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<ガンバ大阪・定期便62>試行錯誤の末に、黒川圭介が刻んだ1ポイント。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
左サイドバックとして今シーズンもフル稼働を続けている。写真提供/ガンバ大阪

 選手の誰もが「大きかった」と振り返った、J1リーグ15節・アルビレックス新潟戦で、勝利を大きく引き寄せた3点目を決めたのは、黒川圭介だった。2-0で迎えた後半。立ち上がり早々に失点を喫し、1点差に詰め寄られたものの、その8分後、左足の一撃で嫌なムードを払拭した。

「右から流れてきたボールを、悠樹(山本)を経由して、秋くん(倉田)が運んでくれて左サイドに持ってきてくれた中で、ヒデくん(石毛秀樹)がふらっ〜と近くに寄ってきているのがわかったので、そこを使って背後を取りたいなと思っていました。ヒデくんに一旦、預けることで相手DFの目線が一度そっちに動くので、そのタイミングで走り出してボールをもらいたいな、と。実際、そのイメージ通りに背後に走り出したら案の定、相手DFがボールウォッチャーになっていたので、あとは相手より先にボールを触ることだけを考えていました。ヒデくんからのボールが思ったより少し中にきたんですけど、そのおかげで相手が見合うような、対応しづらいボールになり、僕も足を止めずに最後までボールに食らいつけたことで得点になった。(後半立ち上がりに)1点を返されて少し嫌な雰囲気もあり、相手の時間にもなりかけていましたけど、後半に入る前にリマインドしていた、3点目を奪って試合を終わらせる、という状況は同じだと思っていたし、みんながその気持ちを切らさなかったことが得点に繋がった。僕も大きな得点だったと思っています(笑)」

 アシストした石毛もまた「失点の仕方が悪かったから、あそこで取り返せたのはすごいよかった」と振り返った。

「圭介とは普段からよく話をしていて『あそこに入っていくのでヒデくん、ワンツーで出せそうなら出して欲しいです』って常に言われていました。あの時は秋くん(倉田)も入ってきてくれていて…相手DFも僕と圭介の関係だけを見ればいいわけではなかったし、実際、相手DFの視界にも秋くんが入っていたはずで、だから圭介が大外から勢いを持って上がっていけたんだと思います。イメージしていたより少しボールが内側に入っちゃったんですけど、あそこらへんのスペースに蹴りたかったのと浮き球を使うところまではイメージ通りでした。圭介が走り込むまでの距離がややあったので、浮き球で時間を稼ぎたかったのもありました(石毛)」

迫力のある攻撃参加、クロスボールの精度は黒川の持ち味。写真提供/ガンバ大阪
迫力のある攻撃参加、クロスボールの精度は黒川の持ち味。写真提供/ガンバ大阪

■苦しんだ序盤。プレーの迷いを払拭する中で見出した光。

 左サイドバックでレギュラーに定着した昨年の戦いをもとに、今シーズン、ゴールとアシストを合わせて『10ポイント』を目標にスタートを切った黒川だったが、サイドバックの動きが限定される『ポヤトス・ガンバ』において、序盤から自分のプレースタイルをチームが目指すサッカーにどう落とし込むべきか、頭を悩ませてきた。

「僕の持ち味は前へ前へ、ボールを運んだり、前線にボールをつけて攻撃に出ていくこと。また、個人で剥がすことでパスコースがなくても局面を変える、みたいなプレーも得意にしているのでそれをしっかり表現することは忘れたくないと思っています。ただ、今年のガンバはボールを動かすテンポ、中盤での作りが狙いの1つだと考えても、昨年以上にシンプルにプレーすることも必要になる。だからこそ、チームとしてボールを持ちながら前に運んでいくために、自分の持ち味とチームでの役割をしっかり使い分けていければと思っています」

 だが、いざJ1リーグが開幕するとチームとしてのボールの動かし方、狙いの中で黒川が攻め上がるタイミングを見出せる機会はほぼなく、それどころか、昨年磨きをかけたはずの守備でも精彩を欠くなど、本来の輝きは影を潜めてしまう。

「どことなく今は、プレーすることを楽しめていない気がします」

 3月の終わり、開幕からJ1リーグ戦で白星を掴めていない状況や、自身のパフォーマンスについて尋ねた際に聞いた言葉が、その時の黒川の現状を如実に表していたのを覚えている。

 そんな彼がようやく活路を見出したのは4月に入ってから。チームとしてどう守り、どこに優位性を作り出すのか。チーム戦術の中でいかに自分の個性を発揮するのか。試合を戦うことで、また、チームメイトとコミュニケーションを重ねることで、本来の黒川らしいプレーを示せる回数が少しずつ増えていく。7節・川崎フロンターレ戦は、それがチームとしても表現された試合になった。

「ルヴァンカップ3節・FC東京戦あたりから、前線がアグレッシブにプレッシングにいってくれることで、後ろの選手も限定した守備ができるようになってきたし、トレーニングを継続してきてダニ(ポヤトス監督)が日頃から口酸っぱく言っている球際やプレーの強度が単純に上がってきたのも感じます。試合を重ねて戦術理解が深まってきたことで、ボールを持つ際に余裕が生まれたり、切り替えのところでもいいポジショニングからボールを奪いにいけるようになってきたのもあると思います。また個人的にも、失点に絡むことが多かった時期は正直、メンタル的にキツかったですけど、それを乗り越えたというか…。今は責任は受け止めながらも、そういう時もあると割り切って先のことを考えられるようになったし、近くにいる選手とお互いがどう守りたいのか、コミュニケーションをとりながら少しずつ整理できてきました。また、攻撃についても試合を重ねる中で、いい裏切りができるようになってきたというか。逆サイドの陸(半田)とも話していたんですけど、展開によっては時に僕ら両サイドが思い切って上がらないと攻撃の厚みが出ないな、と。もちろん、常に逆サイドの動きは意識しながらですが、例えば右サイドにボールを寄せて左サイドに持っていくタイミングではガンガン上がろうと思っているし、実際にそれをプレーで表現できるようにもなってきた。そういう意味では、これを続けていけば、というものがようやく見えてきた気がします」

 そういえば、FC東京戦でプレーが途切れた際、アンカーのネタ・ラヴィ、左インサイドハーフのダワン、左ウイングのファン・アラーノと集まって話をしていた姿を思い出す。外国籍選手に一人、黒川が混じって話をしていたことからも印象に残っていたが、そこでも守備の確認をしていたという。

「あれも実は僕発信でした。一応大卒なんで、簡単な英語で(笑)。後半、プレッシングの時にギャップができ始めていて…リードしている展開の中でそのギャップを使われて真ん中にボールを運ばれるのは嫌だったので、自分を含めてスライドとカバーを徹底してやろうと伝えました。今年の外国籍選手はネタにしてもジェバリ(イッサム)にしても自分から発信する力があって考えもきちんと伝えてくれるので、そういう姿に影響を受けて、自分も感じたことは言葉にしていこうと思っているし、年齢的にも誰かについていくのではなく引っ張っていかなアカン立場だという自覚もあるので。それはピッチに立っている責任としても続けていきたいです」

今年で26歳。チームを引っ張る立場であることにも自覚をのぞかせる。写真提供/ガンバ大阪
今年で26歳。チームを引っ張る立場であることにも自覚をのぞかせる。写真提供/ガンバ大阪

■自分らしさとは何なのか。責任も力に。

 もっとも川崎戦での勝利で光が見えたかと思いきや、その後は、再び思うように結果が見出せない時間が続き、再び、チームには暗雲が立ち込めてしまう。黒川自身もチーム内で唯一、J1リーグ戦に先発出場を続けていることへの責任と結果が出せないもどかしさの中で苦しんでいたのは明らかだったが、毎試合、2つのことをリマインドして試合に向かっていたと振り返った。

「中途半端なプレーをしないこと」

「得意なプレーで勝負することを忘れないこと」

 昨年の残留争いを通じて、あるいは今シーズンの序盤の苦しい戦いの中で、チーム状況が悪い時、自身が波に乗り切れない時は、その基本に立ち返ることで、そこまで大きくリズムを崩さずに戦えるという成功体験があったからだ。

「やっていることに対して結果が出ないとどうしてもプレーが臆病になり、戦い方以前のところでうまくいかなくなるということは、去年も経験してきたので。もちろん、これだけ自分たちのミスがらみやセットプレーでの失点で落としている試合が続いているので、ナーバスになってしまうのもわかるんですけど、だからこそ割り切るところは割り切ってプレーするのが大事というか。セーフティにやるのか、チャレンジするのかの判断が、中途半端になるのが一番良くない。じゃないと、ミスがどんどんネガティブに働くし、それはよりプレーを縮こまらせてしまうことにもなりかねないので。あと、こういう時こそ、難しいプレーを選ぶのではなく、純粋に自分の得意なプレーで勝負した方が思い切ってチャレンジできるので。僕であればやっぱり仕掛けのところ、前へ前へ、という選択は忘れたくないし、そこから見出せるチャンスもあると思うので、そこは自信を持ってやり続けたいです」

 実際、J1リーグ14節・横浜F・マリノス戦は敗れはしたものの、その思いが形として表現されるシーンは多く、黒川は効果的に左サイドから好機を作り出す。これは左ウイングに入った倉田がサイドに張らずに、中に向かってプレーすることで、黒川が攻め上がるスペースが生まれたことにも起因するが、いずれにしても久しぶりに取り戻した感覚は、黒川を加速させた。

「マリノス戦の前から秋くんとはずっと話をしていて。(ボールを)出すから思い切ってどんどん上がってこいと言われていたし、実際に、秋くんは周りをうまく使ってくれる選手なので。僕が思い切って攻め上がったというより、秋くんが僕に合わせてくれていたような感覚でしたけど、そうやってうまく使ってもらうことでより攻撃に出ていきやすかったのはありました。やっぱり自分の良さは前にどんどん仕掛けていくこと。それを確認できたのもよかったし、あとはその回数を増やしながら、攻撃に厚みを作りたいし、何よりチームの勝ちに繋げられるようにしていきたいです」

 そして、その感覚が冒頭に書いた新潟戦での今シーズン初ゴールにも繋がった。

「先制した流れに勢いづいたところもありますが、相手にボールを持たれる展開になっても、今日はみんながしっかり走れていたのは大きかったと思います。僕のゴールシーンもそうですが、アラーノが決めた2点目も、左サイドからは僕が、逆サイドからはアラーノと悠樹(山本)が上がってきていたように、枚数をかけた攻撃ができていました。それ以外でも…何回か、自分がクロスを上げたシーンでも感じましたけど、新潟戦は明らかに中に走り込んでくる人数が多かったというか。ここぞというタイミングでは、練習からダニに繰り返し言われていた、ニア、マイナス、中、フォアサイドが同じレーンで被らないように入っていくこともできていた。もちろん、ボールを奪って早く攻めるだけではなく、それが無理なときはもう少し相手陣地でボールを動かして、主導権を握りたかったという反省は残りましたけど、相手もボールを持つのが得意なチームだったし、今のチーム状況を考えれば、リスクを冒すのが難しかったのも正直なところなので。1つ勝てたことで、またここから自分たちがやりたいサッカーに取り組んでいくためのきっかけにはなったのかな、と。また個人的にも、ずっと試合に出ている中でいろんな責任を感じていただけに、こういう苦しい状況で勝ちに導けるゴールを取れたのはよかったです。ただ順位を見ての通り、自分たちの状況が変わったわけではないので。ここからチームをより引き上げていくためにも、ピッチに立つ責任をしっかり感じながらチームを勝たせられるプレーをしていきたいと思います」

 試行錯誤の末にようやく刻んだ、今シーズン最初の1ポイントを、目標の10ポイントに向かうため、チームが勝利を重ねるための確かな足がかりにして。

 前へ、前へ。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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