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『RIZIN.42』でKO負けした”キングカズの息子”三浦孝太のこれから──。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
下になった状態からも必死に勝機を見出そうとする三浦孝太(写真:RIZIN FF)

見せ場をつくるも193秒惨敗

「悔しい。組んでからテイクダウンは取れるだろうなと思っていたが、予想以上に(YA-MANの)力が強かった。格闘技のキャリアの違いも感じました」

試合後にインタビュースペースに姿を現した三浦孝太(BRAVE)は、静かにそう話した。

デビュー3戦目での初黒星。

5月6日、東京・有明アリーナ『RIZIN.42』でMMA(総合格闘技)初挑戦のキックボクサー、YA-MAN(TARGET SHIBUYA)と対戦した三浦は1ラウンドKO負けを喫した。

試合直後、表情に悔しさを滲ませながらメディアからの質問に答える三浦孝太(写真:SLAM JAM)
試合直後、表情に悔しさを滲ませながらメディアからの質問に答える三浦孝太(写真:SLAM JAM)

「1ラウンドから勝負を決めに行く!」

戦前にそう宣言していたYA-MANが、開始直後から積極的に前に出る。だが、三浦は落ち着いていた。打撃に対して臆することなく立ち向かい、パンチを交わした後にジャンプしてのスーパーマンパンチをYA-MANの顔面にヒットさせる。その後も相手の攻撃に合わせてタックルを仕掛け、グラウンドの展開へと持ち込んだ。

ウォ~。

客席から、三浦の動きに対して歓声があがる。

だが、そこから攻められない。パワーで勝るYA-MANはすかさずスタンドの展開に戻し再び攻撃に転じる。そして試合開始から3分が経とうとした時、YA-MANの強烈なヒザ蹴りが三浦を襲う。直後、グラウンドポジションで左拳を顔面に連打。三浦が防戦一方になったところでレフェリーがストップをかけ試合は終わった。

開始直後、YA-MAN(左)の顔面にスーパーマンパンチを見舞う三浦孝太(写真:RIZIN FF)
開始直後、YA-MAN(左)の顔面にスーパーマンパンチを見舞う三浦孝太(写真:RIZIN FF)

YA-MANの強烈な左ヒザ蹴りが炸裂。この一撃が決定打となり、直後にパウンドを喰らった三浦孝太は初黒星を喫し涙を流した(写真:RIZIN FF)
YA-MANの強烈な左ヒザ蹴りが炸裂。この一撃が決定打となり、直後にパウンドを喰らった三浦孝太は初黒星を喫し涙を流した(写真:RIZIN FF)

苛烈な格闘ロードは続く

結果は予想通り。

三浦はMMA3戦目、YA-MANはMMAデビュー戦。それでもYA-MANにはキックボクシングでの豊富なリングキャリアがあり、闘いのスキルで上回る。また、短期間の練習でグラウンドに持ち込まれた際の対処術も身につけていた。実力差がリング上で明確に示された形だ。

それでも私は三浦の戦いぶりは、評価に値すると思う。

彼のデビュー戦は、一昨年大晦日『RIZIN.33』で相手はYUSHI(HI ROLLERS ENTERTAINMENT)。2戦目は昨年9月『超RIZIN』、ブンチュアイ・ポーンスーンヌーン(タイ)との対峙。ともに1ラウンドで勝利したが、相手はいずれもMMAは初体験の選手。つまりは三浦を輝かせるためのマッチメイクで、さらに1ラウンド5分ではなく3分の特別ルールも用いられていた。

しかし、今回は違った。三浦にとっての試練の闘い。いわば過去2戦は育成試合、真の意味でのデビュー戦を、ここで迎えたのである。

YA-MANは殺傷能力のある打撃を繰り出してくる。これに対して三浦が臆せずに闘えるか否かが問われる試合でもあったのだ。結果、彼は強打を浴びることを恐れずに闘えた。YA-MANの打撃に対し俊敏に動きカウンタータックルを決めたシーンはその象徴。敗れはしたが、気持ちでは負けていなかった。

「親の七光り」

RIZIN参戦発表から1年8カ月、三浦は格闘技ファンからそう見られ続けてきた。実際、彼が現在の実力でRIZINのリングに上がれているのは、三浦知良(プロサッカー選手/ポルトガル2部・オリベイレンセ)の息子だからである。

話題性を見込んでRIZINが起用した。

そのことは本人も理解している。耳に届く厳しい声が気にならぬはずはない。それでも「これはチャンスだ!」と前向きにとらえ、シビアな世界に身を浸し格闘技に懸命に取り組んできた。

そんな三浦は試合後、こうも話した。

「自分はRIZINに出てる選手の誰よりも実績がない。(RIZINの舞台に)立つ権利も薄くしかない。それでも勝ち続ければと思っていましたが、今回負けました。だから、これからどうなるかはわかりません。でも、これからも格闘技にチャレンジしていきたい」

おそらく今回の負けで三浦がRIZINからリリースされることはない。年内に次戦が組まれるであろう。RIZINは、実力順に選手が登場する舞台ではない。「三浦孝太・成長ドラマ」もRIZINのサブストーリーに組み込まれているのだ。

とはいえ、次も実力のある選手とのマッチメイクは必至。

三浦孝太、20歳。苛烈な格闘ロードが続く─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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