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北朝鮮、「鉄道機動」弾道ミサイル発射を発表――今後予想される軍事行動とは

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
北朝鮮は14日、「鉄道機動システム」で弾道ミサイル2発を発射した(朝鮮中央通信)

北朝鮮は1月14日に同国北西部の中国国境沿いの平安北道から朝鮮半島東の日本海に向けて、列車を使った「鉄道機動ミサイルシステム」による2発の発射訓練を実施したと発表した。朝鮮中央通信が15日、報じた。過去10日間で3度にわたって合計4発のミサイルを発射するハイペースになっている。

朝鮮中央通信によると、平安北道の鉄道機動ミサイル連隊は14日午前、「北朝鮮軍総参謀部から不意に火力任務を受け、迅速に指示された発射地点で機動し、2発の戦術誘導弾で日本海(東海)上の設定目標を命中打撃した」という。「朝鮮人民軍指揮メンバーと国防科学院の指導幹部が同連隊の検閲射撃訓練を指導した」と伝えられている。ミサイルの飛距離など詳しい情報は明らかにしていない。

韓国メディアによると、韓国軍の合同参謀本部は14日、北朝鮮が同日午後2時41分と同時52分ごろ、平安北道・義州から朝鮮半島東の日本海に向けて発射した短距離弾道ミサイルと推定される2発を確認したと発表した。ミサイルの飛行距離は約430キロ、高度は約36キロと分析しているという。

北朝鮮は朝方にミサイル発射を行うことが多い中、今回は午後に発射した。北朝鮮外務省が14日朝、報道官談話を発表し、北朝鮮の5、11両日の極超音速ミサイル発射に対して米国が制裁強化を発表したことに反発。「米国がこうした対決的な姿勢を取り続けるなら、われわれは一層強力、かつ、はっきりと反応せざるを得ない」と警告していた。その言葉を急きょ実行に移すかのごとく、総参謀部がミサイル連隊に「不意に火力任務」を命じたとみられる。

北朝鮮は昨年9月15日に初めて「鉄道機動ミサイルシステム」発射訓練として、列車を使って2発の弾道ミサイルを中部の山岳地帯から日本海に向けて発射。防衛省によると、この時の飛行距離は約750キロで、最高高度は北朝鮮が保有している短距離弾道ミサイル「スカッド」の軌道よりも低い約50キロだった。日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下したと推定された。今回発射されたミサイルも、9月同様、形状などからロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」をベースにした「KN-23」の改良型とみられる。

新年早々からミサイル発射を繰り返している北朝鮮の意図はどこにあるのか。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記(国務委員長)は昨年末の党中央委員会総会で、不安定化する朝鮮半島の軍事的環境と国際情勢が「国家防衛力の強化を少しの遅れもなく力強く推進することを求めている」と述べた。さらに、1月11日の「極超音速ミサイル」発射後には「国の戦略的な軍事力を質量ともに、持続的に強化し、わが軍隊の近代性を向上させるための闘いに一層拍車をかけなければならない」と述べた。

●今年後半にはICBM発射や核実験の強行も

これらの金正恩総書記の発言を踏まえれば、今後もさらなる北朝鮮の軍事的行動が予想されるだろう。

アメリカのシンクタンク、ウィルソン・センターは「On the Horizon:What to Watch in 2022」と題した報告書の中で、金正恩総書記が、他国からの先制攻撃を受けても生き延びることができる「核のトライアド」こと大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機の3本柱の構築を目指していると指摘した。

そして、2月の北京オリンピックと3月の韓国大統領選挙が終わった2022年後半に、北朝鮮がまだ発射実験を行っていない大陸間弾道ミサイルの火星16や核実験などを強行し、緊張を高める可能性があると警鐘を鳴らした。

「これらの実験は、アメリカ相手の将来の外交で自国の影響力を増やしながら、核抑止力を強化するという大局的な戦略目標に叶う。金正恩氏の短期的な目標は制裁の大幅な緩和であり、長期的な目標は核保有国として認知されることだ」。報告書はこう指摘する。

また、アメリカの外交問題評議会(CFR)も10日に発表した報告書「Preventive Priorities Survey 2022」(2022年予防優先順位調査)の中で、「北朝鮮による長距離弾道ミサイルの発射実験と核開発の再開」が起きる可能性が「(五分五分の)中程度」と指摘。実際に起きた場合には、朝鮮半島での新たな危機を招きかねず、「インパクトは大」とのリスク評価を下している。

●固体燃料エンジン使用のICBM保有に向けて実験も

一方、日本の公安調査庁は昨年12月17日、国内外の治安情勢についての2022年版「内外情勢の回顧と展望」を公表した。その中で「北朝鮮は、昨年1月の第8回党大会において、多弾頭ミサイルや極超音速兵器、原子力潜水艦などの開発状況に言及し、軍事力の高度化・多様化を推進していると主張した」と説明。そして、「今後5年間の国防力強化の課題として、核兵器の小型軽量化・戦術兵器化の発展など各種兵器の開発目標に言及した」と述べた。

公安調査庁が2021年12月17日に公表した2022年版「内外情勢の回顧と展望」より引用
公安調査庁が2021年12月17日に公表した2022年版「内外情勢の回顧と展望」より引用

公安調査庁報告書が掲載した上記の表に示されているように、北朝鮮は今後も個々具体的な開発目標を達成するために、次のような各種の核ミサイル実験を推し進めていくとみられる。

①ICBMの1万5000キロ射程圏内の命中精度向上と、それによる核先制と報復打撃能力の高度化

②「完成研究事業の最終段階」にあるとする多弾頭個別誘導技術の完成

③「設計・研究が終了し、最終審査段階」にあるとする原子力潜水艦の保有

④水中発射型核戦略兵器の保有

⑤地上からも水中からも発射できる固体燃料エンジン使用のICBMの保有

北朝鮮はミサイル技術の開発において、固体燃料型ICBMとミサイル誘導システムの技術開発などに課題が残っている。ミサイル燃料が液体だと、固体燃料に比べ、注入など「発射準備」に時間や手間がかかるので、事前にアメリカや日本の監視システムで発射準備の兆候が見つかりやすい。そして、ミサイル発射の機動性や奇襲力を発揮しにくくなっている。さらに液体燃料は腐食性が強く、長期間の継続的な保管がより難しくなっている。

●2021年以降に新型ミサイル7種類の発射実験

北朝鮮は日米韓の事前探知や迎撃をくぐり抜ける新型ミサイルの開発に躍起になっており、昨年1月の第8回党大会以降でも、次のように既に新型ミサイル7種類の発射実験を繰り返し実施している。 

2021年3月25日    「新型戦術誘導弾」(KN-23)

   9月11、12両日 「新型長距離巡航ミサイル」(LACM)

   9月15日     「鉄道機動ミサイルシステム」(KN-23改良型)

   9月28日     「新たに開発された極超音速ミサイル『火星8』」

   9月30日     「新型地対空ミサイル」

   10月19日     「新型潜水艦発射弾道弾」(KN-23海上発射改良型)

2022年1月5日      「新型極超音速ミサイル」

   1月11日          同上

   1月14日     「鉄道機動ミサイルシステム」(KN-23改良型)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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