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日英伊共同開発の次期戦闘機、成功の鍵は輸出 BAEシステムズ幹部が指摘 #GCAP

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
ロンドンのビッグ・ベン上空を飛ぶ次期戦闘機のイメージ図(BAEシステムズ)

日英伊3カ国が共同開発を進めている次期戦闘機をめぐり、英航空・防衛大手BAEシステムズ幹部は「輸出が次期戦闘機計画の重要な特徴」と述べ、国際輸出を共同開発の成功への鍵として挙げた。英軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーなどが報じた

一方、日本では「戦闘機は殺傷兵器そのものである」として海外輸出への根強い反対論がある。日本は英伊との次期戦闘機共同開発を順調に軌道に乗せたいのであれば、英国と歩調を合わせて「戦闘機輸出が不可欠」との認識を持つ必要が出てきている。

●第6世代戦闘機の国際共同開発

日本と英国、イタリアの3カ国は2035年までに次世代戦闘機を共同開発する。2022年12月の共同首脳声明で、「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」と命名されて正式に発表された。GCAPは、航空自衛隊の次期戦闘機「FX」と、英伊共同開発の次期戦闘機「テンペスト」を合体させた第6世代戦闘機の国際共同開発計画だ。

BAEシステムズの将来戦闘航空システム(FCAS)担当マネージングディレクター、ハーマン・クラーセン氏は7月4日、イングランド北部にある同社のウォートン組立工場で防衛メディアの記者たちに次のように語った。

輸出はこのプログラムの重要な特徴であり、2022年12月に英国首相が署名したGCAP合意によって承認された要件である」

確かに昨年12月の共同首脳声明では、「このプログラムは、まさにその本質として、我々の同盟国やパートナー国を念頭において設計されてきたものである。我々がこのプログラムに冠した『グローバル』という名称は、米国、北大西洋条約機構(NATO)、欧州やインド太平洋を含む全世界のパートナーとの将来的な相互運用性を反映したものであり、そのコンセプトは、この共同開発の中心となる」と記され、輸出が前提となっている。

クラーセン氏は「少なくとも数百機の戦闘機の輸出販売が見込まれる」と述べた。ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーは輸出先リストの筆頭候補としてスウェーデンとサウジアラビアの2カ国を挙げている。

また、クラーセン氏は「計画通り2035年に引き渡しができれば、私たちは米国以外で顧客に第6世代戦闘機の機能を提供できる最初の西側諸国の1つとなるだろう。これはGCAPプログラムにとって信じられないほど強力な立場になる」と述べた。

米国は現在、次世代制空戦闘機(NGAD)計画の下、第6世代戦闘機のNGADや自律戦闘が可能な無人航空機「ロイヤル・ウィングマン」(忠実な僚機)などからなる、航空優勢を確保するためのプラットフォームを準備している。米空軍は2020年9月には、NGAD実証機をすでに飛行させたと発表。日英伊の次期戦闘機開発よりも先行している。

しかし、クラーセン氏は、同時期に米国のNGADと競合する可能性があるとしても、国際市場での高い利用可能性と予想される調達コストの低さを踏まえれば、GCAPがNGADよりも優位に立てるとみている。米国がF22戦闘機と同様、NGADを輸出しないほか、輸出されたとして海外市場にとっては高価すぎる可能性があるからだ。

NGADの他に知られている唯一の第6世代の競争相手である仏独スペインの将来戦闘航空システム「FCAS/SCAF」は2040年代まで、場合によっては2050年代初頭まで就役する予定はない。

クラーセン氏は、テンペスト輸出を成功させるためには、2030年代の国際市場での主な競争相手となる米ロッキード・マーティン社の第5世代ステルス戦闘機F35よりも、高い運用能力を提供する必要があると指摘した。

また、クラーセン氏は、テンペストが2080年代まで飛び続けるため、輸出顧客のニーズに応じてソリューションを提供できる戦闘機プラットフォームの柔軟性の大切さを指摘した。しかし、現在は3カ国の要求性能に焦点を当てていると述べた。次期戦闘機計画は、F35にはない長い航続距離と、ミサイル搭載量に優れた双発エンジンを持つマルチロール(多用途)の大型ステルス戦闘機を追求している。

●日本は次期戦闘機輸出を認めるか

英国が既にテンペストの海外輸出を視野に積極的に共同開発を推し進めている一方で、日本では次期戦闘機の第3国への輸出を認めるかどうかの最終結論はまだ出ていない。

7月5日開催の自民、公明両党のワーキングチーム(WT)では、次期戦闘機を念頭に、国際共同開発・生産した装備品について「日本から第3国にも直接移転できるよう議論すべきだとの意見が大勢を占めた」と報じられている。しかし、公明の北側一雄副代表が6月29日の会見で、「何でもかんでも輸出してもいいという結論にはならない」と述べ、次期戦闘機の第3国輸出には理解を示すが、「無条件で認められることはない」とくぎを刺したとも伝えられている。

日本と違い、英国では国内的に戦闘機輸出が「殺傷能力のある武器輸出」といったネガティブな考えは全くない。むしろ戦闘機輸出によって、英国の納税者にとって最もコストパフォーマンスの高い戦闘機の共同開発ができると考えている。効率的な共同開発で生産機数を増やして量産単価を引き下げ、海外市場へ売り込むことを目指している。日本も戦闘機輸出を認めれば、英伊は欧州市場、日本はASEAN(東南アジア諸国連合)などアジア市場への輸出がそれぞれ予想される。

技術や費用の面から、戦闘機を単独でつくるのが困難な中、今後英国の意向を踏まえ、日本は次期戦闘機輸出の政治的意思・国内コンセンサス(法的枠組みを含む)を早期に築くことができるだろうか。合意作りに向け、国民レベルでの聖域なき徹底した議論が望まれるだろう。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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