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「日本人としてこんなことでいいのですか。一緒に闘って」横田早紀江さんが訴え 韓国大使館では支援演奏会

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
15日で横田めぐみさんの拉致から46年。取材に応じた母親の早紀江さん(筆者撮影)

あの忌まわしい日が来なければ、横田家は他の一般家庭と同じように平穏で幸せな日常生活を過ごせただろうに――。無念さがいつまでも募る。

1977年11月15日に、新潟市内で下校途中だった中学1年生の横田めぐみさん(当時13歳)が北朝鮮に拉致されて15日で46年が経つ。それに先立ち、母親の早紀江さんが7日、川崎市内の自宅マンションで記者会見に臨んだ。メディア各社は、87歳の高齢の早紀江さんの体調に配慮し、個別取材を控え、各社合同で記者会見を催した。

今年に入り、2度入院し、カテーテル手術を受けたという早紀江さんは、以前より明らかに体力が弱まり、声も出なくなっていた。46年前にめぐみさんが突然行方不明になって以来、長年のストレスや心労がたまってきた影響も大いにあるだろう。

「怒りというよりも、くたびれきってしまった。歳を取って力が前みたいに出てきません。声も出なくなってきて、だんだん弱ってきますから。このくらいの状況でお話ができる間に必ず言うべきことを言って、皆さんと思いを同じにしていただいて。日本のために何とかしないと。こんなことではいけない」

「めぐみちゃんのことは考えない日はない。毎朝起きたらすぐ元気にしていますかって勝手に言ったり、お父さん(滋さん)の写真に話しかけたり」

早紀江さんは記者会見中、声を振り絞るようにこう話した。夫の滋さんは2020年6月に87歳で逝かれた。同じ拉致被害者の田口八重子さんの兄、飯塚繁雄さんも2021年12月に83歳で他界した。拉致被害者の親世代は今や早紀江さんと有本恵子さんの父で95歳の明弘さんの2人だけになっている。拉致問題のこれ以上の膠着状態はもはや許されない。

2014年2月、川崎市内の横田さんご夫妻の自宅マンションで(筆者撮影)
2014年2月、川崎市内の横田さんご夫妻の自宅マンションで(筆者撮影)

●なぜ日本は拉致被害者を奪還できないのか

2002年10月15日に拉致被害者の地村保志さん・富貴惠さん、蓮池薫さん・祐木子さん、曽我ひとみさんの5人が帰国して以来、日本政府は1人の拉致被害者の奪還を成し得ていない。一方、似たような他国の事例を見ると、例えば最近でもアメリカは9月、韓国から軍事境界線を越えて北朝鮮に渡った米兵(23)をたったの2カ月で連れ戻した。10月7日のイスラム組織ハマスのイスラエル攻撃時に人質になったアメリカ人母娘も2週間足らずで解放に至った。

なぜ日本は北朝鮮から拉致被害者を取り戻せないのか。筆者は早紀江さんがどう思っているのかを知りたくて質問した。早紀江さんの答えはこうだった。

「それはもうこちらが聞きたいほど。本当にいつもそれを言っていますね。(日本は)戦う物も持っていないから。もともと兵器(軍隊)を持たないということできているから」

「何かやられてもやり返す力がないというのが一番怖い」

「いつもひけているというか。そういう感じの日本になってしまっているので。そういう所から確かに憲法改正のことを言っている人もたくさんいますし」

「どうしたらいいのか、私は分かりませんけれども、その今のご質問は私が聞きたいほどです」

そして、早紀江さんはこう訴えた。

「日本人としてこんなことでいいんですか。私たちも一生懸命頑張りますけれども、一緒に闘っていただきたいなといつも思っております」

●早紀江さんが金正恩氏に伝えたいこと

40分間にわたる会見の最後に、筆者は早紀江さんに「金正恩氏に何かメッセージとして言いたいことがありますか」と質問した。

早紀江さんは「それは届くんですかね」と疑念を呈した後に、次のように述べた。

「正恩さんもかわいい女のお子さんが登場しますよね。ああいう人を見ると、めぐみちゃんの小さい時に、目が細くて丸い顔をしていてよく似ている顔だなと思いながら見ているんですけれども、やはり自身がどんなに慈しんで可愛がっているんだろうと思います。私たち家族もあなたの今の優しい気持ちと同じで、子どもたちを思って待っているんだということを分かっていただきたい。そのお子様がそういう目にあって絶対に帰してくれない所に取り込まれて46年も帰ってこれない。本当にどんな思いをするかということを。。。(金正恩氏が)分かるかどうか分かりませんが、それが伝えられたらいいなといつも思っています」

2022年11月18日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲17」発射の功労者と記念写真を撮った金正恩氏と娘のジュエ氏。北朝鮮は11月18日を「ミサイル工業節」に制定した(写真:労働新聞)
2022年11月18日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲17」発射の功労者と記念写真を撮った金正恩氏と娘のジュエ氏。北朝鮮は11月18日を「ミサイル工業節」に制定した(写真:労働新聞)

この他にも早紀江さんは会見で日本や世界に伝えたいことを次々と訴え続けた。早紀江さんの言葉を記録として残さねばと思い、YouTube動画を作成しました。音声が聞きにくいので字幕も付けました(画面下の字幕アイコンをクリックすると、字幕が出てきます)。ぜひイヤフォンをして聴きやすい状況でご覧いただければと思います。

●韓国大使館で拉致問題支援の初の演奏会が開催

日韓関係がぐっと改善する中、東京都港区にある駐日韓国大使館は9日、早紀江さんと同じマンションの住人らでつくる「あさがおの会」と共催し、拉致問題の解決を訴える日韓合同の演奏会を開催した。

演奏会ではめぐみさんの新潟市立寄居中学校の同級生であるヴァイオリニストの吉田直矢さんや脱北者のピアニストの金哲雄 (キム・チョルン)さんらが日韓の拉致被害者の帰国を願って演奏した。米国やスウェーデン、モンゴルなど15カ国の大使館関係者や、安倍晋三元総理の妻の昭恵さんも出席した。

尹徳敏(ユン・ドンミン)駐日韓国大使は開会の挨拶で「韓国にも北朝鮮による拉致被害者、抑留者、国軍捕虜問題がある。また祖国に戻っていない戦後の拉致被害者は確認されただけで約516人いる。戦時の拉致被害者は約10万人と推定されている。拉致被害者問題の解決は韓国政府の国政課題の1つであり、ユン大統領も拉致被害者のご家族を直々に面談されるなど多くの関心を持っている」と指摘、「韓国と日本で緊密に協力していく必要がある」と述べた。

早紀江さんはビデオメッセージを寄せ、拉致問題の早期解決に向け、国際社会の支援を呼びかけた。

拉致問題の早期解決を願う日韓合同の演奏会が9日、駐日韓国大使公邸で開かれた。横田めぐみさんの中学時代の同級生のヴァイオリニストの吉田直矢さんが米国など15カ国の大使館関係者らの前で演奏した(筆者撮影)
拉致問題の早期解決を願う日韓合同の演奏会が9日、駐日韓国大使公邸で開かれた。横田めぐみさんの中学時代の同級生のヴァイオリニストの吉田直矢さんが米国など15カ国の大使館関係者らの前で演奏した(筆者撮影)

東京都港区の駐日韓国大使公邸に飾られた横田めぐみさんの写真(筆者撮影)
東京都港区の駐日韓国大使公邸に飾られた横田めぐみさんの写真(筆者撮影)

東京都港区の駐日韓国大使公邸に飾られた横田めぐみさんが幼い頃の横田家の家族の写真(筆者撮影)
東京都港区の駐日韓国大使公邸に飾られた横田めぐみさんが幼い頃の横田家の家族の写真(筆者撮影)

支援団体「あさがおの会」代表の森聡美さんによると、ラーム・エマニュエル駐日米国大使夫人のエイミー・メリット・ルール氏は演奏会後に「韓国と日本が協力して取り組むことが拉致問題の解決には何よりも重要だ」と話していたという。森さんは「とても得心のいく言葉で、今こそがその好機だと強く感じた」と述べた。

また、駐日ベルギー大使館に勤務する外交官夫人のリエヴルさんは筆者の取材に対し、「演奏会は非常に感情に訴えるものだった。欧州では北朝鮮の拉致問題はまだよく知られていない。解決は簡単ではないだろうが、日韓が協力して取り組んでいくことは次の世代のためにも必要と思います」と話した。

●飯島勲氏の「横田めぐみさん奪還交渉記録」

内閣官房参与の飯島勲氏は『文藝春秋』10月号で、2013年5月に極秘訪朝した際の北朝鮮首脳との交渉記録を明らかにした。その中で、拉致問題の解決法について以下のように述べている。

「今後、拉致問題をいかにして解決すべきか。言うまでもなく、容易な問題ではありません。多くの日本人にとって、横田めぐみさんがシンボル的な存在であることは確かです。その生死は私にもわかりませんが、検証し直さなければいけないことはたくさんあります。自殺したのは本当なのか。亡くなっているのであれば、いつ亡くなり、どこで火葬したのか。そもそもなぜ北朝鮮は『遺骨』を持ち続けていたのか。娘さんもいるわけですから、住んでいた場所など、生活実態も含め、改めて調査するべきです。

 ただ、政府が認定していない特定失踪者も入れれば、被害者の方々はたくさんいますから、めぐみさんの問題が解決されればそれで終わりではない。日本側としては当然、拉致被害者の安全確保と即時帰国は譲れない」

飯島氏が『文藝春秋』で指摘している通り、2002年9月の小泉訪朝での拉致被害者5人の帰国は、金正日氏の決断だった。北朝鮮のような独裁体制では最高指導者の鶴の一声で物事が一気に動く。早紀江さんが常々訴え続けているように岸田首相には日朝首脳会談を早期に実現させ、金正恩氏の決断を求めてもらいたいものだ。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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