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<ガンバ大阪・定期便65>100%のイッサム・ジェバリ。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
右足痛も癒え「100%の状態」だと胸を張るジェバリ。 写真提供/ガンバ大阪

■3連勝に大きく貢献。攻撃面での手応えを口に。

 J1リーグ17節・FC東京戦で待望のホーム初ゴールを含む2つのゴールを叩き込み、今シーズン初の3連勝に貢献した。

 まずは25分。右コーナーキックをフォアサイドの佐藤瑶大が頭で落とすと、相手DFに囲まれながらも左足でゴールネットを揺らす。さらに29分には、ダワンからの縦への速い弾道のクロスボールを頭で合わせた。試合後には、来日後初のヒーローインタビューも。勝利の興奮冷めやらぬ中、初ゴールについて尋ねられ「まずはこの素晴らしい声援に感謝したい。本当にありがとうございます」と切り出し人柄を滲ませた。

「ホームでの初ゴールだったので非常に嬉しいです。2点目はダワンからのクロスボールが素晴らしかった。日々、色々と練習していることが形になりました。天皇杯2回戦は残念な結果に終わりましたが、リーグ3連勝は非常にポジティブに受け止めています。これに満足せず、これからも皆さんと一緒に勝ちを積み重ねていければと思っています」

2得点の活躍を見せたFC東京戦では初めてヒーローインタビューも。写真提供/ガンバ大阪
2得点の活躍を見せたFC東京戦では初めてヒーローインタビューも。写真提供/ガンバ大阪

 覚醒を実感したのは、J1リーグ15節・アルビレックス新潟戦だ。前線で抜群のキープ力を示しながら周りを柔軟に活かして攻撃を加速させる。

 この試合で倉田秋が開始早々の2分に挙げた先制点も、敵陣深くに出されたボールに反応したジェバリが、相手DFに対応されながらも前線で粘ってラストパスを送り込んだことで生まれたもの。さらに44分にファン・アラーノが決めた2点目も、ロングボールに競り勝ったジェバリがアラーノに繋げて前線へ。状況的には自らシュートを放つ選択肢もあったはずだが、パスを選択し追加点をお膳立てした。

 その姿は続く16節・アビスパ福岡戦でも健在。24分にはジェバリのシュートのこぼれ球をファン・アラーノが押し込んで同点ゴールに繋げた。

「ここ2試合は、1対1や試合の流れの速さにうまく順応しながら戦えていますが、これは僕一人がうまくいっているからということではないと思っています。ピッチに立つ全員が最後まで戦い抜く姿勢、走り抜く姿をしっかり表現した上でプレーできていることと、単純に僕のところにボールが入る回数が増えたこと。プラス、ボールが入った後、チームとしてフィニッシュに持ち込む回数や、そこに絡んでくる人数が増えたことが、チャンスをより多く作り出せるようになった理由だと感じています。実際、相手の4枚のDFに対して1トップを預かる僕が一人でゴールに近づくのはほぼ不可能ですが、福岡戦のように、秋(倉田)やアラーノ(ファン)とのいい関係性を作りながらチーム全体が連動してゴールに向かえば、確実にチャンスは作り出すことはできます。そう考えてもチームとして前に攻める意識、前にボールを運んでいく姿勢をピッチで示せるようになったことが攻撃面での大きな変化だと感じています」

■苦しい時間を支えた家族。サポーターの声援。そして誓い。

 今の姿を示せるようになるまでに、サッカー人生で初めて味わう苦しい時間を乗り越えてきた。チームがリーグ最下位に低迷していたその時期、自身も長きにわたって右足痛に悩まされていたからだ。もちろん、チームに迷惑がかかるほど深刻な状態なら休むことも考えたはずだが、そうではなかっただけに、準備とケアに全力を注ぐことでピッチに立ち続けた。

「沖縄キャンプで右大腿四頭筋から繋がる腱の付け根にあたるところを痛めてしまったのが始まりでした。その後一旦は戦列に戻れたものの、プレーをしていく中でまた似たようなケガをしてしまい…。ただ、せっかくコンディションも戻りつつあった時期でしたから。プレーをやめて治療に専念するか、ケガの痛みに付き合いながらそのままプレーを続行するかを考え、監督やメディカルスタッフらとも相談して後者を選択しました。今だから明かせますが、そのケガの影響で右足では100%の状態でシュートを打てない時期もありました。2〜3ヶ月、ケガを抱えながらプレーをするという状況は僕のサッカー人生でも初めての経験で正直、本当に苦しかったです。ましてやチームとしても結果が出ていない状況でしたから。気持ちが晴れない時間が続きましたが、家での子供や家族との時間が気持ちを救ってくれたし、試合になれば常に自分が持っている以上の能力を引き出してくれるサポーターの皆さんの声援に力をもらっていました」

 こうした決断の裏には、新しい場所、クラブでの挑戦には常に試練が伴うという覚悟もあった。

「これまで色々な国、チームで、さまざまな経験をしてきた中で、ガンバでのプレーを決めた時から、予想していなかったことが起きることもあるだろうと覚悟していました。地球の裏側にある国、チームへの移籍を決めたとなれば、考え方の違いや、食事面での違いはあって当然だし、自分にいろんな変化が起きることも考えられます。でもそれを想像できていたからこそ、自分が置かれている現状を受け止め、前を向けたのだと思っています。また僕がこのガンバにくることができたのは、クラブに関わる皆さんが力を尽くしてくださったからで、その姿勢、僕に対する愛情を感じてきたからこそ、自分はしっかりこの逆境に立ち向かわなければいけない、自分のベストを尽くしてクラブの期待に応えなければいけないということも感じていました」

 そしてもう1つ。プロサッカー選手として勝っても負けても、思うようにプレーができても、できなくても、サッカーから逃げないとその胸に誓っていたという。

「もちろん、僕は負けるのが大嫌いです。なので、負けた試合の後や少し前のように順位表の一番下にガンバの名前がある状況は本当に悔しく、苦しさしかありません。できることなら勝ち続けたい。いつもそう思っています。ですが、僕たち選手は敗戦からも多くのことを学び、考えます。もしかしたら勝っている時以上に、です。そしてそれは自分やチームを成長させてくれます。だからこそ、屈辱もまたサッカーの美しさだと捉えて、その場から逃げることは絶対にありません。足が痛いから、思う通りにプレーできないからちょっと休むわ、みんなよろしくね、は僕ではないからです。どんな時も、結果を出すために前を向いて戦う、サポーターの皆さんにハッピーを届けるために立ち向かう。それが僕のスタイルです」

 そんなふうに自分自身と向き合い続けた結果、ジェバリは今「痛みも癒えて100%と言える状態にある」と胸を張る。それは、冒頭に書いたここ3試合でのパフォーマンスを見ても明らかで、それぞれの試合でこれぞジェバリというべきプレーを随所に光らせながら、ゴールに近づく姿が印象的だ。

「来日し、(チームに)合流してから不運なケガが続いてきましたが、治療にかかわってくれたメディカルスタッフのおかげで、ゲームでもいわゆるポストプレーだけではなく、自分のところに収めたり、起点となったり、1対1で仕掛けるなど、持っている能力を表に出せるようになってきました。また、チームとしても今はパスサッカーだけではなく、ダイレクトにプレーできるようにもなっています。これはチームの攻撃を語る上でとてもポジティブなことだと捉えています」

チームメイトとのコミュニケーションも深めながら存在感を際立たせる。写真提供/ガンバ大阪
チームメイトとのコミュニケーションも深めながら存在感を際立たせる。写真提供/ガンバ大阪

 また試合を追うごとにJリーグのプレースタイル、個々の特徴への理解も深めており、それを「楽しい」と感じられていることも彼を勢いづけていると言っていい。

「初めてチュニジア代表の一員として来日した際、この国の文化、サッカーに触れチームメイトに『いつか日本でプレーできたらいいよね』と呟いたことがあります。ただ一方で、これまでJリーグでプレーしてきた外国籍選手のリストを見ると主にブラジル人と韓国人選手が多かったので、チュニジア人の僕がその中でプレーしていることを想像できなかったというのも本音です。ですが先ほども言ったように、僕はいろんな方が力を尽くしてくださったおかげでここにいます。日本はどのスタジアムもとても立派で、我々のホーム、パナソニックスタジアム吹田にも常に2〜4万人の方が足を運んでくださいます。僕は常々、サポーターの愛を感じられる環境でプレーしたいと思っていましたが、今はそれができています。これはすごく幸せなことで、Jリーグでプレーする楽しさ、ガンバのエンブレムをつけて戦う責任にも変わっています。正直、以前の日本のサッカーはどちらかというとブラジル的な要素を取り入れ、テクニックを重視していた流れがあったかと思いますが、近年はそれも大事にしながら走る規律、守る規律などを明確にしているチームも多く、ヨーロッパのサッカーに近づいている印象もあります。僕自身も、そのスタイルからより多くのことを学び、サポーターの皆さんが望んでいるファイティングスピリット、戦う姿を見せ続けていきたいと思っています」

 一方、プライベートでも日本の生活にずいぶんと慣れ「子供たちも日本をすごく気に入ってくれていて、生活も非常に楽しんでいるのも自分にとっては一番重要なこと」だと表情を和らげる。FC東京戦ではその子供たちを連れて入場し、集合写真にも収まった。

「家族にも力をもらった勝利でした」

 また試合後、約2ヶ月ぶりのホームでの勝利を祝うガンバクラップでは、初めてリードを任されたこともあり、テンポが早すぎてやり直しになるというアクシデントも。仲間にも助けられて無事、2度のクラップでサポーターと喜びを分かち合うと右手拳を突き上げ、雄叫びを上げた。

「僕がサッカーをしているのはファンのため。ファンの方々と喜びを分かち合えるのは最高でした。僕にとって一番重要なのは自分のゴールよりチームとして勝ち点3を獲ること。それを達成できたのが何よりの収穫です」

 そんな力強い姿とは対照的に、最近のお気に入りの日本食は、親子丼。ギャップ!!!

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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