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朝倉未来が明かした「勝因」と「これから」─。2022年RIZINで斎藤裕との第3戦はあるのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
宿敵・斎藤裕を圧倒しリベンジを果たした朝倉未来(写真:RIZIN FF)

緊迫感溢れる闘いの中で

「試合前に『100%勝つ!』と発言したのは、これまでにないほど努力した自分に対して言い聞かせている感じでした。勝因は、練習で磨き速くなったパンチをカウンターで当てれたこと。斎藤選手は強かった。いろんなプレッシャーがある中で勝ててホッとしています」(朝倉未来)

「自分の展開に持ち込みたかったが、それができず、先に強いパンチをもらってしまった。応援してくれるファンの期待をヒシヒシと感じていたのに応えられなかった。この悔しさを忘れたくない」(斎藤裕)

昨年大晦日、さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.33』。全16試合の中で場内にもっとも緊迫感を醸したのは、朝倉未来(トライフォース赤坂)と斎藤裕(パラエストラ小岩)のリマッチではなかったか。

会場の観客に対し「声を出しての応援は、お控えください。拍手での応援をお願いします」と主催者サイドから場内放送で何度も呼びかけられる。だが、観る者は感情の昂りを抑えられなかった。<ミクルコール>と<ユタカコール>が沸き起こり交錯する。それほどまでにファンを熱くさせる試合展開だったのだ。

開始直後、互いに慎重に構えた1ラウンドはイーブンの展開。それでも緊張感が漂う中での5分間は、あっという間に過ぎた。

試合が動いたのは2ラウンド。タックルを凌いだ後の3分20秒、朝倉が右カウンターパンチを炸裂させる。その直後に左強打を見舞うと、斎藤がグラついた。この好機を逃すことなく一気に攻め込んだ朝倉が、3ラウンド目もニータップでテイクダウンを奪うなどして制し試合終了のゴング。

判定は3-0、完勝で朝倉がリベンジを果たした。

2ラウンドにカウンターパンチでダメージを与えることに成功した朝倉未来が、その後は展開を支配する。斎藤裕は防戦一方に(写真:RIZIN FF)
2ラウンドにカウンターパンチでダメージを与えることに成功した朝倉未来が、その後は展開を支配する。斎藤裕は防戦一方に(写真:RIZIN FF)

12月に入ってからこのカードが発表された時には驚いた。互いに万全のコンディションが作れるとは思えなかったからだ。

朝倉は、10月2日の『RIZIN LANDMARK』で萩原京平(SMOKER GYM)を破った後、AbemaTVの「1000万円喧嘩企画」で左ヒザを傷める。

一方の斎藤は、10月24日、横浜での『RIZIN.31』でフェザー級王座初防衛戦を行い、牛久絢太郎(K-Clann)にまさかの2ラウンド・ドクターストップTKO負け。ヒザ蹴りで裂かれた右眼上は完治に至っていなかった。

もっと驚いたのは、主催者から大晦日『RIZIN.33』への出場オファーを受けた時、朝倉が対戦相手にクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)を求めたことだ。クレベルは、昨年6月、東京ドーム『RIZIN.28』で失神に追い込まれ完敗を喫した相手。そんな強者に、万全のコンディションでない状態で挑もうとしていたのか。

結局、RIZINサイドとクレベルの調整がつかず、このカードは実現せず。代わりに斎藤との再戦を求められた。朝倉は、すぐに「OK!」と返答。斎藤は、一度保留した後に決意を固めた。

重厚感のある闘いになった理由

ふたりは、ともに変わったと思う。一昨年11月、大阪城ホール『RIZIN.25』のリングで対峙した直後から。

あの試合で敗れた朝倉は、天狗の鼻をへし折られた。それまで、スパーリングを行う程度にしか練習をしていなかったにもかかわらずRIZIN7連勝。

「練習なんかしなくても俺は強いんだよ」

そう思い込んでいた。しかし、斎藤に負けたことで格闘技に真摯に取り組むようになった。いまや、極限まで自分を追い込むトレーニングに身を浸している。

そして、プロ意識もさらに高まった。

コンディション不良でもクレベルに挑もうとした理由はシンプルで、「それが一番盛り上がるから」。自分を過酷な状況に追い込んだ上での勝負を選択している。

斎藤も朝倉と交わったことを機に変化を遂げた。

RIZINフェザー級王者となったことで環境が変わり、意識も競技者からプロ選手に移行した。かつての斎藤なら今回のオファーを断っていたのではないか。コンディションが整わない中で闘うつもりはないと。

競技者としては、その選択が正しい。だが、プロとして闘っていくにはコンディション云々ではなく、求められる状況の中で勝利を追求していく必要もあると感じたのだろう。

今回のリマッチ。1年1カ月前の試合よりもクオリティが高い重厚感のあるファイトだった。それは互いの実力が向上したからだけではなく、観る者に両者の人生の深みが伝わったからに他ならない。

闘い終えて抱き合う両雄。この時、朝倉未来は斎藤裕に「短い期間でのオファーだったのに闘ってくれてありがとう」と声をかけた(写真:RIZIN FF)
闘い終えて抱き合う両雄。この時、朝倉未来は斎藤裕に「短い期間でのオファーだったのに闘ってくれてありがとう」と声をかけた(写真:RIZIN FF)

今年、ふたりは如何なる格闘ストーリーを描こうとしているのか?

朝倉は言った。

「(対戦したい相手は)まずクレベル、そして牛久」

クレベルにはリベンジしたい、そして牛久に勝ってRIZINのベルトを腰に巻きたい。目指すは、日本総合格闘技界フェザー級の頂点。その先に世界を見据える。

斎藤は、こう口にした。

「少しカラダを休めてコンディションを戻します。これから考えて目標設定をし、前に進んでいきたい」

ふたりの3度目の対決はあるのだろうか?

それはある、必然だろう。今年なのか来年なのか、シチュエーションもわからないが、朝倉と斎藤は三度び対峙する。心を熱く焦がしてくれる一戦を、観る者が求めているから─。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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