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【ウマ娘】メジロラモーヌの軌跡(後編) 天から微笑む2人の魂/病弱な幼少期を乗り越え初の牝馬三冠

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
人気ゲーム「ウマ娘プリティダービー」に登場したメジロラモーヌ(Cygames)

※前編はこちらのリンクからお読みください

【ウマ娘】メジロラモーヌの軌跡(前編) 天から微笑む2人の魂/病弱な幼少期を乗り越え初の牝馬三冠

 桜花賞を制したメジロラモーヌは関西遠征を終えて、美浦トレセンに帰厩した。次はクラシック第二弾のオークスを目指すのだが、その前にトライアルレースであるサンケイスポーツ賞4歳牝馬特別(現在のフローラS)を使うことになった。メジロラモーヌはそれまで東京競馬場では2度負けており、奥平師はそれがひっかかったのだ。

 東京競馬場は3戦1勝。勝ったデビュー戦こそ楽勝だったが、負けた2戦は京成杯3歳Sはスタート直後の接触、クイーンCはイレ込みとレース後にソエが判明、と負けた理由ははっきりはしていた。しかし、負けは負け。オークスに向けて不安を払拭するべく、参戦を決めた。

 サンケイスポーツ賞4歳牝馬特別では、メジロラモーヌは中段でじっくりかまえ、府中の坂を上りながらスパート。結果は先行していた2着のダイナアクトレスに1馬身半差をつける完勝だった。この頃のメジロラモーヌは桜花賞よりもトモのバランスがよくなっていたし、リラックスもできるようになっていた。馬体重の数字は若干増えたくらいなのだが、さらに体をふっくら見せるようになっていた。好調の証だ。

■1986年 サンケイスポーツ賞4歳牝馬特別(GII) 優勝馬 メジロラモーヌ

 クラシック二冠目のオークスでは桜花賞に続いて単枠指定となり、4枠10番に入った。それまで20年のあいだオークストライアル優勝馬からオークスを制した馬はいなかったが、メジロラモーヌは難なくそのジンクスを打ち破る。好位の馬群の中でレースを進め、直線を向くとあっさりと先頭に立ち、ラスト1ハロンは追ってくる後続を突き放して2着のユウミロクに2馬身半差をつけて完勝した。 

■1986年 オークス(GI) 優勝馬 メジロラモーヌ

 晴れて二冠馬となったメジロラモーヌは夏休みに入った。故郷であるメジロ牧場へ戻ったメジロラモーヌだが、初日はかなり大はしゃぎで1日中飛び回っていたそうだ。

 夏休みといっても、春の疲れを癒しつつ、しっかりと秋を見据えた調整が進められていた。順調ではあったが途中ザ石のアクシデントもあったため、予定より少し早めの帰厩となり函館競馬場の出張厩舎に入った。

 秋の目標はエリザベス女王杯(GI)。当時はまだ秋華賞はなく、エリザベス女王杯が4歳(現3歳)牝馬の限定戦であり、牝馬三冠の最終関門だった時代だ。

 エリザベス女王杯の前身であるヴィクトリアカップが1970年に創設されて以降、三冠を達成した牝馬はいなかった。1975年に桜花賞とオークスを制した二冠馬・テスコガビーはヴィクトリアカップの前に捻挫し回避を余儀なくされたし、1976年の二冠馬テイタニヤはエリザベス女王杯で4着に敗れている。

 それだけにメジロラモーヌが新しい歴史をつくり、牝馬三冠を達成できるのか、と注目された。

 秋緒戦はローズS。無事、脚元は回復したが、体がまだ重い。しかし、精神面は春よりもどっしりと構えられるようになり、大人になっていた。

 ローズSもまたしても単枠指定。春に重賞を4連勝したクラシック二冠馬だけに当然なのだろうが、競馬に絶対はない。しかも、この日は午前中まで雨が降って馬場はやや重。ローズSでようやく良に回復したが、それでも重め残りではあった。さらに言うと、京都競馬場はメジロラモーヌにとって初コースだった。

 いざ、レース。ゲートが開くと、河内騎手は先行集団の外目で早め早めにレースを進めた。3コーナーから4コーナーにかけて、外を回りながらポジションを上げて、直線へ。河内騎手が追い出すと、メジロラモーヌはグッと首を使って前進気勢を強める。そして、抜け出したポットテスコレディを外からかわしにかかった。メジロラモーヌは馬体を併せると実に勝負強い。ポットテスコレディを内にみて、メジロラモーヌはぐいぐいと力強く伸び、先頭を奪う。そして、クビほど先着してゴール板を駆け抜けた。

■1986年 ローズS(GII) 優勝馬 メジロラモーヌ

 いよいよ初の牝馬三冠が達成されるのか。エリザベス女王杯もやはり単枠指定となったメジロラモーヌは6枠13番に入った。

 ゲートが開く。かなりのスローペースだと、河内騎手はすぐに気づいた。今回も先行集団の外目で河内騎手は好位をキープしながらレースを進めた。春のメジロラモーヌだったら、きっとこのスローペースの罠にはまり引っかかっていただろう。しかし、今のメジロラモーヌならどんな競馬でもできる。早め早めに前をうかがい、4コーナーで先頭に立ち、そのまま逃げ込みをはかろうとした。しかし、最後の直線でメジロラモーヌに勝る勢いで差を詰めてくる馬がいた。クイーンCで負けたスーパーショットだ。それでも、メジロラモーヌは渋太かった。馬体を併せるかたちになれば、持前の勝負強さから相手を抜かせようとはしない。ゴールではクビ差まで詰め寄られるが、先頭は決して譲らなかった。

 重賞6連勝で牝馬三冠を達成。新たな歴史を刻んだ瞬間であった。

 デビューからずっとメジロラモーヌを担当してきた小島浩三厩務員(当時)は連戦連勝できた理由をこう考察していた。

「クラシックはすべて単枠指定になるほど人気を集めたし、連戦は続いたけれど、次のレースに向けての余力を残した状態で勝てたのが大きかった。100%の仕上げで短期間に連戦しながら勝つのは難しい。

 あと、ラモーヌは牝馬ながらよく食べた。エリザベス女王杯の頃は牝馬なのに1日8升(約15キロ)食べたよ(笑)。牝馬は一般的に(カイバを)食べさせるのに苦労するが、ラモーヌはそれがなかった。だから、長距離輸送で関西に遠征しても体を維持できたんだ。太りやすい体質ではあったけれど、牝馬が連戦連勝するにはそのくらいしっかり食べ続けられるほうが頼もしいよ。」

■1986年 エリザベス女王杯(GI) 優勝馬 メジロラモーヌ

 三冠を達成したその夜、京都・祇園で行われた宴席で、関係者は今後のメジロラモーヌについて話し合い、ジャパンカップを見送り有馬記念を以て現役を引退させることが決まった。北野ミヤ氏は「ラモーヌの将来を考えてやりたい」とより早く繁殖牝馬としてその血を次世代に繋ぐ道を選んだのだ。

■1986年 エリザベス女王杯(GI) 実況:杉本清氏 河内騎手インタビューあり

 ラストランの有馬記念、直線で前が狭くなる不利もあり9着に敗れた。しかし、この不利さえなければもっとやれたのでは?とメジロラモーヌの対古馬・牡馬戦での可能性を訴えた声も聞かれたが…。それらは検証されることなく、メジロラモーヌは予定どおり有馬記念で引退して繁殖牝馬となる。 

母になったメジロラモーヌと初仔(父はメジロティターン) 写真:スポニチ・アフロ
母になったメジロラモーヌと初仔(父はメジロティターン) 写真:スポニチ・アフロ

 繁殖牝馬になったメジロラモーヌは1年目は二代続けて天皇賞馬となったメジロティターン、2年目は盟友であった和田氏の愛馬であり1984年にクラシック三冠、翌1985年にかけて七冠を達成したシンボリルドルフとの仔を産んだ。この二番仔は受胎時からマスコミに大きく取り上げられ、生まれたあかつきには"十冠ベイビー"と話題になり、のちにメジロリベーラを名付けられた。メジロラモーヌの産んだ仔の競走成績は目立つものがなかったが、このメジロリベーラの孫、つまりメジロラモーヌの曾孫にあたるフィールドルージュが2008年に川崎記念を制し、ようやくメジロラモーヌを祖とする母系から重賞馬が誕生した。さらに、メジロラモーヌの仔メジロルバート(父はメジロライアン)、その仔・メジロツボネ(父はスウェプトオーヴァーボード)にディープインパクトを交配し生まれたグローリーヴェイズが2019年、2021年の二度にわたり香港ヴァーズを優勝。ようやく、メジロラモーヌの血をひくものから芝のGI馬が誕生した。

■2019年 香港ヴァーズ(GI) 優勝馬 グローリーヴェイズ

■2021年 香港ヴァーズ(GI) 優勝馬 グローリーヴェイズ

 北野家が願った「ラモーヌの将来」は時と様々な紡ぎを経てようやく実を結び、種牡馬となったグローリーヴェイズらに託され、その夢はさらに未来に繋がっていく。

 そして2023年、メジロラモーヌを育てた奥平真治師が亡くなった。生前、「死んだら、中島と一緒に酒を飲む」と仰っていたので、今は延々と続く宴会の真っ最中であろう。

 話題は当然、競馬の話に決まってる。

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ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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