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なぜ平本蓮は”番狂わせ”を起こせたのか?『RIZIN LANDMARK4』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
平本蓮が3-0の判定で弥益ドミネーター聡志を下した(写真:RIZIN FF)

戦前の予想は「弥益優位」も

「怪我をして不安もあったけど、今日は『やるしかない』と思っていたし、自分がやってきたことを出せれば勝てる自信もありました。これで(RIZINでの通算戦績を)2勝2敗の五分に戻した。UFCのチャンピオンを目指します」

試合後にインタビュースペースに姿を現した平本蓮(ルーファスポーツ)は、いつもとは違い落ち着いた口調でそう話した。『RIZIN.36(7月2日、沖縄アリーナ)』で初勝利を飾った時のように燥ぐわけではなく─。

勝利の喜びを嚙みしめるように、静かな口調でメディアからの質問に答える平本蓮(写真:SLAM JAM)
勝利の喜びを嚙みしめるように、静かな口調でメディアからの質問に答える平本蓮(写真:SLAM JAM)

”番狂わせ”と言っていいだろう。

11月6日、ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)『RIZIN LANDMARK4』のメインエベントで平本蓮が、前DEEPフェザー級王者・弥益ドミネーター聡志(team SOS)に判定ながら完勝したのだ。

戦前の大方の予想は、弥益優位。

平本は人気は高く、打撃力にも長けているがグラウンドの攻防に難がある。これまでの戦績は1勝2敗。沖縄での初勝利も打撃系ファイターの鈴木博昭(BELLWOOD GYM)が相手で、それも僅差の判定決着だった。

総合力とキャリアでは、弥益が上回る。大阪『RIZIN. 34』での萩原京平(SMOKER GYM)戦の時と同様に彼がグラウンドの展開に持ち込みサブミッションで平本を仕留めると思われていたのだ。

サウスポー、カラテの構え

しかし、そうはならなかった。

この試合からサウスポーにチェンジした平本は、元極真会館(現在は剛毅會宗師)の岩崎達也から学んだカラテの構えを見せ、ケージ内中央に悠然と立つ。そこに弥益がパンチで攻め込むと平本は得意のカウンターで迎撃。これをヒットさせ、早々に弥益にダメージを与えた。

縺れ合う中でグラウンドの攻防になることも幾度かあった。弥益に好機が訪れたかと思いきや、平本は体幹力と、学び身につけた技術を活かしエスケープしスタンドの状態に戻して見せた。

カラテの構えを崩さず、カウンター狙いの平本のペースで試合は進む。

最終の3ラウンドには、何とか突破口を見出そうと前に出る弥益にさらにパンチをヒットさせる。打撃で確実にダメージを与えていたがパウンドに行きはしない。あくまでもスタンドでの闘いを貫き、試合終了のゴングを聞いた。

試合場の中央に悠然と立つ平本蓮は寝技への誘いを敢然と拒否、自らのペースで闘うことを貫いた(写真:RIZIN FF)
試合場の中央に悠然と立つ平本蓮は寝技への誘いを敢然と拒否、自らのペースで闘うことを貫いた(写真:RIZIN FF)

弥益ドミネーター聡志の顔面に左ストレートをヒットさせる平本蓮(写真:RIZIN FF)
弥益ドミネーター聡志の顔面に左ストレートをヒットさせる平本蓮(写真:RIZIN FF)

判定は3-0。

この採点に異論を挟む者はいなかったであろう。

平本は、MMA(総合格闘技)ファイターとして確実に成長を遂げていた。寝技ができるようになったわけではないが、相手との間合いを支配し簡単にはグラウンド展開への移行を許さない。持ち込まれても、その後の対処ができるようになっていたのだ。

平本の次戦は来春か

平本の成長は評価に値する。

ただ、一つ記しておかねばならぬこともある。

この試合は本来、フェザー級(66キロ以下)で行われるはずだった。しかし、調整段階で足を負傷しウェイトコントロールが難しくなった平本に対して救済措置が取られている。

決戦の5日前、11月1日に記者会見が開かれ、契約ウェイトが70キロ以下に変更される旨が発表されていたのだ。

これは、66キロ以下に体重を合わせるよう調整していた弥益にとって明らかにマイナス要素。それでも試合後の会見で、彼はそれを言い訳にはしなかった。

メディアから、それに関する質問が飛んだ際にも弥益は潔くこう答えている。

「それは触れなくていいこと。(条件を飲んで)ケージに入った時点で、もはや関係ない。勝つことがすべてで、敗者は努力が足らなかったということです」

試合後、弥益ドミネーター聡志は悔しさで涙を浮かべながらもメディアからの質問に真摯に答えていた(写真:SLAM JAM)
試合後、弥益ドミネーター聡志は悔しさで涙を浮かべながらもメディアからの質問に真摯に答えていた(写真:SLAM JAM)

平本の怪我は、左足人差し指付け根部分の骨折だった。

今回の試合で、彼はキックをほとんど放っていない。負傷した箇所を庇わねばならぬ状況だったのだろう。

しかし、ステップワークの際に負担がかかり、再度、負傷箇所を痛めたようで大晦日『RIZIN.40』出場は難しそうだ。今後のためにも無理はしない方がいい。平本の次戦は来春になる模様。そこで萩原京平との再戦を観たい気もする。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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