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RIZIN復帰戦で激勝したクレベル・コイケの「野望」と朝倉未来への「辛辣なメッセージ」──。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
約8カ月ぶりの復帰戦で勝利し絶叫するクレベル・コイケ(写真:RIZIN FF)

一気呵成に攻め込んでいたら

「危なかったよ」

試合が終わった直後、クレベル・コイケのセコンドについていたホベルト・サトシ・ソウザが、表情に悔しさを滲ませる佐々木憂流迦に近寄って、そう言った。

「(クレベルが)危なかったよ」は、「(憂流迦は)強かったよ」を意味する。

2月23日、静岡・エコパアリーナ『RIZIN TRIGGER 2nd』でクレベルは約8カ月ぶりの試合に挑み、2ラウンド3分22秒、リアネイキッドチョークを決めて佐々木に勝利した。公約通りの一本勝ち。だがそれは、決して楽な闘いではなかった。

打撃の攻防に終始した1ラウンド、クレベルは劣勢を強いられた。

激しく打ち合う中で、佐々木の右のパンチを喰らいフラッシュダウン。すぐに起き上がるも、ダメージを負ったことはハッキリと見てとれた。その後、再び右強打を被弾する。組みついてグラウンドの攻防に持ち込もうとするが、そこも佐々木に突き放されてしまった。

クレベルの顔面にカウンターで右強打を見舞う佐々木(左)1ラウンドは佐々木のペースで試合が進んでいた(写真:RIZIN FF)
クレベルの顔面にカウンターで右強打を見舞う佐々木(左)1ラウンドは佐々木のペースで試合が進んでいた(写真:RIZIN FF)

(もしかすると番狂わせが…)

1ラウンドが終わった時、そんな空気がアリーナ内に漂った。

だが、一方で「なぜ一気に畳みかけないんだ」と思いながら試合を見守っていたファンも多かったと思う。佐々木の闘い方は、あまりに慎重だった。

「めちゃくちゃ悔しい」

試合後にインタビュースペースで、そう言葉を発した後、佐々木は続けた。

「自分の距離を常に保って闘うプランでした。1ラウンド目は、良い流れだったと思います。『(セコンドから)行っていいよ』とも言われたけど行かなかった(深追いはしなかった)。2、3ラウンドも、このペースでやれば取れると…」

佐々木はクレベルの寝技を警戒した。

相手にダメージがあるとわかっていても、隙を突かれてグラウンドに引き込まれることを恐れ、一気に勝負には行かなかった。

結果、2ラウンドに寝技でバックを取られ、チョークを決められてしまったのだ。

やはり、「もし…」と考えてしまう。

もし、右強打でクレベルをグラつかせた時に、佐々木が寝技に持ち込まれるリスクを顧みず一気呵成に攻め込んでいたら、結果は違ったものになっていたのではないか、冒険するべきではなかったか、と。

隙を突く能力に長けた「寝技のスペシャリスト」クレベル相手に、15分もの長い時間、ペースを自らに引き寄せ続けるのは容易ではない。結果論だが、一か八かの勝負をした方が得策だったのではないか。昨年6月、東京ドームで朝倉未来が敗れた時も同じ思いを抱いた。

だが、こうも言えよう。

ダメージを負った時でも「寝技に引き込むぞ」とプレッシャーをかけ、相手にラッシュを躊躇させる。それもクレベルの強さなのだと。

2ラウンド、グラウンドに引き込むことに成功したクレベルは好機を逃さずチョークを決めた。必死に喰い下がった佐々木だが耐え切れずにタップ(写真:RIZIN FF)
2ラウンド、グラウンドに引き込むことに成功したクレベルは好機を逃さずチョークを決めた。必死に喰い下がった佐々木だが耐え切れずにタップ(写真:RIZIN FF)

朝倉には「列に並んでもらう」

これでRIZIN4連勝(すべて一本勝ち)を飾ったクレベルは、試合後に言った。

「凄く嬉しい。久しぶりの、それも育った街・静岡での試合、プレッシャーもあった。私はパンチを受けて体勢を崩される時もある。でも大丈夫、心は集中しているから。相手にも私を倒すチャンスはある。でも相手が一度でもミスをしたら、私はそこで捕え試合を終わらせることができる。

ウルカとは仲良し。でも試合では容赦しない。勝てて良かった」

試合を振り返った後、今後についても話した。

「私は、RIZINフェザー級でナンバーワンだと思っている。次はウシク(牛久絢太郎)とタイトルマッチを組んで欲しい。そこで勝ってベルトを腰に巻きナンバーワンであることを皆に証明したい」

試合後、インタビュースペースでメディアからの質問に答えるクレベル・コイケ(写真:SLAM JAM)
試合後、インタビュースペースでメディアからの質問に答えるクレベル・コイケ(写真:SLAM JAM)

朝倉未来が再戦を要求していることについては─。

「問題ない。もう一回闘っても私が一本で勝つ。ミクルが、さらに強くなっていることは知っているし、リスペクトもしている。でも順番を待って欲しい。ウシク、サイト―(斎藤裕)、ハギワラ(萩原京平)とも私はまだ闘っていない。その後ろに並んでもらう」

クレベルが名を挙げた牛久、斎藤、萩原の3人よりも朝倉の実力は上位だろう。にもかかわらず「列の後ろに並べ」と言い放つ辺りには、RIZINでの位置取りにおける競争意識もうかがえる。

ともあれ、クレベルが復帰したことでRIZINフェザー級戦線は、さらにヒートアップする。今年下半期に『フェザー級GPトーナメント』は実現するのか?

「フェザー級のGPトーナメントを行うか、タイトルマッチを中心に展開していくかは、もう少し時間をかけて考えたい」

イベント終了後、RIZIN榊原信行CEOは改めてそう話した。

「今後の状況も見守りつつ」とのことだが、トーナメント開催へのファンの期待は高まる一方だ。今後、新型コロナウィルスによる入国規制が緩和され、ここに外国人選手が加わるなら、さらにスケール感が増そう。昨年大晦日にドラマチックな結末を迎えた「バンタム級トーナメント」以上の盛り上がりは必至に思える。

勇気とスリルに満ちた苛烈なサバイバルマッチが観たい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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