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国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)って何?

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 2024年1月26日ごろから、イスラエルやアメリカがガザ地区で活動していたUNRWAの職員が2023年10月7日の「アクサーの大洪水」攻勢に参加したり、協力したりしていたと指摘したことにより、本邦も含む多数の国が同機関への資金拠出を一時取りやめている。これにより、UNRWAを通じたパレスチナ難民への支援は著しい困難に陥っている。イスラエルの主張によると、ガザ地区でUNRWAに雇用されている職員1万2000人の約1割がハマス(ハマース)やパレスチナ・イスラーム聖戦運動(PIJ)と関係しているそうだ。ここまで、国連は攻撃に関与したと指摘のある12人のうち9人を解雇し調査を進めている一方、UNRWAそのものが「懲罰」されないよう訴えている。

 UNRWAは、その名称の通り第一次中東戦争以来故郷を追われたパレスチナ難民全般の支援を担当する機関であり、別にガザ地区だけで活動しているわけではない。今般問題(特にUNRWAへの支援を停止した諸国による行為)がガザ地区のパレスチナ人民だけを窮地に追いやるものではないことを理解するため、UNRWAの何たるかについて最近出回ったアラビア語の報道やUNRWAのHPを基に復習してみよう。

設立

 1948年11月に国連によって「パレスチナ難民救済委員会」が設置された。この機関は、第一次中東戦争で難民化したパレスチナ人の支援と、そのための国連機関、NGOなどとの連絡調整のためのものだった。これが1949年12月に国連総会決議302号に基づき、暫定的専門機関「国連パレスチナ難民救済事業機関」に改められた。この時点では、住処から逃亡したり、強制移住させられたりしたパレスチナ難民は約76万人で、多くが近隣諸国へ避難した。このため、UNRWAはウィーンとヨルダンのアンマンに本部を設置し、パレスチナ難民の避難先の各国政府や、関係する諸国の政府との協力のもと、難民救済事業を行うことになった。本部の一つがアンマンにあるということは、UNRWAにとって最も仕事が多い国がヨルダンだということに留意されたい。

サービスと受益者

 アラブ・イスラエル紛争の結果大勢が住処を追われたとはいえ、パレスチナ人のすべてが難民というわけではない。その一方で、UNRWAには約590万人が難民として登録しているが、1948年の当初と比べて支援の対象者が数倍に増加していることは重要な事実だ。UNRWAの活動国・地域は、パレスチナ被占領地(ガザ地区と東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区)、ヨルダン、シリア、レバノンで、これらの地域には58カ所の難民キャンプが設置され、うち27カ所がパレスチナ被占領地にある。シリア紛争や「アクサーの大洪水」攻勢以来の展開でしばしば映し出されるように、難民キャンプは粗末な小屋やテントや仮設住宅ではなく、中高層建築もある街区となっている。これは、難民生活が長期化していること、UNRWAの任務の中にはキャンプの社会基盤の整備が含まれることなどに起因する。また、UNRWAの事業には難民への教育も含まれており、同機関が運営する学校に登録しているパレスチナ難民の子供たちは54万人以上いる。医療や生活支援の提供も重要な活動で、UNRWAが運営する医療機関は140カ所、小口貸付の実績は47万件以上に上る。ただし、パレスチナ難民全員がキャンプに居住しているわけではなく、諸事情により彼らを政治的・社会的に包摂したくないレバノンですら、パレスチナ難民の一部はキャンプの外の諸街区で生活している

予算と財政危機

 広域で多数を対象に支援事業を行っているUNRWAには巨額の予算が必要で、同機関は2023年に支援事業のために約8億5000万ドル、緊急支援のために約7億8000万ドルの資金が必要だと拠出を要請した。例えば、2011年からのシリア紛争では、ヤルムーク、ナイラブをはじめとする大規模な難民キャンプが戦場となり、街区はまさに灰燼に帰した。巨額の資金を必要とする事業なのは間違いないが、キャンプの再建についてのニュースはほとんど出てこない。また、シリア紛争を逃れて約5万人のパレスチナ難民がレバノン、ヨルダンに移動したそうだが、彼らへの支援もUNRWAの仕事だ。なお、主な拠出国は、アメリカ、EU諸国、イギリス、アラビア半島諸国、日本、カナダ、スカンジナビア諸国である。このうち、アメリカはトランプ政権下の2018年に3億ドルを超える拠出を停止してUNRWAに財政危機をもたらした。イスラエルからはUNRWAが支援を続けることによりパレスチナ難民が被占領地への帰還権を放棄しないと見えるため、同国はトランプ政権の措置を歓迎した。UNRWAを有害とみなしてその活動を止めようとする動きは、今回が初めてではない。

考察

 「アクサーの大洪水」攻勢へのUNRWAやその職員の関与や関与の程度については不明な点も多く、断定的な評価を下すことはできない。ただ、UNRWAのような国連の機関が現地職員を雇用することも、国際機関に現地職員として雇用されるパレスチナ人が何らかの政治的傾向を持つことも、それ自体を否定することはできない。なぜなら、国際機関は活動先の地元社会と密に連携し、地元の需要に応える活動をしなくては成果を上げることはできない。その過程で、地元との懸け橋となったり、最前線で業務を遂行したりする現地職員は不可欠だ。しかも、紛争地での活動のためには胡乱な者も含む地元の顔役や有力者ともうまくやっていかなくてはならないし、テロ組織や犯罪者も含む地元の有力者の側も直接国際機関から資源を奪うようなことをしなくても、支援活動に浸透したり、そこから利益を吸い上げたりすることは可能だ。例えば、現地活動に必要な不動産、車両、設備から現地職員のあっせんに介入したり、現地職員や支援の受益者を脅したり懐柔したりして利益を還流させることもできるが、UNRWAでなくともそれを根絶することは難しいだろう。

 さらに、パレスチナ難民には何らかの形でパレスチナ解放運動諸派と関係を持たざるを得ないという切実な事情もある。難民たちは、彼らの帰還権が実現したり、帰還権への何かの補償がなされたりする場合に備え、権利を主張するために解放運動諸派の下で組織化され、その活動にある程度参加せざるを得ない。「パレスチナ人である」という精神的な拠り所を確保するためにも、パレスチナの政治・社会活動との関係は断ち難いだろう。このため、シリアでは「親シリアの」パレスチナ諸派に(たとえ消極的・形式的でも)かかわるパレスチナ難民が多くなる。レバノンのキャンプはパレスチナ自治政府(PA)の与党のファタハ、ハマースなどの諸派に加え、イスラーム過激派も支持者の囲い込みや難民社会内での勢力拡大を図っている。2007年からはハマースが与党の座にあるガザ地区では、同派との関わりを一切拒絶することがここのパレスチナ人にとって生死にかかわる問題だという点にも留意しなくてはならないだろう。

 「アクサーの大洪水」攻勢との関係でUNRWAへの非難や資金拠出の停止が続いたのは、国際司法裁判所(こちらも国連の主要機関の一つ)がイスラエルに対し「集団虐殺を防止する」よう命じた(1月26日)のと同時期だ。紛争では、あらゆる当事者が自らの立場を守ったり、自らの立場を強化したり、敵方を貶めたりするための情報発信に努めており、国連も傘下の援助機関も、そうした営みから無縁ではいられないことも忘れてはならない。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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