試合中はいつもプレーシーンの記述とは別に、気になったシーンのメモをとるようにしている。試合後、取材に臨むにあたって聞きたいことを明確にしておきたいからだ。5月8日のJ1リーグ12節・ヴィッセル神戸戦も然りだったが、試合を終えて改めて取材ノートを振り返ってみると、二人の選手に関する走り書きが多いことに気づく。昌子源と柳澤亘だ。

「昌子、先発復帰、キャプテンマーク。クォン・ギョンウォンとの初コンビ」

「福田、左肩負傷。昌子、歩み寄り、肩を抱く」

「柳澤、小野瀬、連係○」

「昌子、大迫(勇也/神戸)との1:1。初対決、熱!」

「昌子、レフェリーとの駆け引き」

「柳澤、積極的な仕掛け。前半シュート2本=前節後半と同数」

「昌子、声。『まだ試合終わってないぞ』」

「柳澤、前線に入っていく回数↑。怯まない!」

「柳澤、再三のチャレンジが先制点につながる!」

「昌子、一森とガッツリ抱擁」

「柳澤、フル出場。今シーズンリーグ戦初」

 もっとも、二人にとっての神戸戦が、期する思いで臨む試合になると想像していたことが、より彼らを注視することに繋がっていた部分もある。

 例えば昌子。今シーズンの彼は、ガンバでの3シーズンではベストなコンディションとパフォーマンスを維持しているように見受けられたが、ルヴァンカップのセレッソ大阪戦と、前節・北海道コンサドーレ札幌戦は控えメンバーに。また、柳澤は前節・札幌戦で、右サイドバックの先発の座を、左利きの左サイドバック、黒川圭介に奪われている。片野坂監督はその理由を「逆サイドに左足で振るなど、右SBに入っても圭介の良さが出ると考えたチャレンジ」と話したが、柳澤にしてみれば、本職ではない選手にポジションを奪われた悔しさはとてつもなく大きかったはずだ。

 そうした現状において、先発の座を取り返した二人が、神戸戦でどのようなパフォーマンスを示すのか、楽しみにしていた。

 結論から言って、神戸戦で二人は、それぞれに持ち味を光らせながら、フル出場で完封勝利に貢献した。相手が前半のうちに退場者を出し、数的優位の状況で戦えたことが追い風になった部分も確かにあったが、とはいえ、サッカーでは数的優位の状況が、必ずしも試合の流れを引き寄せる術になるとは限らない。そう考えても、彼らがピッチで示したパフォーマンスは間違いなく評価に値するものだった。

 そんな二人に、神戸戦後、この試合を迎えるまでの一連の流れを踏まえた質問をぶつけてみる。そこには、彼らなりの戦いがあった。

■昌子源が随所に光らせたキャプテンシー。

 この日、初めてクォン・ギョンウォンと4バックのセンターバックでコンビを組んだ昌子は「サポーターもたくさんきてくれていたし、久しぶりに勝ちを届けられて良かった」とした上で試合を振り返った。

「正直、プロになって初めてコンディション万全の状態で先発を外れたというか。チームで試合に出ていても、日本代表にいくと控えに回ることはありましたけど、チームでケガとか連戦とか関係なく普通に先発を外れたのは、14年からコンスタントに試合に絡めるようになった中では初めてだったので当然、悔しかったし、自分への腹立たしさはありました。ただ、それをぶつけるのも結局サッカーでしかないので。試合に出た時に何ができるか、試合で何を魅せられるかにフォーカスしてきたし、今日もとにかくチームが勝てるように、ということを意識していました。サッカーは数的優位になったとしても勝てる保証はない中で、ディエゴ(クォン・ギョンウォン)とはずっと前線で張っていたサコくん(大迫勇也)へのケアを怠らずにやろうと声を掛け合いながら、隙を見せずに試合を進めることを意識していました。ですが後半、60分くらいにイニエスタ選手から武藤嘉紀選手にパスを通され、決定的なゴールチャンスを与えてしまい…結果的に純ちゃん(一森)が止めてくれましたが、あの1本を…たかが1本ですがされど1本の隙をチームとして与えてはいけないという反省が残りました。そこはまたチームでしっかり見直して次に向かいたいと思います(昌子)」

 中でも、昌子らしさが光ったのはリーダーとしての振る舞いだ。この日、スタートからキャプテンマークを巻いた彼は、試合中も要所要所でチームを引き締める言葉を投げ掛け、状況に応じてこまめにレフェリーとコミュニケーションを図るなどしながら、プレー以外のところでも試合をコントロールし続けた。

試合が止まった時間帯は特に声が通りやすいので。1点とってから少しホッとしてしまったのか、前線のプレッシャーも少し弱まっていたのを感じていたので、パト(パトリック)とレアンドロ(ペレイラ)にはもう一回頑張って(プレッシャーに)いってくれ、と。こっちは人数が多いんだし、前からしっかりプレッシャーをかけて、相手に蹴らせて、それをまた自分たちが回収して攻撃につなげようと。サッカーって負けているチームの方が終盤にリズムを取り始めることはよくあって、今日もほんの数秒ですけど、神戸さんにボールをもたれた時間もあったので、僕としてはその隙をどうしてもしっかりと埋めておきたかった(昌子)」

 加えて、ハーフタイムには強い言葉で仲間を奮い立たせたと聞く。

「仮にガンバが10人になって、ブロックを敷いて守ろうという展開になった場合、俺らディフェンス陣の心理的には人とボールを動かされてブロックが緩むのが一番イヤ。逆に、ブロックの中で動かされているうちは全然怖くない。だからこそ後半、俺らはしっかり相手が嫌がることを…ボールを持つだけじゃなくて、人も、ボールもしっかり動かし続けるぞ(昌子)」

 試合の流れを感じ、予測して的確に言葉に変えられるのはある意味、百戦錬磨の経験値を持つ昌子の色であり、強み。それもまたこの日の勝利を後押しする要素の1つになった。

今シーズンのJ1リーグへの先発出場は4試合目。今節が初めてのフル出場になった。 写真提供/ガンバ大阪
今シーズンのJ1リーグへの先発出場は4試合目。今節が初めてのフル出場になった。 写真提供/ガンバ大阪

■柳澤亘の強気が呼び込んだクォン・ギョンウォンの決勝点。

 一方、柳澤もまた、プライドをしっかりたぎらせてピッチに立っていた。

「前節の札幌戦で控えからのスタートになり…悔しい思いはありましたけど、ただそこは自分ではどうしようもできないというか、変えられないことなので、監督が圭介(黒川)に求めたこと、サイドバックに求めている仕事と、自分に足りないところを見つめ直した上で、今節を迎えました。監督にも個人的に話をしてもらって、自分に足りない部分と、どういうチャレンジをしてほしいかを改めて伝えてもらっていたので、そこは特に意識して試合に入りました。具体的には守備から攻撃に出ていくスピード、逆に攻撃から守備に戻るスピードや走力の部分、守備の強度はもっと求めているということを言われていました。結果的に、相手が10人になりましたが、勝つこと、ゼロに抑えることはどの試合も簡単ではない中で、それができたのは良かったです。前半から自分を含めてシュートチャンスが何度かあり、それを仕留められていたらもっと楽に試合を運べたのにな、って思うところもありますけど、最後まで切らさずに、全員が前への意識を弱めることなく2点をとれたのは成長だと思っています。毎試合、目の前の試合が最後だというくらいの気持ちで戦ってきた中で、今日1つ、結果がついてきたのはホッとしています。ただ、やるべきことは変わらないので、続けていきたいです(柳澤)」

 前に出ていく意識は明らかに前節・札幌戦より強く、数的優位の状況も踏まえて後半は特に果敢にオーバーラップを繰り返して、相手の背後を攻め立てた。

「相手も10人で少ないし自分たちが後ろで守っていても意味がないので、追い越して、なるべく攻撃の人数を増やして助けてあげられたらなと思っていました(柳澤)」

 前半は2本、シュートを放ちながらポストに嫌われるなどして枠を捉えられなかったが、後半も臆することなくゴールに向かい続けていたのも印象的だ。

「前節の試合も含めてゴール、アシストという結果にこだわってやっていた中でその意識がディエゴのゴールにもつながったというか。今日は自分のところにボールが溢れてくることが多かったこともあり、あのセットプレーのシーンでも『自分のところに溢れてこい』って気持ちがすごく強かった。そのせいかトラップする前も、後も落ち着いてシュートを狙えたので、それが結果的に良かったのかなと思っています。今シーズン、コンスタントにピッチに立てなくても一喜一憂せずに、スタメンだから、外れたからということに気持ちを揺り動かされずに、自分のサッカーのために毎日がある、と意識してやってきました。カタさんのサッカーは、これまで一緒に仕事をさせてもらったどの監督よりも、サイドの選手に走る量を求められるし、戻って、出る強度も圧倒的に高い。特に僕はそういうサッカーを経験してこなかったのもあって、その部分ではまだまだ自分に物足りなさを感じているので、そこはもっと伸ばしていきたいと思っています(柳澤)」

 最後に、もう1つ。冒頭に書いた取材ノートの走り書きの2つ目。「福田、左肩負傷。昌子、歩み寄り、肩を抱く」の記述の横に、赤字で書き記していたことに触れておきたい。

「福田、左肩を押さえてピッチを後に。涙。控えメンバー、駆け寄る」

 28分、福田湧矢が試合中の接触プレーで左肩を痛めてピッチを後にしたシーンだ。

接触プレーで左肩を痛め、悔し涙を流しながらピッチを後にした福田湧矢。 写真提供/ガンバ大阪
接触プレーで左肩を痛め、悔し涙を流しながらピッチを後にした福田湧矢。 写真提供/ガンバ大阪

 近年はケガや脳震盪に苦しむ時間も長かった福田だけに、泣きながらピッチを離れる姿を案じて取材ノートには赤字に、二重線を走らせている。試合後のガンバクラップの際には左肩を固定しながらも笑顔をのぞかせ、藤春廣輝の左手を借りて手を叩き、勝利を喜んでいたが、果たして状態はどうなのだろうか。ミックスゾーンで声をかけるとすでに気持ちは前を向いていた。

脱臼しちゃいました。あの涙は…痛さのせいではなく、悔しくて悔しくて、勝手に出ました。ようやくこうしてサッカーができ始めて、最近はずっと幸せを感じていたのに、またしても奈落の底に突き落とされてしまいました。たぶん、長い離脱になりそうです。だけど、また戻ってきます。頑張ります。心配してもらって、ありがとうございます。(福田湧矢)」

 悲喜交交。それぞれの戦いを通して改めて勝つことの難しさ、一勝の重みを実感する。そして、だからこそこの6試合ぶりの白星が、ガンバにとって反撃の狼煙になることを切に願っている。