は理解している。アンダードッグに据えられたファイターが「一発勝負」をかける試合は、いずれが勝とうと短期決着となる可能性が極めて高く、且つスリリング。楽しみではある。

9月14日、アゼルバイジャンで開かれた対戦発表記者会見で鈴木千裕がヴガール・ケラモフを挑発、乱闘騒ぎとなった(写真:RIZIN FF)
9月14日、アゼルバイジャンで開かれた対戦発表記者会見で鈴木千裕がヴガール・ケラモフを挑発、乱闘騒ぎとなった(写真:RIZIN FF)

ただ、鈴木の策がはまる可能性は「95-5」の5%。

ケラモフは、ピットブルのように打撃戦につき合わない。故に展開は向かない上、ケラモフの「組みつきの巧さ」と「フィジカルの強さ」は鈴木の想像以上であろう。さらに敵地での闘い。ベットするならオッズがかなり低くても、やはりケラモフだ。

それでも圧倒的不利な条件を覆し勝利したなら、鈴木千裕は『RIZIN』の枠を超え世界のスターファイターへと昇華しよう。圧倒的不利な闘いは、千載一遇のチャンスでもある。

さあ、やれるか「天下無双の稲妻ボーイ」─。

「アゼルバイジャンの奇跡」を起こせるか?

<『RIZIN LANDMARK 7』主要対戦カード>

上記の3カードを含め全10試合が予定されている(提供:RIZIN FF)
上記の3カードを含め全10試合が予定されている(提供:RIZIN FF)

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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