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今年は熊本で開催! 元日本代表GK六反勇治の『Rokutan Keeper Academy』が面白い

高村美砂フリーランス・スポーツライター

 06年にアビスパ福岡でプロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせてから13年目の今年。『清水エスパルス・GK六反勇治』の名前が一際、注目を集めたのがJ1リーグ33節のヴィッセル神戸戦だ。1-3とビハインドを追いかける展開の中、相手選手の退場で数的優位に立った清水は、87分にFWドウグラスのゴールで1点差に詰め寄ると、アディショナルタイムに得たコーナーキックのチャンスをゴールにつなげ土壇場で引き分けに持ち込む。その同点ゴールを決めたのが、六反だった。

 15年に自身初の日本代表にも選出された六反は、実は中学時代までフィールドの選手だった。鹿児島県霧島市に生まれ4歳でサッカーに出会って以降、高校生になるまではFW、トップ下、ボランチまであらゆるポジションをこなしたと聞く。その経験が神戸戦でのゴールにつながった…と結論づけるのはあまりに安直だが、全く関係がないとも言い切れないだろう。現に彼のプレーに見る足元の技術の高さについて尋ねると「フィールドをやっていた経験は少なからず生かされていると思う」と答えが返ってきた。

 そんな彼が自らの経験をもとに、3年前からオフシーズンに開催してきたのが『Rokutan Keeper Academy(以下、RKA)』だ。16年の第1回目は、プロとしてのキャリアをスタートし、6年間にわたって在籍したアビスパ福岡のホームタウンである福岡で、 17年の第2回目は生まれ育った地元、鹿児島で開催。第3回目は来年1月4〜6日に、彼が初めて本格的に『ゴールキーパー』を学んだ場所、熊本で開催される予定だ。12年に彼の人生では初めて、九州の地を離れ横浜F・マリノスに移籍した中で、自分が育ってきた地域との環境の違いに驚かされたことが発足の理由だと言う。

「関東では、当たり前のように1時間もあればJリーグの試合を観に行くことができます。それも住んでいる場所によっては下手すると5か所くらい、足を運ぶことができる。しかも元プロサッカー選手が運営しているスクールの数も、九州とは比べ物にならないくらい多い。イコール、その中で受ける刺激の数もすごく多いということになる。それを目の当たりにした時に、関東に住む子供たちは本当に恵まれているなと感じたし、だからこそ、そうした環境づくりを九州の地でも実現させたいと考えました。その中で自分がゴールキーパーとして育ってきた環境も踏まえ、まずはいいキーパーが育つためにはどうすればいいのか、を考える中でRKAの設立に至りました。時間はかかると思いますが、10年後、20年後に『いいGKを育てるには九州だよね』と言ってもらえるように、Jクラブのみならず各地域の学校、企業と連携しながら九州をGK王国にすることで、育ててもらった九州の地に恩返しをしていきたいと思っています」

 その『いいGKを育てるために』必要なことの1つとして六反が語気を強めるのが、『GKコーチという職業の確立』だ。自身は熊本国府高校に進学し、井嶋正樹GKコーチ(現東海大学サッカー部GKコーチ、ナショナルトレセンコーチ)に出会ったことがきっかけで、その資質を伸ばすことができたが、現状『GKコーチ』という職業が確立されているのは、ほとんどがプロの世界の話。それでは、いいGKは育たないと言葉を続ける。

「Jリーグが発足して25年が経った今も、GKコーチという職業で生活ができるのはプロクラブで仕事をしている人だけ。地域の子どもたちや小中高校生のGKを教えているGKコーチは、それだけでは生計を立てられないというのが現状です。でも、そこを変えていかなければ、育成年代のGKコーチは増えないし、イコール、いい選手は育てられない。そう思うからこそ、RKAを通して単にGKとしてのプレーを学ぶだけではなく、考え方やメンタルなどまでをしっかり学んでもらい、ゆくゆくは選手をやめてからも、GKコーチとして仕事をしていけるような循環を作っていきたいと思っています」

 それもあって、一泊二日で行われるRKAのカリキュラムはフィールドでのトレーニングにとどまらない。ピッチ外でもプレーの映像を観せることに始まって、ゴールキーパーとしてのサッカーへの関わり方や、人間性を育むことを目的としたカリキュラムが盛り込まれるなど、いろんな角度から『ゴールキーパー』を学ぶ時間を設けているのも特徴だ。

「GKってある意味、理不尽なポジションだと思うんです(笑)。あれだけ大きなゴールをたった一人で守るとなれば、失点の可能性は高くて当然なのに、ゴールを決められればGKの責任がクローズアップされる。でも、僕はそれでいいと思うんです。実際、サッカー以外でも世の中の『仕事』は得てして理不尽なことも多いし、ほとんどのことが自分の想い通りには進まないものだから。そう考えてもGKというポジションを通して、一人間として学べることもたくさんあるんじゃないかな、と。そういったこともRKAを通して伝えていきたいし、ここで学んでくれた選手が例えプロになれなくても、いつか指導者として地域で活躍できるように…というか、そういう指導者が将来的にたくさん増えれば、GKというポジションへの世間の価値観も変わっていくんじゃないかと思っています」

 ちなみに来年1月に開催されるRKAの募集人数は、中学生24名と高校生24名。先に名前が挙がった六反の恩師、井嶋氏と生田千宝氏(熊本国府高校サッカー部GKコーチ)が指導者として参加する他、六反をはじめ、圍謙太郎(アビスパ福岡)、畑実(ロアッソ熊本)ら、現役Jリーガーら7名が参加する予定だ。現在、日本のプロサッカー界はシーズンオフに入っており、選手は今回のRKAに自主トレーニングを兼ねて参加することになるが「プロサッカー選手が中高生と一緒に自主トレを行うという試みもRKAならではの取り組み」だと六反は言う。

「参加してくれる方には当然、開幕を目指して本気で体を作るプロサッカー選手の姿を近くで見てもらえる貴重な機会だと捉えてもらえたら嬉しいし、僕たち参加選手にもまた大きなメリットがあると考えています。というのも、オフシーズンにGKコーチのもとで真剣なトレーニングができることはもちろん、いろんなステージでプレーするGKが集まって時間を共有することで、他クラブのトレーニング方法を知るきっかけになったり、自分が目指すステージのレベルを知り、自分に必要なものが何かを確認する機会にもなるから。実際、参加選手からは、そういった声も聞いていますし、それもあって年々、自ら名乗り出てRKAの活動に参加してくれる選手が増えているのかな、と。また僕自身もそうですが、学生に教えることで、自分のプレーを見直すきっかけにもなる。そういう意味でも、子供たちに限らず、参加選手にとってもRKAでの時間が実りあるものになれば嬉しいなと思っています」

 なお、先にも書いた来年1月に開催予定のRKAは現時点で若干名、定員に空きがあるとのこと。詳細は公式ツイッター(@rokutan_1_RKA)でご確認を!

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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