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イスラーム過激派の食卓:寒波に負けないアンサール・イスラーム団

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
出典:2022年1月24日付アンサール・イスラーム団

 中東というと砂漠や厳しい暑さの印象が強いかもしれないが、シリアを含む地中海東岸の地域の冬期は、それなりの量の降水があり標高が高い地域では降雪・積雪・凍結も珍しくない。2022年1月下旬、シリアは寒波に見舞われ地中海沿岸の山岳地を中心に積雪・凍結・浸水の被害も出たようだ。これについては、イスラーム過激派を主力とする「反体制派」の占拠地域やトルコによる占領地域の「難民」キャンプで、居住者が気温低下や浸水被害に苦しむ窮状が発信されている。一方、同じ地域の、しかもより環境が厳しい陣地に立て籠もるイスラーム過激派諸派は、寒波にも拘らず士気旺盛で活動することを誇示する作品群を発信した。

 本稿で紹介する作品は、2005年にイラクで日本人殺害事件を引き起こしたアンサール・イスラーム団の作品である。同派が何故本来の活動地であるイラクから遠く離れたシリアの一角を占拠し、そこに陣地を構えているのかは別稿を参照されたい。別稿でも指摘した通り、アンサール・イスラーム団は2020年9月ごろの時点でおそらくは複数の拠点に陣取る構成員たちのために、日々の食事をそれなりの規模の施設で一括調理して供給するという兵站体制を擁していた。これは、集団単位、拠点単位で食材の調達や調理をするような活動をしている団体に比べると、はるかに余裕がある活動状況である。

出典:2022年1月24日付アンサール・イスラーム団
出典:2022年1月24日付アンサール・イスラーム団

 画像1は拠点での食事風景と思われるが、肉入りの炊き込みご飯のようなものが供されている。一見したところ温かい食事を摂っているように見えるが、拠点で料理を温め直しているのか、温かい食事が迅速に提供されているのかはわからない。

出典:2022年1月24日付アンサール・イスラーム団
出典:2022年1月24日付アンサール・イスラーム団

出典:2022年1月24日付アンサール・イスラーム団
出典:2022年1月24日付アンサール・イスラーム団

 これについては、画像2のとおりバイクに食事を積んで山奥の拠点に運ぶ者と思しき者が映し出されている。さらに興味深いことに、このバイクは集落らしきところで食事の配給班と思われる集団と彼らの車両と落ち合っている模様である。画像3の左端には、ぼかしが入っているもののトラックらしき車両とそこから荷下ろしされた料理を認めることができる。さらに、バイクの男が料理を積み込む模様を、それよりも組織内での地位が高そうな者が見届け・監督しているようだ。今般紹介した映像群は、アンサール・イスラーム団が、条件の整った施設で大規模に一括調理した食事を、中継地点となる集落に輸送し、それを集落周辺の山地から担当の者が取りに来て拠点へと運ぶ、というそこそこ組織だった兵站体制を運用していることを示しているのだ。アンサール・イスラーム団は、前線の砦と後衛の兵站・指揮運営体制の両方を支え、しかもその相互がしっかり連携する組織ができているようだ。また、同派にはそれを支えるだけの潤沢な資源があるということだ。このような活動状況は、降水・降雪をろくにしのぐこともできずに窮しているキャンプの「難民たち」とは隔絶した恵まれようだと言っていいだろう。

 ちなみに、アンサール・イスラーム団が占拠している地域を含む「難民」キャンプの所在地をはじめとするシリア各地は、深刻な降水不足に苦しんでいる。実は、今期ここまでの降水状況は、深刻な水不足が生じた昨期の同時期の降水量にも達していないため、来る夏期には同じ「難民」キャンプから熱波や水不足の窮状が発信されるだろう。単純な降水量の多寡の観点からは、イスラーム過激派の拠点が雪に埋もれようが、「難民」キャンプが水没しようが、少なくとも今の3倍くらいの降水量がないとシリア全体がひどい干ばつ・渇水・食料不足に見舞われる可能性があるということだ。キャンプの人々が「現在」瀕している危機を発信して支援を募ることも重要なことだが、そのすぐ隣でシリア人民に害悪以外のものをもたらしていないイスラーム過激派が余裕たっぷりに活動していることには釈然としない。また、現在の洪水被害もさることながら、年間を通じた降水量の総量とその結果としての食糧事情などの大局的な観点からの観察をしていきたいところだ。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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