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デビューから27連勝、負け知らず! 競輪界に舞い降りた新鋭・中野慎詞は、どこまで強いのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
競輪、自転車競技両方で活躍する中野<中央>(写真:Takenori Wako)

「競輪」と「自転車競技」の二刀流

競輪界に新風が吹いている。

今年元旦にデビューしたルーキー中野慎詞(岩手/121期・23歳)が、8月14日、静岡競輪場でのF1(S級レース)で優勝、「デビューから負けなしの27連勝」を飾ったのだ。

これは、2020年に山口拳矢(岐阜/117期)がマークした26連勝を抜く輪界新記録である(旧制度では1962年、須田一二三の37連勝がある)。

A級チャレンジ、A級1、2班戦それぞれで3場所連続完全優勝、S級に特別昇級した後も3度の完全V。向かうところ敵なしだ。

それだけではない。

中野は、ナショナルチームにも所属し自転車競技でも活躍をしている。

8月29日、静岡・伊豆ベロドロームで開催された『全日本自転車競技選手権-トラック』にも出場しケイリンで決勝進出。東京五輪に出場した脇本雄太(福井/94期)らを破って見事優勝を果たしたのだ(同大会でチームスプリントでも優勝、スプリント3位)。

「練習は、ずっとナショナルチームでやっています。パリ五輪には日本代表として出場したい。もちろん、競輪でもファンの期待に応えられる走りをしなければとも思っています。

早期卒業をしたので特昇(特別昇級)は、絶対に果たさないといけないと感じていました。だから、A級の時は勝ち続けることを強く意識していましたね。でもS級に上がってからは、それほど1着にはこだわっていません。力を出し切ることを心がけていて、それが結果につながりました。

いつかは(連勝が)止まると思いますが、できるだけ(記録を)伸ばしていきたい」

走りにもコメントにも、ルーキーとは思えぬ余裕が漂う。

8月29日の『全日本自転車競技選手権トラック』ケイリン決勝。脇本雄太、山﨑賢人、新山響平、小原佑太、松井宏佑とともに走り先頭でゴールを駆け抜ける中野慎詞(写真:Takenori Wako)
8月29日の『全日本自転車競技選手権トラック』ケイリン決勝。脇本雄太、山﨑賢人、新山響平、小原佑太、松井宏佑とともに走り先頭でゴールを駆け抜ける中野慎詞(写真:Takenori Wako)

小学生で自転車の快感を知る

岩手県花巻市で生まれ育った中野は、中学時代まではアルペンスキーの選手だった。『全日本選抜ジュニアスキー選手権』で7位入賞の成績も残している。だが、すでにこの頃から、競輪選手になることが夢だったという。

小学生の時、商店街に貼られていたポスターを見て自転車のロードレースに参加した。母に勧められ「面白そうだ」と思ったからだ。

軽い気持ちで参加した中野は、当日会場に着いて驚いた。普段から乗っているカゴ付きの自転車で来ていたのは自分だけで、ほかの子どもたちは皆、ロードレーサーに跨っていたのだ。

レースが始まる。中野は必死にペダルを漕いだ。すると自分だけがカゴ付きの自転車だったにもかかわらず9位入賞。風を切って走ることに快感をおぼえた。

その後にテレビで競輪のG1レースを観る。優勝したのは同じ岩手県在住の佐藤友和だった。

「かっこいいなぁ。俺も競輪選手になりたい!」

中野は、この時に進路を決めた。

知人を通して佐藤友和と会う機会を得る。

ここからふたりの師弟関係は始まり、高校進学と同時に中野は本格的に自転車競技に取り組むようになった。

岩手県立紫波総合高校時代に、インターハイ、国体等で優勝、早稲田大学進学後はG1タイトルホルダーの新田祐大率いる「ドリームシーカー」のメンバーとなり、また在学中に日本競輪選手養成所に入所した。

養成所でもズバ抜けた成績を残し、太田海也(岡山)とともに121期早期卒業生となったのである。

『G3青森』『G2共同杯』に連続出走

中野には2つの目標がある。

ひとつは、2年後のパリ五輪の自転車競技・日本代表となりメダルを獲得すること。もうひとつは、競輪選手としてトップ戦線で闘える強さを身につけることだ。

「競輪」と国際基準の「競技」では、跨ぐ自転車が違えば、勝つためのトレーニング方法、調整の仕方も異なる。練習の基盤はナショナルチームに置きながら競輪ファンの期待にも応えようと彼はしているのだ。

中野の次回出走は、9月8日から4日間にわたり開催される『青森競輪場72周年記念みちのく競輪』。S級昇格後、これまではF1で闘ってきたが、今回初めてG3に挑むことになる。郡司浩平(神奈川/99期)、吉田拓矢(茨城/107期)といったS級S班の自力選手が参戦する1ランク上のレースで、如何なる走りができるのかに注目が集まろう。

さらに、その後には9月16日に開幕するG2レース『第38回共同通信社杯(名古屋競輪場)』にも出走予定。

もしG3、G2で連続して決勝に進めたなら、中野はスーパールーキーの域を超え、トップレーサーの仲間入りをすることになる。27連勝は、脚力と勢いに任せてのものではない。冷静且つクレバーに走れている。ここまでの闘いを見ても「突っ張って先行する」か、「一度引いて巻き返す」かの判断も的確で、中野はレースを支配する技術を備えつつあるように思う。

S級のトップレーサー相手に、どこまで通用するのか?

どこまで連勝記録を伸ばすのか?

競輪界に舞い降りた超新星・中野慎詞に、期待せずにはいられない─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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