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「井岡一翔vs.中谷潤人」は実現するのか? 熱きスーパーフライ級戦線の今後を考察──。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
ラスベガスのリングでモロニー(左)を倒し切った中谷潤人(写真:AP/アフロ)

”ネクスト・モンスター”なのか

最終ラウンド、試合時間残り約20秒、右に頭を移動させた直後に放った左強打が顔面にクリーンヒット。この一撃で3度目のダウンを喰らったアンドリュー・モロニー(豪州)はマットに大の字に。場内大興奮の中、試合は終わった。

鮮やか過ぎる結末─。

5月20日(現地時間/日本時間21日)、米国ラスベガスMGMグランドで行われたWBO世界スーパーフライ級王座決定戦で中谷潤人(M.T)はモロニーを劇的にKO、フライ級に次いで2階級制覇を果たした。

これまでに日本人世界チャンピオンは、白井義男(シライ)以降、暫定も含め90人以上を数える。そして、彼らは2つに分類される。

世界王座奪取を到達点とする者と、その先を見据える者にだ。2階級を制覇した中谷は明らかに後者。ここからが本当の闘いの始まりだと考えている。後々はバンタム級に上げて3階級制覇を狙うことになろうが、その前に大きな目標を持つ。

それはズバリ、井上尚弥(大橋)に続く4団体世界王座統一。"ネクスト・モンスター”を狙う。

中谷は2020年11月にジーメル・マグラモ(フィリピン)を8ラウンドKOで破りWBO世界フライ級王座を獲得、2度の防衛を果たしており、関係者の間では高く評価されている。とはいえ、一般的知名度はそれほどでもなかった。井上尚弥、そして井岡一翔の陰に隠れていたのである。

しかし、今回の華麗な王座奪取劇で状況は変わった。国内のみならず世界のボクシングファンが彼に一目を置くようになったことは間違いない。そして、待望のカードも浮上する。

「井岡一翔vs.中谷潤人」だ。

本来ならこのスーパーファイトは、いま頃に実現しているはずだった。

今年に入った時点でWBO世界スーパーフライ級王者は井岡、そしてランキング1位が中谷。これに対してWBOは「王者vs.1位」の指名試合を発令する。よって日本人同士のドリームファイトが実現するかと期待が高まったが、そうはならなかった。

井岡が、昨年大晦日に2団体(WBA、WBO)王座統一戦に挑み引き分けたジョシュア・フランコ(米国)との再戦に固執。WBOのベルトを返上してしまったのだ。

この動きに対し、井岡への批判の声が多く聞かれた。

「中谷から逃げた。勝てる自信がないのだろう」

「フランコと決着をつけたい気持ちは分かる。でもそれはダイレクトではなく、指名試合(中谷戦)をクリアしてからでもよかったのではないか」

実際に井岡は、中谷との対峙を避けた。「逃げた」と捉えられても仕方がなかろう。

昨年大晦日、東京・大田区総合体育館でジョシュア・フランコと引き分けた直後の井岡一翔。頭を撫でられているのは長男・磨永翔くん、左は次男・大空翔くんを抱く恵美夫人(写真:東京スポーツ/アフロ)
昨年大晦日、東京・大田区総合体育館でジョシュア・フランコと引き分けた直後の井岡一翔。頭を撫でられているのは長男・磨永翔くん、左は次男・大空翔くんを抱く恵美夫人(写真:東京スポーツ/アフロ)

中谷の次の相手は田中恒成か

それでも来年までには「井岡一翔vs.中谷潤人」のドリームマッチが実現すると私は見ている。

井岡は、6月24日に東京・大田区総合体育館でフランコが保持するWBA王座に挑戦する形でリマッチに挑む。

一方、WBO新王者となった中谷には指名試合が課せられる可能性が高い。ならばランキング3位で、すでに3階級を制覇している元世界王者・田中恒成(畑中)とのマッチアップとなろう。田中は中谷が2階級制覇を果たした数時間後に名古屋で「世界王座挑戦・前哨戦」と位置付けた闘いに挑み、パブロ・カリージョ(コロンビア)を10ラウンドTKOで下している。実績がある者同士の日本人対決も興味深い。

ただ、現段階ではWBOから指名試合は命じられておらず、中谷の次戦の相手が誰になるかは未定。

「王座統一戦をやりたい」

そう中谷本人は希望しており、WBAスーパー王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との統一戦に挑む機会を得るかもしれない。

井岡がフランコに、また中谷が次戦で勝つことが条件とはなるが、その先に両者の直接対決は見えてくる。一度は対決を避けた井岡だが、中谷がスーパーフライ級でベルトを保持しているのなら「4団体王座統一」を果たすために対峙せざるを得ないだろう。

これまで日本ボクシング界の主役は、圧倒的強さを見せつけてきた”モンスター”井上尚弥だった。この先もそれは変わらない。それでも「井岡一翔vs.中谷潤人」が実現すれば多大な注目が集まり、日本ボクシング界はさらに活性化しよう。

世代抗争─。

25歳の中谷が勢いそのままに時代を塗り替えるのか? それとも34歳になった井岡が一昨年大晦日、田中恒成を倒した時のように底力を見せつけるのか?

このマッチメイクが実現しないはずがない。

スーパーフライ級戦線が、いま熱過ぎる─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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