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テコンドー金原会長は本当に辞めるのか?急展開を見せた総辞職報道の背景

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
全日本テコンドー協会・金原昇会長(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

週明けの10月28日に東京都内で開かれる全日本テコンドー協会の臨時理事会で、金原昇会長が辞任するとの報道がなされている。今回の騒動の責任を取って身を引くとのことだが、果たして本当にそうなのか?

痛手となったスポンサーの撤退

臨時理事会は、現体制のメンバーに加え、弁護士の境田正樹氏ら5人の有識者を外部から招き開かれるようだ。

この場で金原会長が、自らと副会長を含む全理事の辞職を提案。これが審議され受け入れられれば、新たな会長、副会長、理事が選出された段階で現職は退任することになるという。

なぜ急に、このような流れになったのか?

10月8日の6時間以上にも及んだ臨時理事会で、岡本依子(2000年シドニーオリンピック・67キロ級銅メダリスト)副会長と高野美穂(1992年バルセロナオリンピック出場)理事が協会幹部の総辞職を訴えた。だがこの時は審議もされず、金原会長は現体制の維持を主張していた。

「総辞職するべきではないかという意見が出ました。でもほとんどの理事が(東京オリンピックが近づいている)いまの状況で辞職するのは無責任であるとの考えです。私の責任は、しっかりとした強化体制を築くこと。辞めるつもりはありません」

臨時総会後の記者会見で、そう話していたのだ。

ところが、その後の2週間で協会は窮地に立たされた。

選手と協会幹部の対立は深まるばかり、世間は金原体制に批判の目を向け続ける。そんな中、協会のスポンサー複数社が撤退を表明。加えて、JOCが本格的な協会内部調査に入る構えを見せ始めた。全日本テコンドー協会は、現体制を維持することが極めて難しくなったのである。

用意されたシナリオ

果たして金原会長は、このままスンナリと身を引くのか?

私には、そうは思えない。

もし本当に辞任するのであれば、臨時総会にわざわざ外部識者を交える必要はないだろう。現メンバーだけで議決すればよい話である。

おそらくは、次のようなシナリオが用意されているのだろう。

金原会長が総辞職を提案し、審議に入る。そこで大多数を占める金原会長派の理事たちが「協会の改革は必要だが、それを現体制でやるべきだ」と声を上げる。外部から招いた識者からは改革案が提示され、「それを自分たちで実行していこう」と理事たちが話をまとめ総辞職案を否決。会長、理事は現職にとどまる。

あるいは、一度は総辞職をするも理事を一部入れ替えて再び金原氏が会長となる手はずが整えられている。

外部から識者を招くのは、金原氏が会長職にとどまることに対する世間の批判をかわすためだろう。

「今回の決定は内部だけで行ったものではなく、第三者である識者の判断でもあります」

世間、そしてJOCに対しての、そんな言い逃れを準備しているように思えるのだ。

もちろん、この通りに事が運ぶかどうかはわからない。

シナリオを察知した識者たちが臨時理事会に参加しない可能性も十分にあり、また、金原会長派と見られている理事の中にも「もう現体制は維持できない」と考え始めている人もいる。

金原会長らが総辞職し、全日本テコンドー協会が、競技者をしっかりとサポートできる組織に生まれ変わることが望ましい。だが、10・28臨時理事会が思わぬ展開になっても決して不思議ではない。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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