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<ガンバ大阪・定期便54>『あの日』から約1年。右足でぶち込んだ、宇佐美貴史のゴール。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
ゴールを決めた宇佐美はスタンドのサポーターと喜びを共有した。写真提供/ガンバ大阪

 宇佐美貴史の放ったシュートがゴールネットを揺らした瞬間、パナソニックスタジアム吹田はこの日一番の歓喜に沸いた。J1リーグ4節・サンフレッチェ広島戦だ。1点のビハインドを負って迎えた70分。左サイド、福田湧矢から絶妙のタイミング、軌道で出された縦パスを受けると、カットインからゴール前に持ち込み、右足を振り抜いた。

 ホームでの宇佐美ゴールは、21年10月のJ1リーグ33節・サガン鳥栖戦以来、約1年5ヶ月ぶり。ゴール後に決まって歌われてきた宇佐美のチャントがゴールとセットでスタジアムを席巻したのは19年11月のJ1リーグ32節・ベガルタ仙台戦以来、実に3年4ヶ月ぶりのことだった。

「湧矢(福田)からのパスがすごく良かったし、前半からあそこを狙っていたという意味ではゴールだけに限っていうと理想的な得点でした。今シーズンは、ポジションがてっぺんではないので、攻撃を作りながら点を取る、ゴールに関わることがテーマで、2列目から飛び出していく形は今、自分が一番求めている形でもある。ただもっともっと絡んで、もっともっとチャンスを作ってということはできると思っていますし、自分自身もチームも修正していかなければいけない部分もまだまだあると思っています。何より、あそこからさらに自分自身も、チームとしても加速して2点目3点目を、って展開を望んでいたので、それができなかったことが今のチームとしての弱さだと思っています」

 この日の広島戦も、前節・ヴィッセル神戸戦と同様に立ち上がり2分という早い時間帯に失点し、苦しい戦いを強いられた。

「広島は前からプレッシングもくるし、タフなチームだとわかっていた中で、スタートしてすぐに相手に1つ(ゴールを)プレゼントをしてしまっているようでは話にならない。それぞれに入りからしっかり集中しているつもりだったとは思いますけど、神戸戦に続いて今回も、自分たちで自分たちの首を絞めているのは見ての通りだと思います。絶対に修正しなければいけない部分だと思っています」

 それでも前半途中から落ち着きを取り戻し、少しずつ試合を盛り返していく。特に後半に入ってからはチーム全体がギアを上げ、相手陣地でボールを持てる時間も長く続いた。

「前半から相手もほぼマンツーマン気味にタフに戦ってきていた中で、後半少し相手が落ちたのもありますけど、自分たちはギアを上げて良い時間を過ごせました。特に後半に入りアラーノ(ファン)が右からグッと中に入ってくることが増えて…少しポジションを崩す形ではありましたけど、それによって前半に見られた中盤3枚の距離間をアラーノが埋めてくれる形となり、僕としてはすごく助かりました。もちろん、右サイドの選手は右に、というようにチームスタイルも、ポジションごとの約束事もあるし、まずはそこを意識して戦うことがベースにはなります。ただ、今日のように相手にずっと1対1で対応され続けた時、あるいは、試合を重ねて(チームの)戦い方を相手に研究されていった時に、今日のアラーノのように時には自分の意思で、形を崩して中に入っていくのもすごく大事というか。実際、それによって(攻撃に)流れが生まれたと考えても、ああやって誰かが試合の流れに応じて臨機応変に、時には思い切って自分たちの形を崩していくことは今後、チームとしても必要になっていくと思っています」

 また、同点ゴールを叩き込んだあと、チャンスを作り出したにもかかわらずチームとしてそれを決めきれなかったこと。時間が進むにつれ「加速させるべきところで加速できず、そこから少し押し返されてしまった」のは課題として残った部分。彼がピッチを離れたあと、後半アディショナルタイムに失点し、敗れたことについても『攻撃』の未熟さを反省点に挙げた。

「チームがギアを上げて畳み掛けていかなければいけない時に、少しエンジンを弱めてしまうのは今日に限らずチームの課題に感じているところです。今日もそれによって相手に時間を与え、主導権を渡してしまったからこそのPK、失点だったと思っています。たられば、にはなりますけど、単純にあの時間帯も相手のコートでプレーできていれば、あの状況は起きなかった。そこは自分たちがまだまだ未熟な部分だと思っています。ただ、まだ(リーグ戦は)4試合なので。もちろん勝てていないことはサポーターの皆さんに申し訳なく思っていますけど、たかだか4試合が終わっただけで落ち込んだり、焦ったり、自分たちのサッカーに疑問を持つのは一番やったらいけないこと。積み上げて、積み上げて、続けていくだけだと思っていますし、そうすれば必ずどこかでカチッとハマるタイミングが出てくると思うので、それを信じて進んでいくだけだと思っています」

 彼にとって、この日のパナスタは昨年の『あの日』から約1年目の試合だった。忘れもしない、昨年3月6日のJ1リーグ3節・川崎フロンターレ戦。宇佐美は痛みに悶絶しながらその場に倒れ込み、担架で運び出された。右足のアキレス腱断裂だった。

 もっとも、この1年について彼自身は試合前、「めちゃめちゃ早かった。まだ1年か〜って感じ」と振り返り「今はもうあの時のことを思い出すことはそんなになくなった」と話している。事実、その思考は常にピッチでより良いパフォーマンスを示すこと、それをガンバの勝利につなげることだけに向けられており、過去に引っ張られてネガティブな感情が顔を出すことも、まずない。

 それでも、今もまだ左足首より1センチ細くなったままだという右足首と向き合う毎日は続いていて、さまざまな試行錯誤をしながらピッチに立っているのも事実だ。

「アキレス腱断裂って単に腱が切れただけではなく、その周りの細胞や神経なども一緒に断裂したってことやから。太さも含めて全てが元通りになることはないらしいし、どれだけトレーニングしようと、右足首を鍛えようと、やったらやった分だけ筋肉に変わるということも難しいらしい。だからこそ、今は右の方が弱いと自覚した上で左とのバランスを取ることを心掛けているというか。負荷の掛け方などを自分なりに調整しながらうまく付き合っている感じ。例えばケガ前の左右のバランスが5:5やったとしたら、今は6:4とか7:3の状態やから…説明が難しいけど、右足で支えて左足で地面をかく、みたいな? あくまでこれは自分にしかわからん感覚やから、見た目には絶対わからないと思うけど(笑)、自分としてはこの両足のバランスをより5:5に近づけていくことで、出力とかスプリント力を安定させたいというのが今のテーマ。まぁ、人間誰しも昨日の体と今日の体がまったく同じってことはないって考えたら、これも自分の特性やと思って付き合っていくだけかな」

 そんな戦いの日々を思えばこそ、『あの日』から約1年が過ぎたこの日のゴールを殊更に意味のあるものだったと考えずにはいられない。右足でぶち込んだ、パナスタでの宇佐美貴史のゴールを。

圧巻の存在感で攻撃を牽引する今シーズン。7の背中が頼もしい。写真提供/ガンバ大阪
圧巻の存在感で攻撃を牽引する今シーズン。7の背中が頼もしい。写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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