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ガンバ大阪・倉田秋が1日監督に! 『倉田秋カップ』がホームタウンで開催。一森純もゲスト参加。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
雪がちらつく寒空の下、終始、元気な子供たちの声が飛び交った。(筆者撮影)

■倉田秋も『監督』に初チャレンジ。刺激を受ける。

 「サッカーを通して地元を盛り上げたい」

 ガンバ大阪・倉田秋が思いを込めて18年にスタートした『倉田秋カップ』。4回目の開催となる今年は、過去最多となる全22チーム(U-9/10チーム、U-12/12チーム)が参加。12月18日、吹田市立総合運動場には約300名の子供たちが集い、カテゴリー別のリーグ戦、順位決定戦を戦った。

「約2年ぶりの開催となった昨年は、まだコロナ禍の真っ只中でチーム数を減らして開催しましたが、今年はある程度、以前の形に戻すことができました。たくさんの子供たちに参加してもらえて嬉しかったです。めちゃめちゃ寒かったのに、子供たちがめちゃめちゃ元気で疲れましたけど(笑)、僕自身も楽しめたし、いいシーズンの締めくくりになりました(倉田)」

 今回は初の試みとして、1日限定でU-12カテゴリーに『倉田チーム』を設け、自身が監督を務めた。

「僕も子供たちに負けないように、大会毎に何か1つ、自分にチャレンジを課している中で、今回は監督をやらせてもらいました。今のところ、将来的に指導者になりたいと思っているわけではないんですけど(笑)。ただ、自分もキャリアを積んできて、ここ2〜3年は特に言葉の大切さを痛感し、伝え方などを学ぶために本を読むとか、人の話を聞いて僕なりに勉強しているので。その伝える対象が子供となれば、大人以上にたくさんの言葉を要するし、自分がいろんなことを意識しないと伝わらないはず。だからこそ、いい勉強になると思いチャレンジを決めました(倉田)」

 残念ながら倉田チームは決勝に進出しながらPK戦の末に敗れたが「(指導は)難しかったけど、楽しかった」と振り返った。

「狭いコートでのサッカーはめちゃめちゃ展開も速く、子供たちに指示を出したり、それが変化につながるように持っていくのは難しかったです。他のチームの試合も見なければいけなかったので大して監督らしいことはできなかった気もするけど、僕自身は新たな刺激をもらえました(倉田)」

初めて経験する監督業について「難しかったけど新たな刺激をもらえた」と振り返った。(筆者撮影)
初めて経験する監督業について「難しかったけど新たな刺激をもらえた」と振り返った。(筆者撮影)

■一森純がGK陣に伝えたかったこと。

 そんなふうに、子供たちとの触れ合いを通して刺激を受けたのは、倉田の思いに賛同してゲスト参加となったチームメイトのGK一森純も同じだ。一森はレノファ山口に在籍していた時代、最初の2年間はアマチュア契約だったことから、選手をしながら小学生が対象のサッカースクールでコーチをしていた経歴を持つ。それもあってか、子供たちとの距離の詰め方、言葉がけも上手く、それぞれに寄り添った指導が目を惹いた。

「秋くん(倉田)主催の大会なので、秋くんが普段からキャプテンとしてチームでも発信し続けてくれていた『楽しもう』を心掛けつつ、僕なりに子供たちの目の色、表情などを見ながら少し言葉がけを変えるといった工夫をして指導にあたりました。自分の子供時代の経験からも、子供の時にプロサッカー選手と触れ合えた時間はきっと記憶に残る。だからこそ、僕自身もプロサッカー選手たる姿をしっかり魅せなければいけないと思い、どれだけ寒くても、クタクタに疲れていても、絶対にそれが伝わらないように自分に求めていました(笑)。また小学生年代はGKコーチがいないチームも多いはずなので、できるだけ多くのことを伝えられればいいなと思っていましたが、この短時間で教えられる技術はそう多くはないですから。どちらかというとGK同士だからわかるメンタルについてのアドバイスを心掛けました。それが届いたのか最後の集合写真を撮影する時には声をかけた選手たちがパッと僕の横に来てくれて…『ああ、もしかしたら伝わったのかな』と思って嬉しかったです(一森)」

 今回はワールドカップ・カタール大会の期間中に行われ、そのW杯では日本代表戦を含めて『PK』が注目を集めることが多かったからだろう。『倉田秋カップ』でもPK戦は特別な盛り上がりを見せ、時に同点のまま試合終盤に差し掛かると「PK! PK!」とPK戦突入を期待する声も飛んだが、それについても「GKが注目を集めるのはいいこと」だと言葉を続けた。

「ドイツなどヨーロッパにおけるGKは、子供たちに人気が高いポジションですが、日本ではまだまだそうとは言えない。『じゃんけんに負けた選手がするポジション』というようなイメージも根強く残っていると思います。だからこそ、僕たちプロのGKが魅力をもっと伝えていかなければいけないと思っていますが、今回のW杯のようにPKシーンがより注目を集めたことで、GKの面白さに気づいてくれる人が増えれば嬉しいです。それによってGKをやりたい! という子供たちが増えれば、いい競争が生まれ、さらにいいGKがたくさん誕生するはずなので。ただ、今日もそうですけど、PKでのGKは…活躍すれば賞賛されますが、活躍できなかった時のダメージも大きいですからね。今日も止められずに泣いているGKがいましたが、止められなかった=ダメではないし、それが評価の全てでもない。その辺りは指導者も含めてしっかり伝えていくべきだと思っています(一森)」

■「何気ない記憶が子供たちに残れば」の思いを込めたファンサッカー。

 また、大会後には『ファンサッカー』と題した紅白戦を実施。スタッフ陣も全員参加し、約1時間にわたってボールを蹴った。ほとんど休むことなくピッチに立ち続けた倉田、一森は紅白戦後「子供たちが元気すぎ! ヘロヘロです!」と声を揃えたが、一方で充実の表情をのぞかせた。

「子供たちの成長には真剣勝負の試合が一番だと思うので、大会では勝負にこだわって戦ってもらいたいですが、一方で、子供たちにとって僕らプロサッカー選手と触れ合う経験も特別な時間であるはずですから。というのも、僕も小学生の時にガンバの練習を見に行って…エムボマ選手がどんなプレーをしていたのか、ということ以上に、クラブハウスからグラウンドに通ずる坂道ですれ違った時に見たエムボマ選手の足の長さや太さ、漂わせていた空気が印象に残っている。だからこそ、今大会でも、試合の合間に僕や純(一森)と触れ合ったことや、言葉を交わしたこと。一緒に試合をしてパスを出した、受けた、僕からボールを奪った、みたいな何気ない記憶が子供たちに残ればいいな、と。そういう思いもあるので毎回、ファンサッカーにはできるだけ長い時間を割いているんですけど…さすがに子供たちにあのパワーで来られると、最後は僕も純も、立っているだけで精一杯みたいな感じになっていました(笑)。ただ、さっきの話じゃないですが、僕は子供たちと同じピッチに立っているだけでも十分だと思っているというか。技術を盗むとか、何かをヒントを持ち帰れるほどのことはなかったかもしれないけど、僕や純と一緒にボールを蹴った経験が、彼らの心に何かを残していたら嬉しいです(倉田)」

 実際、そんな倉田の思いは、大会の至るところでも感じられた。「子供たちが参加しやすいように」と子供の参加費が無料なのも1つだが、大会中、試合を観戦する時に倉田が決まって子供たちの間に腰を下ろし、目の前のプレーに一緒になって盛り上がっていたのも印象的だ。時に子供たちに肩を揉まれたり、抱きつかれながらもニコニコと笑っていたのも、その胸の内にはプロサッカー選手の体がどういうものかを肌で感じてもらいたいという思いがあったのかも知れない。

子供たちに囲まれながら試合を観戦。目の前の試合に一緒に盛り上がる姿も。(筆者撮影)
子供たちに囲まれながら試合を観戦。目の前の試合に一緒に盛り上がる姿も。(筆者撮影)

■2023シーズンに向けた倉田秋、一森純の決意。

 そうして、様々な思いを注いで子供たちと向き合った『倉田秋カップ』は、子供たちの笑顔と歓声がグラウンドに溢れる中で終了。閉会式では、倉田が代表して挨拶に立ち「サッカーに限らず、どんな時もしっかりと物事を考え、チャレンジすることを臆さないでいてほしい」とメッセージを伝えた。

「何を言おうか迷った挙句、僕が普段から大事にしている『考えること』『チャレンジすること』の2つの話をしました。と言っても、僕自身の子供時代は、全くチャレンジャーではなかったというか。サッカーでは自分で考えることもチャレンジすることもできていた気がするけど、それ以外は…人前で話すことを含め、自分が苦手とすることは面倒くさがったり、恥ずかしがってやろうとしなかった。でも大人になって、それによって損をしたことがたくさんあると気づいたというか。どうせならチャレンジして失敗した方が得るものは必ずあったはずだし、もしかしたら、サッカー以外の違う才能に気づくきっかけになったかもしれないのに、もったいなかったな、と(笑)。そんな過去の自分の経験を踏まえたメッセージでした(倉田)」

 また、この2つは「自分もなくしたくないもの」だと続け、改めて来シーズンに向けた決意を口にした倉田。一森もそれに続き、胸の内を言葉に変えた。

「今年はチームとしても個人としても悔しいシーズンになった中ですでに来シーズンに向けて僕自身も新しいチャレンジを始めています。その1つが『走り方』の部分。スピードを出すためというよりは、加速がしやすくなるとか、力を入れずに走れるようになることを目的に、本やYouTubeを見ては試してみる、を繰り返しています。人に教えてもらった方が(習得は)早いかもしれないけど、今はとにかく自分でああでもない、こうでもないと考えながらやるのが楽しいし、その方が身につく気もするので。実際、少し走り方のフォームを変えるだけですごく走りやすくなったという手応えもあるので、オフの間に自分なりの理想の走り方を見つけて、それを意識せずともできるようになりたい。それが来シーズンのプレーの変化につながればいいし、それによって1年を通してピッチに立ち続けたいと思っています(倉田)」

「ガンバに加入した時からヒガシくん(東口順昭)という高い壁にチャレンジすることを自分に課して戦っていますが、それは来シーズンも変わりません。その上で、ガンバで結果を残せる選手になれるように、このオフは練習初日からマックスで臨むための準備をして新シーズンを迎えたい。またポヤトス新監督がどういうサッカーをするのかはわかりませんが、僕自身は、常に求められた仕事に対応できるように…蹴るにしても、繋ぐにしてもGKとしていろんな『引き出し』を持っておくことが大事だと思っているので。実際、ヤットさん(遠藤保仁/ジュビロ磐田)も然り、僕の中での『いい選手=どの監督からも必要とされる選手』でもある。だからこそ、その準備をしっかりして、来シーズンはポジションを勝ち取れるように、チームに貢献できるようにしたいと思っています(一森)」

 大会を通して子供たちから受け取った、たくさんの目の輝きと笑顔を刺激に。ガンバを引っ張るベテラン二人は、すでに2023シーズンに向けた戦いをスタートさせている。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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