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なぜ「朝倉海vs.皇治」は行われなかったのか?『RIZIN LANDMARK 6』─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
「愛知を盛り上げたかった、残念です」と話した朝倉海(写真:RIZIN FF)

『いいとも!おじさん』の無茶ぶり

「謝りたいことがあります。うちの『いいとも!おじさん』が詐欺をして申し訳ありません(笑)。闘えなくて、ごめんなさい。でもさすがに1週間前に(朝倉)海クンと試合しろはエグイ。死ぬて(笑)。MMAを本気でやってます。大晦日、楽しみにしていてください!」(皇治)

「本当は僕が試合をして地元の愛知県を盛り上げたかったんですけど、残念です。皇治選手もこの無茶ぶりなオファーを最後まで考えてくれて…。大晦日までに仕上げますのでタイトルマッチ(RIZINバンタム級王者フアン・アーチュレッタへの挑戦)、お願いします!」(朝倉海)

10月1日、ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)『RIZIN LANDMARK 6』第8試合終了後に皇治(TEAM ONE)、その後の休憩時間を挟んで朝倉海(トライフォース赤坂)がケージに登場。それぞれがマイクを手にし観衆の前で思いを話した。

結局、朝倉海vs.皇治は行われなかった。

『いいとも!おじさん』とはRIZIN榊原信行CEOのことである。

『RIZIN LANDMARK 6』の1週間前、9月24日さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.44』のリング上から榊原CEOが、皇治に電話をかけた。そこで「名古屋の大会がピンチなんです。助けてください。朝倉海と闘って欲しい」と公開オファー。

諸々のやり取りの後に榊原CEOは言った。

「来週、名古屋に来てくれるかな?」

皇治は、これにつき合った。

「いいとも!」

(無茶なことをやるなぁ)

多くのファンはそう感じたはずだ。と同時に、それでも朝倉海vs.皇治が実現すると。「RIZINなら、これもあり得る」と私も思った。

しかし、このカードは実現しなかった。

なぜか?

「いいとも!」とは言ったものの、熟考の末に皇治が断ったからである。

普通に考えれば当然だし、それは良い決断だったと思う。なぜならば現時点で両者が闘うことに意味が見出せないから。それも準備期間もないままに。

第8試合終了後にケージに入った皇治は「MMAを本気でやっています。大晦日を楽しみにしていてください」と話した。左はRIZIN榊原信行CEO(写真:RIZIN FF)
第8試合終了後にケージに入った皇治は「MMAを本気でやっています。大晦日を楽しみにしていてください」と話した。左はRIZIN榊原信行CEO(写真:RIZIN FF)

皇治がオファーを断った理由

朝倉も、皇治も榊原CEOからの無茶ぶりに悩んだはずだ。

二人にはともに「RIZINの舞台に育ててもらった」との思いが強くある。恩も感じている。だから、コンディションが万全ではないが朝倉は「皇治さんとなら」とオファーを承諾した。

(大会を救うために出なきゃいけないか)

そう皇治も思ったことだろう。

しかし、この闘いに勝負論はない。これからMMAに挑戦しようとしている皇治が元RIZIN王者の朝倉に勝てる可能性は極めて低い。残酷ショーもあり得る。いまの段階で組まれるべきカードではないのだ。

「観客が喜ぶなら何でもやるよ」とピエロになってしまっては、先が知れている。そんなつもりでMMAファイターに転向したのではないし、いまトレーニングを指導、協力してくれている仲間たちを裏切ることもできない。

皇治が、オファーに応えなかった理由は、ここにあったと思う。だからファンの前で「MMAを本気でやってます」と強調した。

プロモーターとして「イベントをより充実させたい、ファンの期待に最大限に応えたい」と無茶ぶりをした榊原CEOも、最終的には皇治の気持ちを尊重した形だ。

「どうしても勝ちたい!」。アラン
「どうしても勝ちたい!」。アラン"ヒロ"ヤマニハ(後方)に判定で敗れるも、所英男は最後まで諦めずに闘い抜く。仲間の金原正徳に続けずも、その奮闘が観客の心を熱くさせた(写真:RIZIN FF)

「カード編成が弱い」

そうも言われた『RIZIN LANDMARK 6』だが、終わってみれば見応え十分な大会だった。トップクラスの人気を誇る選手の出場はなく派手さは欠いたが、試合内容で魅せた。

メインでは、所英男(リバーサルジム武蔵小杉 所プラス)がアラン”ヒロ”ヤマニハ(ブラジル/ボンサイ柔術)に敗れ涙し、セミファイナルに登場した太田忍(パラエストラ柏)は、RIZIN初登場の元修斗王者・佐藤将光(坂口道場一族/FightBase都立大)の前にスプリット判定で散った。喜哀コントラストがくっきりと浮かび上がる。

「絶対に負けたくない」と最後までファイターたちが死力を振り絞っての闘い、それらは観る者の心を十分に熱くさせてくれた。結果的に朝倉海vs.皇治は実現しなくてよかった。闘う両者のモチベーションが上がり切らない試合には、何処か痛々さが漂うから。

さて、朝倉海と皇治だが、次戦はともに大晦日のリングとなろう。

朝倉は、アーチュレッタとのタイトル戦。皇治のMMAデビュー戦の相手は芦澤竜誠(フリー)か。

猛暑が続いたが、10月に入り尾張の夜は肌寒かった。アッという間に大晦日はやって来る。早めのカード決定、発表を望みたい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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