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朝倉海vs.皇治は「是」か「否」か? 10・1名古屋『RIZIN LANDMARK 6』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
10・1名古屋大会への出場が濃厚となった朝倉海(写真:RIZIN FF)

朝倉海が『RIZIN.44』リング上に

「名古屋(10月1日、ドルフィンズアリーナ『RIZIN LANDMARK 6』)やばいです。RIZINを8年やってきて、いま一番困っています。海、助けてください」(RIZIN榊原信行CEO)

「やばいっすね、名古屋。大丈夫ですか?」(朝倉海/トライフォース赤坂)

「海が試合をしてくれるしかないんです」(榊原)

「え─っ(笑)」(朝倉)

「海が(いまの状態でも試合を)やれるアイディアがあります」(榊原)

9月24日、さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.44』第7試合終了後、休憩時間前にリングに上がった榊原CEOと朝倉のやり取りである。

また何か寸劇が始まったのかと思っていると、観る者の心の内を察してか榊原CEOが言う。

「出来レースではないんです、これはガチなんです。みんなの力も借りて、この場で口説きたい男がいます」

その後、榊原CEOはスマートフォンを手にした。

一体、何なのか?

観衆の前で皇治に電話をかけるRIZIN榊原信行CEO(左)。朝倉海は、笑みを浮かべながら見守る(写真:RIZIN FF)
観衆の前で皇治に電話をかけるRIZIN榊原信行CEO(左)。朝倉海は、笑みを浮かべながら見守る(写真:RIZIN FF)

榊原CEOが電話をかけた相手は皇治(TEAM ONE)だった。

受信した皇治は、福井にいてフットサルの解説をしていたらしい。

「皇治、本当にピンチなんだ。助けて欲しい」

そう懇願し、朝倉海との試合をオファーする。諸々のやり取りの末に、榊原CEOが言う。

「来週、(名古屋に)来てくれるかな?」

皇治は、お決まりの言葉を口にした。

「いいとも!」

朝倉が笑いながら言う。

「相手にならないですよ。ぶっ壊れちゃうと思います。皇治さん、ステロイドを打って出てきてください」

これにより、ルール、契約体重も未定ながら10・1『RIZIN LANDMARK 6』での「朝倉海vs.皇治」が内定した。

同大会は、迷走していた。

ケージサイド最前列の席を33万円と高額設定するも、なかなかメインカードが決まらない。おそらくは人気ファイター平本蓮(剛毅會)の出場を見込むも、それがままならなかったのだろう。

メインに据えられていたのは、井上直樹(キルクリフFC)vs.太田忍(パラエストラ柏)。ところが井上の病気(右顎下腺唾石症)欠場で、このカードも流れ、代役として佐藤将光(坂口道場一族/FightBase都立大)が太田と対戦することになった。

「ちょっとマッチメイクが弱すぎやしないか」

そんな声がファンから上がる。

困り果てた榊原CEOが知恵を絞り、「朝倉海vs.皇治」という常識外れのカード実現に乗り出したというわけだ。

4月・大阪『RIZIN.41』で芦澤竜誠に敗れ引退を口にした皇治。その後に撤回しMMAファイター転向を表明した。その初戦が朝倉海との対峙になるのか(写真:藤村ノゾミ)
4月・大阪『RIZIN.41』で芦澤竜誠に敗れ引退を口にした皇治。その後に撤回しMMAファイター転向を表明した。その初戦が朝倉海との対峙になるのか(写真:藤村ノゾミ)

「競技観点」と「興行観点」

さて、「朝倉海vs.皇治」は、是か否か?

賛否両論が湧き上がっているが、競技観点からは明らかに「否」である。

階級も異なるが、まずはMMAファイターとしての実力に開きがあり過ぎるからだ。朝倉は元RIZINバンタム級王者であり、いまもトップの一角、対して皇治は戦績31勝(10KO)ながら18敗を喫している元キックボクサーでMMAファイトは未経験。

ボクシングに譬えて言えば、日本チャンピオンと、これから4回戦でデビューする選手が対戦するようなもの。

朝倉の膝の回復具合は気になるが、どちらが強いかは明らかで、そこに勝負論は存在しない。

だが、興行観点からは「是」なのかもしれない。

実力の差はあれど、二人はともに人気選手。彼らが登場するとなればイベントの注目度は高まる。本来なら闘うはずがない人気選手二人が対峙するなら、それはなおさらだ。

実際、「朝倉海vs.皇治」が実現した時、「そんな勝負論のない試合は観ない」とはならない。

(何が起こるのか?)

そう興味を掻き立てられケージ内を凝視するのである。

そもそも『RIZIN』は、『UFC』『ONE』などのような実力偏重の格闘技イベントではない。もちろん、タイトルマッチを中心としたシリアスなファイトが主流だが、一方で話題性、エンタテインメント性の高いカードも組み独自の世界を築いてきた。

『PRIDE』の流れを汲んでいる『RIZIN』は、世間からの注目が集まるとあれば常識外のこともやる。本職はタレントのボビー・オロゴンがリングに上がることもあれば、三浦知良の息子・孝太のデビュー戦も行う。珠玉のキックボクサー、総合格闘家をボクシングルールの下、フロイド・メイウェザーに差し出しもする。

競技のヒエラルキーを重視する者は鼻白むが、これが『RIZIN』の魅力でもあるのだ。その認識においては「是」なのであろう。ただ、この一線だけは守られる。

リング及びケージ内で行われるのはリアルファイトであること─。

『RIZIN.44』の後、朝倉はSNSで次のように綴った。

「正直複雑な気持ちです ただ、いまの自分があるのはRIZINのおかげ。困っている時は助けたい。もし(皇治戦が)決まれば全力で倒しにいく」

これを受け、皇治もSNSで発信。

「いや、俺が1番複雑やがな(笑)。俺もRIZINに感謝しとるよ。でも、どんだけ急やねん。張り切って名古屋出場選手で盛り上げて」

皇治は、オファーは受けられないと取れる発信をしているが、おそらくは名古屋のケージに入る。近日中に「朝倉海vs.皇治」決定の正式発表がなされよう。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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