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<ガンバ大阪・定期便90>鈴木徳真が考える「自分たちが今、すべきこと」。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
試合を読む力、パスワークで中盤を活性化させるボランチ。写真提供/ガンバ大阪

■「チームは積み上げることで形づくられていく」。大事なのはチャレンジを恐れないこと。

「今は自分たちにとって最初の正念場。ターニングポイント」

 開幕から6試合、全てに出場している鈴木徳真はチームの現状をそう表現する。

 ここまでのJ1リーグの戦績は、6試合を戦って、2勝3分1敗。最初の3試合は、引き分け(FC町田ゼルビア)、勝ち(アルビレックス新潟)、勝ち(ジュビロ磐田)でスタートを切ったものの、続く3試合は、引き分け(サンフレッチェ広島)、引き分け(京都サンガF.C.)、負け(北海道コンサドーレ札幌)と白星を掴めていない。

 とはいえ、鈴木が今を正念場だと考えるのは、何も結果だけを見てのことではない。チームがやるべきことから少しずつ離れていっている現状に危機感を覚えればこそ、だ。特に京都戦、札幌戦の2試合は、その舵を握る自分のプレーにも「物足りなかった」と目を向ける。

「もちろん、相手の戦い方や試合展開も違うので、一概に全ての試合を同じ視点では語れないと思います。ただ、札幌戦を見返すと、相手対策以前にチームのベースにしてきたことがやれていなかったのは反省しなくちゃいけない。そこが今、チームの戦いを苦しくしているとも思っています。実際、最初の3試合は、僕たち(ボランチ)のところからどんどん前線にボールを入れて、前でボールを触るとか、前でボールを持てる時間を作れていたのに、今は横に繋ぐことが増えて、そこに圧力をかけられてどんどんボールが後ろに下がり、結局はディフェンスラインから蹴らなくちゃいけなくなっていることが多くなってしまっている。それを踏まえても僕たちボランチが、もっと後ろのセンターバックが早くボールを入れたいと思わせるようなポジショニング、もらい方をすべきだし、その上で、早く前にボールを供給しなくちゃいけない。そうやって相手が整う前に前線の選手にボールを届けられれば、自然と各々の選手が前向きにプレーできるし、高い位置で時間を作れるはずですしね。もちろん、前に(ボールを)入れた上でテンポを調整するために、横パスを繋ぐとか、ボランチ間でパス交換をする、少し斜めにパスを入れてみるのは効果的だし、状況によってはバックパスを使って相手を引き出すこともやらなくちゃいけないとは思います。ただ、そこに至る前の段階で、まずは、僕らからどんどん前線にボールを入れていきたいと思っています」

 ましてや今はシーズンの序盤戦だ。昨年から継続してポヤトス監督が指揮を執っているとはいえ、13名もの選手が入れ替わったことを思えば、正直、確固たる『ベース』をもとに今シーズンをスタートしたとは言い切れない。であればこそ、鈴木も「今、ベースを作る作業から絶対に目を逸らすべきじゃない」と語気を強める。『強いガンバ』を目指せばこそ、だ。

「チームは積み上げることで形づくられていくもの。半分近い選手が『初めまして』のチームが、わずか3ヶ月で一気に全てがうまくいくはずがない。もともと、ガンバは個々の能力、質を持った選手が多いだけに、例えば、結果が出ていないからと、スタイルをすっ飛ばして蹴るサッカーをするのは簡単ですけど、せっかくここまでキャンプからいろんなことを積み上げてきたのに、それじゃあ勿体なさすぎる。何より長いシーズンを戦っていくことを考えれば、自分たちのベースがないと、目先の勝利は手に入っても1年を通した結果は手に入れられない。だからこそ、今一度自分たちがやるべきことに目を向けるべきというか。こういうスタイルの相手には(自分たちのサッカーが)できます、こういうスタイルの相手にはできません、ではなくて、どのチームに対しても、ガンバとしての『ベース』を発揮する。いろんなチーム状況を受け止めた上で、みんなが少しずつ『ベース』を強くしていく。その上で相手への策を講じながら戦いを続けていければ、最終節の結果を見た時に『ほら、ここまでこれたよね』『強いガンバになれたよね』と言える自分たちの姿があると思っています」

■鈴木が考える、たくさんのチャレンジを続ける必要性。

 そして、そのベースは、自身を含めてピッチに立っている「選手」によって左右されるものではないとも言葉を続ける。

 この連戦の中、ガンバでは今現在、ケガによって離脱する選手が相次いでいる。開幕前から別メニュー調整となっている石川慧、福田湧矢、中村仁郎、山下諒也に加え、ここ1ヶ月の間には松田陸、岸本武流ら主軸として戦ってきた選手たちが立て続けに負傷離脱に。U-23日本代表の半田陸もAFC U-23アジアカップ カタール2024出場のため、チームを離れている状況だ。

 もちろん、彼らの個性、特徴がチームとしてのベースに融合される中で、躍動感を生んでいた試合もあったことを考えれば離脱は残念なことではある。だが、他の選手も彼らと同じように、個性、特徴を備えている。

「選手それぞれに、その選手にしかない良さ、特徴があって、どっちがいい、悪い、を比べることは絶対にできないと思うんです。自分はこの武器を使えるぞ、というものを出し合いながら、互いに活かし合ってチームとして最大限の力にするのがサッカーですしね。実際、単に『走ること』一つとっても、チームには足が速い選手もいれば、運動量が多い選手もいるし、頭の回転の速さによって効率よく走りながらチームにプラスの要素を生んでいる選手もいます。そのどれもが間違いなくチームの武器になると考えても、どっちがいいかを比べることはできない。だからこそ、僕はチームとしてのベースに、それぞれが自分にしかないものを最大限に発揮し、それを活かし合えるようになるのが大事だと思っています。そんなふうに一致団結できるチームになっていけばシーズンを通して結果を求められるようになるはずだから」

チームの機能と、仲間の個性を活かすことを考えながらチームの舵を取る。写真提供/ガンバ大阪
チームの機能と、仲間の個性を活かすことを考えながらチームの舵を取る。写真提供/ガンバ大阪

 ではこの連戦の中、トレーニングをする時間も限られている中で、いかにチームとしての融合を求めるのか。鈴木は試合の中でチャレンジを続けることだと持論を展開する。

「勝てていないとどうしてもプレーすることを恐れるというか『ミスをしない』ということに思考が引っ張られがちだけど、そうじゃなくて、チャレンジし続けるしかないと思うんです。最初に話した前にボールをつけること1つとっても、10回しかチャレンジしなくて5回が成功、5回がミスになるより、僕は50回チャレンジして、25回が成功で25回はミスだったという方が絶対に後々の戦いにつながっていくと思う。実際、試合中、前者のように少ないチャレンジの中でミスをすると、それがすごく際立って映るけど、50回のプレーで25回のミスだと、見え方も変わってくるというか…。もちろんミスが出ないに越したことはないんですよ。でも何度ミスをしても、繰り返し果敢にチャレンジを続けていれば、自分たちのチームには必ずプラスのモチベーションに変わるし、相手チームに対してのプレッシャーにもなる。自分が50回のチャレンジをするということは、周りの選手も同じようにプレー回数を得られるということでもありますしね。だからこそ僕は、何度ミスが出ても勇気を持ってボールをつけたいし、その成功体験、失敗体験を数多く得ることでチームスタイルを定着させていきたいと考えています」

 4月10日に対戦する、一昨年のJリーグ覇者であり昨年も優勝争いを繰り広げた横浜F・マリノスが相手でも、だ。

「連戦の4試合目で、僕を含めて誰が先発を預かるのかはわからないけど、勝たなきゃいけない試合だということはみんながわかっています。でも、結果は後からついてくるものだから。勝たなきゃいけないということばかりに気持ちが持っていかれてしまったら、自分たちの戦いを見失うことになりかねない。だからこそ、まずは自分たちがマリノスを相手に何をするのか、何をしなくちゃいけないのかを徹底した上で、各々が自分の個性を、いい部分を120%で発揮することを考えるべきだと思っています。自分たちが結果を得られてきた試合は、チームとしてのベースが徹底された上で個性が表現されたということを踏まえても、です。それをもう一度、思い出しながら勝ちにいきたいと思います」

■立ち位置を受け入れ、すべきことをクリアにすることで『自分』を保つ。

 そんなふうに『チーム』としての戦いを描いている鈴木だが、意外にも試合にはそのことを頭から外して臨むという。チームのことばかりに目を向けてプレーが疎かになったら、自分の考えが説得力を持たなくなると自覚しているからだ。試合前になると決まって「いつも通りに自分のプレーをするだけ」という言葉を口にするのも、その思いから。チームとしての戦いを描きながら、目の前の試合に向けて最大限の準備をやり切ったら、先発でも、途中出場でも変わらない温度で自分のプレーに気持ちを注ぐ。

「試合に出られないと、選手って『なぜ?』って疑問を持ちがちだと思うんです。なぜ、自分は認められなかったのか? どうして試合に出られなかったのか? って。でも、そのモヤモヤが続くと、必ず、自分のいいところを見失ってしまう。それをこれまでのキャリアで経験してきただけに、今はまず自分の立ち位置を受け入れるようにしています。その上で、自分が出た時に何ができるのか、自分の良さは何なのかをクリアにしながら感覚的に動ける状態を作っておくというか。そうすれば仮に途中から出ることになっても、展開に応じて自分がやるべきことは明確だから。それに僕の場合、スタメンを取りにいくことばかり考えるようになると、プレーが空回りするのがわかっていますしね。だから常に平常心で、自分がやるべきプレーをすることに集中しています。それができれば…かつ、さっき話した、与えられた時間の中で繰り返しチャレンジすることを心掛けていれば、チームのピースとしての役割を果たすことや、チームがうまく回ることはもちろん、チームの結果にもつながっていくと思っています」

 そんな話を聞きながら、チーム練習後に決まって『止めて、蹴る』の自主トレを繰り返してきた彼の姿を思い出す。時間にして10分ほど。3〜4人の選手と2〜3メートルの距離のボールを左右両足でひたすら蹴り続ける。以前、その狙いを尋ねたら、かれこれ2年以上も続けていると返ってきた。

「真ん中でボールを受けた時にスパッと縦パスを入れたいので、そのプレースピードと正確性を上げるためにやっています。繰り返しているうちに、だいぶ速くできるようになってきました。足元でボールをピタッと止められるようになれば、次のプレーが理想的にできるので。地味だけどめちゃ大事だと思って続けています」

 チームも、個人も、やるべきことから目を背けず、勇気を持ってやり続けること。チャレンジを恐れないこと。その積み重ねの先にある結果を掴むために。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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