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<ガンバ大阪・定期便91>信じ、継続して最後まで。90+9分に掴んだ、歓喜。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
執念で奪い取った三浦のシーズン初ゴールだった。 写真提供/ガンバ大阪

■決勝点は三浦弦太! 坂本一彩は泥臭く、待望の今シーズン初ゴール。

 待ちに待った追加点は90+9分に生まれた。J1リーグ第8節・サガン鳥栖戦。ゴールネットを揺らしたのは三浦弦太の右足だ。

「連敗していたので、なんとしても勝ちたかった。最後の最後でゴールを決められて勝つことができて、最高でした。チャンスがありながらも、なかなか相手の堅いブロックをこじ開けられなかったですが、数的優位の状況もあって、普段よりやや高いポジションを敷いていた展開の中で、ジェバリ(イッサム)がしっかり落としてくれた。宇佐美(貴史)くんからボールが入った瞬間、どうすんのかなーと思っていたんですけど、チームとして今、意識している、いい状態の選手を使うということをジェバリも意識して落としてくれたのかなと思います。劇的という意味も含めて現時点での自分のベストゴールになりました(三浦)」

 昨年から、練習後の自主トレの際には、よくFW陣に混ざってシュート練習をしている三浦の姿を見かけたが、この日のためだったのか。

「いつも練習が終わってから無駄にシュート練習をしていたので(笑)。その成果なのかはわからないけど、思い切って打ってよかった(三浦)」

 加えて言うなら、今シーズンの三浦は練習後、決まって鈴木徳真や倉田秋、美藤倫、半田陸らの輪に加わって『止めて、蹴る』のトレーニングも重ねている。珍しい光景に、一度理由を尋ねたら「足元の感覚を高めるため」と話していた。

「中盤の選手とかがするトレーニングってイメージがあるけど、個人的には、それをするようになっていい感覚も掴めているし、後ろからのビルドアップを考えても足元の技術があるに越したことはないので。僕は小さい頃からあまりその部分をやってこなかったし、プレースタイル的にやる必要もあまり感じていなかったけど、最近はやればやるほどタッチの感覚が良くなることに味を締めて続けています(笑)。そんな急に巧くなることはないだろうし、一緒にやってる中盤のメンツに比べたら下手くそですけど、こんな短期間でも感覚が良くなるってことは、続けていたら効果があるだろうなと。その部分が自分に加わればもっとピッチの上で怖さを発揮できるんじゃないかと思っています(三浦)」

 そしてもう1つ。三浦の決勝点がドラマチック過ぎて見逃されがちだが、鳥栖戦を語る上で忘れてはならないのが前半終了間際に坂本一彩が奪った同点ゴールだ。チームメイトが口々に「前半のうちに同点に追いつけたのが大きかった」と振り返った一点は、坂本が欲して続けたものでもあった。

「ここ数試合、自分としてはあまり満足のいくようなプレーができていなかったのに継続して使ってもらっていたので。自分への歯痒さから自分じゃないんじゃないか、と考えてしまうこともあって…。それだけに今日こうして結果を残せたのはすごく自信になった。正直、VAR判定になった時点で、僕の角度からだとわかりづらかったこともあり、取り消しになるかなって思っていたけど(笑)決まって良かったです(坂本)」

ガンバユース出身の坂本。ポヤトス監督は「ディフェンス面でも助けられるし、攻撃のリズムも変えられる」と評価を寄せる。 写真提供/ガンバ大阪
ガンバユース出身の坂本。ポヤトス監督は「ディフェンス面でも助けられるし、攻撃のリズムも変えられる」と評価を寄せる。 写真提供/ガンバ大阪

 思えば、4節・ジュビロ磐田戦に途中出場した頃から、J1リーグのスピード、強度に慣れるにつれて「なんとなく取れそうだなって気配は高まっています」という言葉を繰り返していた坂本だが、以降もチャンスはありながら取れない時間が続いたからだろう。「開幕からチャンスをもらってきたことを思えば、思っていたより遅かった」と苦笑い。それでも「ボテボテだったけど決められたのは自分にとってすごく大きい」と胸を張った。ファジアーノ岡山への1年間の期限付き移籍を経て、期する思いを胸に復帰していた今シーズンだっただけに、パナソニックスタジアム吹田で決められたのも嬉しかった。

「J1でやりたい、ガンバで戦いたいって思いで復帰して、開幕戦から使ってもらったのに、自分が全然物足りなくて。でもやり続けるしかないという思いでやってきた。当たり前のことながら、J1リーグは寄せてくるスピードも、判断のスピードも全然違う。だからこそ、開幕前からもっともっとその部分を早くしていかないと自分のプレーを発揮できないということを感じていて…。でも、途中出場を含めて試合を重ねるうちに、自分が足りなかった部分を補えるようになったというよりは徐々にJ1の環境に慣れてきたことでプレーの判断や強度を出せるようになってきたし、力の出し方みたいなところも掴みつつあるので。あとはそれを数字に繋げるだけだと思っています。とはいえ、取れない時間が長くなると、自分にも焦りが出てくるし、何よりチームの力になれていないと思うことで考えることも多くなってしまう。だから早く点を取りたいです。パナスタのあの雰囲気の中でそれができたら最高だなって思っているし、そうなれば自分のギアもまた上がる気がしています(坂本)」

 3月末、改めて自分にリマインドしていた言葉を、ようやく実現に漕ぎ着けた今シーズン初ゴールだった。

■前節・横浜F・マリノス戦から紡がれた決意。

 鳥栖戦に向けた戦いは、前節の横浜F・マリノス戦が終わった瞬間から始まっていた。理想的にボールを動かしながら攻勢に試合を進め、相手の倍近い21本ものシュートを打ちながら完封負けを喫した、4日前の試合だ。

 ロッカールームに引き上げたチームメイトに向かって、キャプテン・宇佐美貴史は真っ先に口を開き、チームに投げかけた。

「こういう状況の時に、自分たちのサッカーを疑っちゃいけない。自分たちの力を信じて前に進んでいこう(宇佐美)」

 もちろん、今シーズンのベストパフォーマンスと言っても過言ではない圧巻の存在感を示しながら、それを明確な数字に繋げられなかった自分への悔しさはあった。試合後、ミックスゾーンで「自分も含めて決めればいいだけ。それだけです」と切り出したことからも明らかだ。ただ、昨年、勝てない苦しさが続いた中で戦い方を含めてチームが揺れ、結びかけていたはずの糸が解けていくような経験をしたからだろう。ここが、チームの踏ん張り時だと感じ取っていた。

「決めなくちゃいけなかったけど、決めればいいだけ、と言えるところまではきているので。ノッキングするような展開になったとか、ボールが回らないとか、自分たちで崩れていくという内容ではなかったし、チームとしてやりたいこと、打ち出したいものは表現できた。ただ、一発で決められる選手が向こうにはいて、うちにはいなかったということ。マリノスを相手にこれだけ撃ち合えた試合はここ数年なかったし、どっちに転んでもおかしくない試合だったと思いますけど、マリノスがしたたかに勝ちに持っていったのかな、と。その部分の未熟さは感じましたが、全然悲観する内容ではなかったと思っています。だから、とにかくやり続けること。みんなでブレずに進んでいこうと思います(宇佐美)」

 その言葉に仲間も反応し、各々が課題を受け止めつつも、ポジティブな言葉を口にして前を向いた。

「決めてさえいたら、というのは誰が見てもわかる試合になったとは思いますけど、決まらなかったことが全て悪いわけではなくて、みんなが前にいこう、勝ちにいこうと気持ちをそのままプレーに出しながら、あれだけシュートを打ったのは成果だと受け止めています。やろうと思えばできると示せた試合だったと考えれば、毎試合、これをやり続けて、毎回、打ち続けていくだけ。それがいつか必ず1点ということではなく、複数点につながっていく日が来る。だからみんなで絶対に諦めずにやり続けなきゃいけないと思っています。これで7試合を終えたけど、僕たちにはまだあと31試合ある。何が今日の試合で積み上がったのか、ということに自信を持つことが、残りの試合での勝ち点に変わっていくと思っています(鈴木徳真)」

「シュート数でも相手を大きく上回ったことを考えれば、決定力の差だったと言わざるを得ない。ただ、それは前の選手の責任だけじゃなくて、これだけセットプレーでもチャンスを作ったのなら、もっとそこで脅威になるようなプレーをする必要があったと思っています。マリノス相手にゲームを支配する時間も長かったし、シュート数を見ての通り攻勢に出られていたと考えれば、下を向く必要はない。ただ、内容は悪くなかったとはいえ、結果として残るのは負けているという事実だからこそ、こういう試合を確実にものにしていく力をつけていかなくちゃいけないし、最後の質のところ…それは攻撃だけじゃなくて、僕ら守備のところでもしっかり粘らなくちゃいけなとも思います。ビルドアップのところも、毎試合相手のプレスの掛け方も違う中で、状況をしっかり認識しながらもう少しスムーズに前に入れられるようにしていきたい。この4連戦で一度も勝てていないのは痛いけど、残りの連戦で勝っていけばまた上に戻っていくチャンスもある。しっかり課題も受け止めた上で、今日やれた部分、よかった部分はポジティブに捉えて鳥栖戦に繋げたいと思います(三浦)」

「前半からガンバの方がチャンスも、決定機も多く作っていた中で、ポープ・ウイリアム選手はそれを全部防いで、僕はやられてしまった。敗因はGKの差だと受け止めています。今日の試合を見ると、前線の選手の決定力不足がクローズアップされがちですけど、僕ら守備陣はそう思っていません。前の選手は死ぬ気で、前からボールを奪うためにすごい走ってくれていたからこそ、僕らはもっといい状態でボールを入れるとか、前が余裕を持ってチャンスシーンを迎えられるような展開にしなくちゃいけなかった。また、今日のような攻勢の展開でもポロッと失点しまうのがサッカーだということを何度も経験してきた中で、最後はやっぱり後ろが踏ん張ってやらせないことも意識しなくちゃいけないこと。ただ、今日の試合を見ての通りやれた部分もたくさんあったので。この連戦ではそこに目を向けて進むことも大事になのかなと。また1つ前の北海道コンサドーレ札幌後に、弦太(三浦)や進之介(中谷)と話していた課題も今日、みんなでリマインドして表現できたと考えても、お互いがしっかり口を開いて、意思疎通をする大切さも改めて実感できた試合。だからこそ、今の戦いを継続して、考えをぶつけ合って、仲間を信じて、チャレンジを続けながら勝つ確率を上げていきたいと思います(一森純)」

■キャプテンの思いのもと、ガンバに関わる全員で貫き、戦い抜く。

 そんなふうに、それぞれが胸に誓った言葉をプレーで表現することに力を注いだ鳥栖戦。三浦であれば「自分たち守備陣も脅威になるプレーを」という思いをゴールで体現し、一森は「後ろが踏ん張ってやらせない」姿を最終盤のビッグセーブで示した。

 そして宇佐美は、この日もチームの先頭に立ち、疲労が色濃く感じられる中でもゴールへの執着を示し続けた。

 実はマリノス戦で試合終盤に脇腹を痛めていた宇佐美は、この日の鳥栖戦も前半のプレーで内転筋にやや違和感を覚えていたが「この状況で交代するわけにはいかない」とピッチに立ち続け、繰り返し『キックの精度』で攻撃を加速させた。

 特筆すべきは三浦のゴールにつながった最後のクロスボールだ。10分近いアディショナルタイム、その中で繰り返されたコーナーキックで、足の疲労はマックスに達していたであろうことは容易に想像できる。だが、90+9分も宇佐美は自身が蹴った左コーナーキックがクリアされたボールをもう一度、ハーフウェーライン近くまで自ら拾いに行き、一番奥にいたイッサム・ジェバリを目掛けてロングボールを「魂で」放り込んだ。

「大外が空いていたのは見えていたので、早いボールじゃなくてもいいから、そこに届かせることを意識して、弦太かジェバリが競られるように、高いポイントから彼らのところに落とすようなイメージで蹴りました。相手も疲れている感じだったし、折り返して何か起これば、と思っていました(宇佐美)」

 ピンポイントでジェバリの元に届けられたボールは「高いポイントから落とされた」ことで、受けた側にとっても優しい弾道に。それをジェバリが丁寧に胸で落とすと、三浦が右足を振り抜きゴールネットを揺らす。その瞬間、パナスタは大きな興奮と歓喜に包まれた。

キャプテンを背負って2シーズン目。心身両面で存在感を際立たせている宇佐美。 写真提供/ガンバ大阪
キャプテンを背負って2シーズン目。心身両面で存在感を際立たせている宇佐美。 写真提供/ガンバ大阪

 そしてもう1つ、この試合について書き残したかったことがある。試合終了のホイッスルが鳴ったあと、宇佐美が整列するよりも前にホームゴール裏に向かって、胸のエンブレムを叩き、ガッツポーズを示したシーンについて、だ。宇佐美はそれを「感謝」という言葉で表現した。

「前節の終了後、ゴール裏に行った僕たちを拍手で迎えてくれて、素晴らしい後押し、サポートをしてくれた。そこに対する感謝もあったし、なんとか今日は勝ちで返したかった(宇佐美)」

 その言葉通り、前節・マリノス戦後、悔しさを噛み締めながらゴール裏に足を運んだ選手たちをサポーターは大きな拍手で迎え入れた。

 おそらく、今シーズン、狙いとするサッカーを貫き、ゴールを目指し続けた選手たちの戦いがサポーターの胸にもきちんと響いていたのだろう。現に鳥栖戦の試合前にもスタンドには『強くなるための正念場 ブレずに貫き全員で超えていこう』という横断幕が掲げられた。

 そうして、ガンバに関わる全ての人たちの思いが注がれ、ピッチに立った全員がそれぞれに死力を尽くして戦って掴み取った勝ち点3。4試合ぶりにこじ開けたゴールも、5試合ぶりの勝利も、そしてパナスタの歓喜も、全てが貫き、信じた証だった。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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