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<ガンバ大阪・定期便42>全員で引き寄せた2ゴールと勝利。1プレーに、それぞれの思いを込めて。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
思いを一つに、横浜F・マリノスから勝ち点3を掴んだ 写真提供/ガンバ大阪

■宇佐美貴史と食野亮太郎が交わしていた約束。

 79分。宇佐美貴史の右コーナーキックから始まった展開が、食野亮太郎の左からのクロスボールに合わせたパトリックのゴールで完結したあと、宇佐美はやや離れた距離にいた食野を指差して近づき、ガッツリと抱擁して、抱き上げた。

「(2点目は)コーナーキックの流れから奪ったゴールでしたけど、そのセットプレーのチャンスを手にするまでの流れ…左から流れてきたボールを僕から康介(小野瀬)に出し、康介が瑠(高尾)を使ってアラーノ(ファン)のシュートと、ショートカウンター的に崩せたことが、2つセットになって奪えたゴールだと思っています。いい攻撃と、セットプレーのクオリティが続けば、ああやってゴールになる。そういう展開がすごく重要だと思っていたし、狙い通りの攻撃ができたシーンでした。ここ最近は、なかなか途中から出てきた選手がうまく試合に入れていない試合が続いていましたけど、途中から出てきた選手がしっかりパワーを出せるチームが勝っていくチーム。だからこそ『今日も全員で戦おう』と試合前から話していたし、今日はキャプテンマークを巻いて試合に出る立場の選手として、ベンチの若い選手にもそういう伝え方をしていた。中でも亮太郎(食野)には特に強く伝えていたので、ああいう喜び方になった。パト(パトリック)のゴールもですけど、亮太郎がアシストをしてくれたのも僕としてはすごく嬉しかった(宇佐美)」

 食野もまた先発を外れた悔しさはありながらも、宇佐美の言葉を胸に集中して試合に入れたと振り返る。「僕のアイドルはずっと変わらず宇佐美くん」と話す食野にとっては、特別なアシストになった。

「試合前から宇佐美くんにはいい準備をしておけと、何回も、念押ししてもらっていました。この試合についての強度がどういうものになるのか、その中で自分たちは何ができるのか。この試合の重要性も含めて二人でいろんな話をしていたし、ベンチスタートになった悔しさはありましたけど、それ以上に限られた時間の中でもなんとか力になりたいという思いも強くて、チャンスがきた時にはかなり集中して(試合に)入ることができました。それが、あのファーストタッチでのアシストにつながったんだと思います。僕はやっぱり宇佐美くんのことが大好きやし、僕にとってのアイドルはずっと変わらず、宇佐美くんなんです。まだまだ僕の力は宇佐美くんには及ばないですけど、同じアカデミー出身選手として、ガンバに対する熱い思いだけは通ずるところがあるというか…僕も宇佐美くんと同じくらい強い思いを持っている中で、その宇佐美くんのコーナーキックからの流れで僕がアシストして試合を決定づけられたのは、ほんまに最高でした(食野)」

■狙い通りのセットプレーから掴んだ先制点と守備陣の奮闘。

 終わってみれば首位の横浜F・マリノスを相手に2-0の完勝だったものの、正直、前半は何度もヒヤリとさせられた。特に立ち上がりの入りは悪く、再三にわたって横浜F・マリノスにゴールを脅かされた。相手に与えたコーナーキックは開始5分で4本。守備陣を中心に跳ね返し続けたものの、この状況が続けば正直、どこかでゴールを割られるかもしれないという不安もあった。

 その流れを断ち切るきっかけになったのが8分にファン・アラーノが決めた先制ゴールだ。宇佐美の蹴った右コーナーキックが高い軌道を描いてダワンにピンポイントであわされると、そのダワンが相手DFと競り合いながらヘディングで折り返し、右ポスト前にいたアラーノが頭で押し込む。横浜FMは今シーズン『セットプレー時にファーサイドで折り返されて失点する形が多い』という分析のもと、この1週間、準備してきた形だった。

「セットプレー時の相手の弱点はしっかり落とし込まれていたし、キッカーとしても狙い通りに蹴れた。自分がしっかり思ったところ、チームとして狙いとしているところに蹴れればチャンスになるとわかっていたのでその通りになって良かった(宇佐美)」

「昨日の前日練習でセットプレーの確認をした時に、似たようなシーンがあったんですが、そこでは取りきれず、でも今日の試合でもう一度似たような状況が生まれ、そこではしっかりと点が取れた。チームの戦う姿勢が出たゴールだったと思います。鹿島アントラーズでのラストマッチをこの日産スタジアムで戦った時は、泣きながらピッチを後にしましたが、今日はガンバでのファーストゴールを決められて、それが勝ち点3につながって幸せな気持ちになりました(アラーノ)」

 もっとも、先制点を奪ってからも、試合のイニシアチブは常に横浜FMに握られ、繰り返しシュートを打たれた。ガンバのシュート数6(前半2、後半4)に対して、横浜FMはその4倍近い22本(前半12、後半10)。それでも守備陣を中心に体を張り、最後は再三にわたって東口順昭が砦となった。試合後、その守備陣は「こうした展開は覚悟の上で臨んだ試合だった」と声を揃えた。

「攻められるのは分かっていたし、そこでどれだけ耐えられるかという話はしていたので集中して守れた。ボールを持たれたとしても最後だけやらせなければOKという意思統一もできていました。もちろん理想を言えば、自分たちの時間をもっと作りたかったし、準備期間の中では当然、そういう練習もしてきましたけど、これまでの対戦を振り返ってもなかなかそれができていないのと、割り切ったサッカーをすればこのスタジアムでは勝ててきたので。攻撃のこと以上に、切り替えのところと守備ブロックのところはより意識して準備してきたと考えれば、狙い通りの試合になりました(東口)」

「個人的には、ここ最近のマリノス戦に出場していなかったんですけど、上から見ていても我慢の展開になることが多かったし、今日もそうなるんじゃないかと覚悟していました。早い時間帯に先制できたことで、相手はより前に出てこないといけない、ブロックに割り込んでこないと得点が取れない状況になったので、そこでしっかり跳ね返せればと思っていました。マリノスは両サイドバックが高い位置を取ってくるのに対し、僕らは中にポジションを取っていましたが、そこで相手に惑わされないようにすることを心がけました。人中心に守備をしようとすると、どうしてもマンツーマン的になって入れ替わりが激しくなる。でも、今日はボールが動かなければしっかりステイをするというように、ボール中心に守れたのも良かったんじゃないかと思います。再三に渡って攻め込まれましたが、あそこまで押し込まれると少しのスライドで済むのでセンターバックとしては楽なんです。逆にオープンな展開になるほど僕たちの仕事は多くなるので。そういう意味では今日は、アラーノ(ファン)と康介(小野瀬)の負担が大きかったはずで、彼らに助けてもらうことも多かったです(昌子)」

「チームとして守備に重きを置いて入った試合で、先制点を取れた時間帯も早かったことでチーム全体に力が蓄えられた感じはしました。ただ、これまでは先制した後も失点してしまうことが多かったので、それだけはないように集中していました。後半途中からマリノスが前線の顔ぶれを代えてきた中でも、チームとしてやるべきことははっきりしていたし、仲川輝人選手や西村拓真選手に対しても常に1対1ではなく1対2で対応する状況を作れていたので、そこまでやられる気はしなかったです。個人的にもサイドバックになってから守備のところも集中してやれているし、今日も自分に求められる仕事を徹底してやることに気持ちを注いで戦えました(高尾瑠)」

■途中出場の選手を含めた『全員』でこじ開けた2点目。

 昌子の言葉にもあったように、終始、チーム全体としての守備の強度が不可欠な試合になった中で、約2ヶ月ぶりの先発復帰となった小野瀬も、立ち上がりから集中力が光った。ここ最近は、体調不良や練習中の脳震盪とアクシデントが続き、戦列を離れることも多かった小野瀬だが、この日初めて『松田ガンバ』での先発を任され「ようやくスタートラインに立てた」と振り返った。

「ここ最近はアクシデント続きで、監督も使いづらかったはずだし、僕としてもようやくスタートラインに立てたという気持ち。約2ヶ月ぶりの先発で疲れましたけど、こういう展開を強いられることも想像していたので、とにかくしっかりと守備のタスクを徹底しながら少ないチャンスを決め切ることに集中していた。そうした状況で試合が進み、いい時間帯に点を取ることができたことで、その得点がチームに勇気を生み、守備を頑張る励みになった。貴史くん(宇佐美)が戦列に戻ってきて、ボールを持った時に常に最初に目が入るところにいてくれるし、出しておけばなんとかなるだろうという思いは僕だけじゃなくて、きっとみんなが持っていて、それが攻撃の勇気にもなっている。理想を言えば、もう少しボールを持てたら良かったけど、相手も優勝がかかった試合で、こういう展開は想定していたし、今日は天候にも恵まれて、涼しかったので走り切れました(小野瀬)」

 また冒頭に書いた食野を含め、途中からピッチに立った選手が難しい状況でありながらしっかりと試合に入り、クローザーとしての役割を徹底できたのも結果を引き寄せる大きな要因になったと言っていい。加入から2試合目の出場となった山本理仁もその一人だ。85分に山本悠樹から送り込まれたドンピシャのクロスボールは枠をとらえられず「情けなすぎる」と苦笑いを浮かべたが、限られた時間の中でも役割に徹して輝きを見せた。

「ダワンと交代したこともあって、自分に求められている役割、仕事はより明確だったし、自分のアピールよりとにかくチームの勝利のために、それを徹底することしか考えていなかったです。J1リーグで首位を走るマリノスの攻撃力をしっかり守りきれたのはチームとしても、個人としても自信になりました。ただ、シュートシーンについては…僕が悠樹くんの立場でも、あの持ち方、目線のずらし方なら、蹴ってくれるだろうと思って(ボールが)くるのは分かっていたんです。でも僕、ヘディングが元々下手で…あんないいボールをくれたのに、プロとして恥ずかしいというくらいのレベルのシュートになってしまった。情けなすぎるので練習します(山本理)」

 そしてゲームを締めたパトリックだ。ゴールシーンはもちろんのこと、後方から相手のサイドバック付近に狙いを定めて送り込まれるロングボールを再三に渡って競り勝ち、攻撃につなげるなど、献身的なパフォーマンスも目を惹いた。

「苦しい時間をきっちり耐えたら自分たちにチャンスが回ってくると信じてプレーしていましたし、今日のような試合ではセットプレーがゲームの勝敗を大きく左右すると思っていました。今日は相手がハードなプレッシングをしてくる中でも、サイドバックのところで僕がハイボールに競り勝って、セカンドボールから攻撃につなげようと話していました。その中でセットプレーから2点取れたのもよかったし、それ以上にチームにとって大きな勝利が手に入ったこともすごく良かったと思います。久しぶりに貴史と一緒に先発しましたが、僕たちはコンビネーションもすごくいいし、2点目だけではなく、1点目のセットプレーも、自分がニアサイドに相手の選手を引き連れていけば、ダワンにスペースが生まれるかもしれないという準備もしていて、その通りの精度のクロスボールからゴールが生まれた。そういう意味ではチームのみんなでゴールを奪えた試合だったと思います(パトリック)」

 この試合を前に、松田浩監督は「これだけ注目が集まっている大一番。しっかり目立ってこい。我々の力を示せる絶好のチャンスだ」と選手を送り出したと聞く。まさにその言葉通り、ここに名前を上げた選手に限らず、ピッチに立った全員がそれぞれに光となり影となりながら、存在感を示すことで引き寄せた勝ち点3。戦列復帰から間もない宇佐美が、フル出場したのも残り2試合に向けての好材料だろう。前節の柏レイソル戦後には「鬼のリバウンドだった」と苦笑いを浮かべていたが、そこを「鬼のリカバリーとケア」で回復させ、この日の試合に臨んでいた。

「フル出場は全然、予定通りじゃなかったです(笑)。ただ、試合を進める中で体力的に戦えそうだなという感触はあったので、自分のプレーの出来以外の理由で交代になるのは嫌だったというか。試合の流れ的に、仮に自分が抜けてからチームがどうなるのかを想像した時に正直、悪いイメージも浮かんだし、自分がピッチに残って前で(ボールを)収めて、溜めを作って、というのが(残りの時間の)ポイントの1つになると思っていたので、松さん(松田監督)にも60分過ぎくらいから『体力は大丈夫なので、それだけが理由なら代えないでください』と伝えながらプレーしていました。もちろん柏戦後の鬼のリバウンドを考えれば、自分の体をしっかりマネージメントしながら騙し騙しやらなくちゃいけない部分もあるのは分かっているけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。とにかく現状の目標である残留を何が何でも達成するためにも、この中断期間にまたしっかりケアをして(コンディションを)取り戻し、あと2つ、死ぬ気で頑張りたい(宇佐美)」

■自信を胸に次なる戦いに向かう。ホーム最終戦は『声出し』対象試合。

 こうして貴重な勝ち点3を積み上げたガンバだが、順位、勝ち点を見ての通り、厳しい状況に置かれていることに変わりはない。選手それぞれが勝利の喜びを口にした一方で、これまでと変わらず、危機感を漂わせていたのも事実だ。

「首の皮が一枚つながっただけで、首位に勝っても勝ち点6がもらえるわけじゃない。この勝利が大きな意味を持つものだったといえるのは、残り2試合が終わってから。喜ぶのは今日で終わりにして、またオフ明けから、次のジュビロ磐田戦にしっかりフォーカスして準備をしたい。少しブレイクがありますが、僕たちの過ごし方次第で、ブレイクは(チームを)もっと良くする時間にできる。そう信じて、監督の戦術を信じて、次の試合に向かいたい(昌子)」

 それでもこの日の勝利が『J1残留』を引き寄せるためには不可欠な自信を選手たちの胸に宿らせたことも、『目の前の試合に全てを懸ける』姿勢が、次なる戦いに向かうパワーになったことも紛れもない事実だ。

 泣いても笑っても、J1リーグ戦は残すところ2試合。うち、10月29日に戦う次節、ホーム最終戦は再び『声出し応援』の対象試合となる。そういえば、横浜FM戦後、三浦弦太にレクチャーされながら、初めてガンバクラップの先頭に立ち、サポーターと喜びを分かち合った宇佐美は試合後「みんなで喜ぶのはやっぱり最高。なかなかいい感じでできたんじゃないでしょうか(笑)!」と照れ気味に話したが、磐田戦の『声出し応援』の中でガンバクラップが実現すれば、間違いなく今回にも増して大きな喜びになる。そして、それは鹿島アントラーズとの最終戦に立ち向かう、何よりのパワーになるはずだ。

 さぁ、次なるターゲットは、ジュビロ磐田。選手はピッチで、サポーターはスタンドで、思いを一つに青き血を激らせ、声を轟かせ、全員で勝ちに行く。

次節も、全員で勝ちにいく。 写真提供/ガンバ大阪
次節も、全員で勝ちにいく。 写真提供/ガンバ大阪

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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