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『RIZIN.44』でクレベル・コイケが負けた!判定完勝した金原正徳が笑顔で明かした「勝因」とは?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
グラウンドの展開に持ち込みクレベルを圧倒する金原正徳(写真:RIZIN FF)

「自分しかいない」と公言して

「みんな、やったよ!長いことやれば、いいこともある。今年で(格闘技生活)20周年。勝ったら泣くと思ったけど、全然泣けない(笑)。

クレベル戦が決まってからあまり眠れず、辛い日々でした。でも自分とチームの仲間を信じることで勝つことができました。ありがとう!」

勝利した直後、金原正徳(リバーサルジム立川ALPHA)はリング上でマイクを手にし、そう話した。

さらに続ける。

「(鈴木)千裕、(アゼルバイジャンでヴガール・ケラモフに)勝って来いよ。(大晦日に)やろうぜ!」

9月24日、さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.44』で金原がアップセットを起こした。RIZINフェザー級最強と目され、朝倉未来(トライフォース赤坂)、牛久絢太郎(K-Clann/ATT)ら数多くの強豪日本人選手を下してきたクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)に判定完勝したのだ。

アップセットと言っては、金原に失礼か。それでも、ほとんどの者がクレベルの勝利を予想していたのだ。

打撃の攻防が中心だった1ラウンドの後半、クレベルにフロントチョークを仕掛けられる場面もあった。だが、これを巧みに外すと2、3ラウンドはグラウンドの展開で圧倒。僅差の判定ではない。観る者に優劣をハッキリさせての完勝だった。

試合後、笑みも浮かべながらメディアからの質問に答える金原。クレベルに勝利したことで一気にRIZINフェザー級戦線の上位に躍進、大晦日のリングで王座に挑む可能性が高い(写真:藤村ノゾミ)
試合後、笑みも浮かべながらメディアからの質問に答える金原。クレベルに勝利したことで一気にRIZINフェザー級戦線の上位に躍進、大晦日のリングで王座に挑む可能性が高い(写真:藤村ノゾミ)

「本当に淋しい。今日は自分の日じゃなかった。でも、もっと強くなって必ずRIZINのリングに戻ってきます。チャンスを頂けるなら大晦日も試合をしたい」静かにそう話したクレベル(写真:藤村ノゾミ)
「本当に淋しい。今日は自分の日じゃなかった。でも、もっと強くなって必ずRIZINのリングに戻ってきます。チャンスを頂けるなら大晦日も試合をしたい」静かにそう話したクレベル(写真:藤村ノゾミ)

アリーナをもっとも沸かせたのは2ラウンド。金原がタックルを仕掛け敢えてクレベルが得意とするグラウンドの展開に持ち込んだシーンである。

RIZINのリングで、幾度となく寝技の強さを見せつけてきた「柔術鬼神」クレベル。これまでに彼と闘ってきた日本人選手はグラウンドの展開に持ち込まれないことをテーマに掲げていた。そのため、スタンドでの打撃で勝機を見出そうとするも、タックルを恐れるあまりに強く踏み込めず、結局はクレベルに主導権を握られてしまっていたのだ。

しかし、金原はそうではなかった。

「日本人でクレベルと寝技で対抗できるのは自分しかいない」と公言、グラウンドの攻防にも自信を持っていた。

試合後に彼は言った。

「寝技以上にクレベルの打撃とレスリングを警戒していました。そこで(スタミナを)削られてしまうとクレベルのペースになってしまいますから」

1ラウンドの打撃の攻防に勝負のポイントがあると考えていたのだ。

20年やり続けてきたからこそ

「入場する時に『クレベルにビビってはいけない』と、ずっと自分に言い聞かせていたんです。組んでみないと相手の実力は分からない。なのに相手を大きくイメージし過ぎていましたから。

『打ち合いで先手を取らなければいけない』とも思っていました。

普段、自分はフェイスオフでは目を合わせないんです。でも今回は相手の顔をしっかり見ました。この顎にパンチを先に当てるぞ、と決意して」

そして先に打撃を仕掛けることに成功。攻防の中で組み合いになる。

この時に「大丈夫だ、互角に闘える」と金原は感じたと言う。

「行けると思えました。(1ラウンドに)フロントチョークに入られましたが(この技は)クレベルは得意じゃない。だから、この時に三角絞めに移行されることを警戒したんです。なるべく相手に力を使わせようと思って、絞められながら二の手、三の手を考えていた。パニックを起こすこともなく冷静に闘えました」

打撃戦を制した金原(右)は、クレベルにペースを握らせることなくフルラウンドを闘い抜いた(写真:RIZIN FF)
打撃戦を制した金原(右)は、クレベルにペースを握らせることなくフルラウンドを闘い抜いた(写真:RIZIN FF)

2ラウンドからは金原のペースになるが、それは1ラウンドに組み合った際の感触が大きく作用したようだ。果敢にグラウンド戦に挑み常に上の体勢をキープ、パスガードにも成功し肩固めを決めかけた。

「下(の体勢)にはなりたくなかった。だから(クレベルが)足関節を狙ってきた時は『ラッキー!』と思いました。敢えて膝十字(固めの体勢)に入らせてアンクルも取らせたんです。自分は上のポジションを取ることを考えて動いていました」

結果、金原はグラウンドでもクレベルを圧倒できたのだ。

クレベル攻略法を、いかに見出したのか?

金原は、こう答えた。

「誰との試合が決まったから打撃をやる、誰と闘うから寝技を練習するというのではない。『何カ月か頑張りました』では、どうにもならないんですよ。柔術、グラップリング、MMAをいっぱいやってきてこそ磨かれるものがあったと思います」

格闘技生活20年、40歳。闘いを諦めなかった者ならではの深さを感じる。

さて、これでさらに混沌としてきたRIZINフェザー級戦線。

おそらくは大晦日のリングでフェザー級タイトルマッチが行われることになる。ヴガール・ケラモフ(王者/アゼルバイジャン)vs.鈴木千裕(パラエストラ吉祥寺)の勝者に、金原が挑むことになろう。

リングの彩は目まぐるしく変化していく。

いま戦線から距離を置いている朝倉未来、平本蓮は、今回のケラモフvs.金原を観て何を想っただろうか─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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