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北朝鮮、ミサイル発射を「偵察衛星開発」と再び発表――ICBM発射に向けたカモフラージュの可能性も

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
北朝鮮が2月27日に偵察衛星用カメラで撮影したという朝鮮半島の写真(労働新聞)

北朝鮮国営メディアの朝鮮中央通信は3月6日、同国の国家宇宙開発局と国防科学院が偵察衛星の開発計画に基づいて再び重要な試験を5日に行った、と発表した。同日に同国西岸付近から日本海に向けて発射した弾道ミサイルがこの試験に使われたとみられる。

北朝鮮は2月27日にも「偵察衛星開発が目的」と主張する弾道ミサイルを発射したばかり。筆者が東京特派員を務める英軍事誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、この一週間で2度にわたる「偵察衛星の開発試験」は実際は、将来の大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射に向けたカモフラージュ(偽装)の可能性もあるとみている。

防衛省の分析によると、2月27日と3月5日の弾道ミサイルの軌道はほぼ同じで、前回の27日発射の弾道ミサイルは最高高度が約600キロメートル、飛距離は約300キロメートル。今回の5日発射の弾道ミサイルの最高高度は約550キロメートル、飛距離は約300キロメートルとなっている。2回とも平壌の順安(スナン)付近から日本海に向けて、通常よりも角度を上げて高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射した。

6日の朝鮮中央通信は、今回の試験を通じ、同国の国家宇宙開発局が「衛星資料送受信および操縦指令体系と様々な地上衛星管制体系の信頼性を確認した」とのみ短く伝えた。写真は一切掲載しなかった。

一方、2月28日付の労働新聞によると、前回27日の試験は、偵察衛星に装着するカメラで地上の特定地域に対する垂直撮影や傾斜撮影を実施し、高分解能撮影システムとデータ伝送システム、姿勢制御装置の特性や動作の正確さを実証したという。そして、労働新聞は「偵察衛星の開発において重要な意義を持つ実験となる」と強調していた。

●国防力強化として軍事偵察衛星の運営

北朝鮮は、2021年1月の第8回朝鮮労働党党大会において、国防力強化のための事業として、超大型核弾頭の生産や極超音速兵器、原子力潜水艦などの開発に加え、「軍事偵察衛星の運営」も掲げている。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記(国務委員長)もこの第8回党大会での開会の辞で、「近いうちに軍事偵察衛星を運用して偵察情報収集能力を確保し、500キロ前方縦深まで精密偵察できる無人偵察機をはじめとする偵察手段を開発するための最重要研究活動を本格的に推し進める」と表明していた。

しかし、偵察衛星を打ち上げるために必要なロケット・ミサイル技術は、ICBM技術と似通っている。北朝鮮は「偵察衛星開発試験」を大義名分にしてミサイル発射とその開発を着々と推進している可能性がある。現に北朝鮮は過去に何度も人工衛星の打ち上げと称して事実上の弾道ミサイル発射実験を行ってきた。

北朝鮮は2016年2月に地球観測衛星のロケット打ち上げと称して「ソヘ衛星発射場」から「テポドン2号」の改良型とみられる事実上の長距離弾道ミサイルを発射した(KCNA)
北朝鮮は2016年2月に地球観測衛星のロケット打ち上げと称して「ソヘ衛星発射場」から「テポドン2号」の改良型とみられる事実上の長距離弾道ミサイルを発射した(KCNA)

北朝鮮は、いまだ同国最大のICBMとなる「火星17」を試験発射しておらず、衛星の打ち上げと称して、その発射に踏み切る可能性がある。「火星17」は多弾頭の搭載が可能で、最大射程距離が1万3000-1万5000キロに達すると推定されている。

大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の前で幹部らと話す金正恩氏(労働新聞)
大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の前で幹部らと話す金正恩氏(労働新聞)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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