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連日過去最多の中国軍機が台湾の防空識別圏に進入している3つの理由

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
中国の戦闘機「殲16(J16)」(台湾国防部より)

中国がここに来て台湾への攻勢をぐっと強めている。10月1日と2日には過去最多の中国軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入した。

台湾国防部(国防省)の発表によると、1日は中国軍の戦闘機や爆撃機など38機が、2日も戦闘機など39機がそれぞれ台湾南西沖の防空識別圏を横切る形で進入した。

中国はなぜ連日、大量の中国軍機を台湾の防空識別圏に進入させているのか。

主に3つの理由が考えられる。

①台湾建国110周年を前に軍事的圧力

まず短期的にみると、台湾では、来週日曜日の10月10日に双十国慶節(中華民国の建国記念日)がある。特に今年は110周年の節目の年に当たることから、大規模な祝賀行事が予定されている。台湾の国威発揚の祝賀ムードの中、中国は軍事的な圧力をかけることで、台湾の蔡英文総統に建国式典で中国への挑発的な演説をしないよう強くけん制しているとみられる。

ちなみに、蔡総統は昨年10月10日の建国記念日の式典の演説では、中国と対等な立場で「有意義な対話」を進めたいと表明した。これに対し、中国国務院の台湾事務弁公室は、「対決的な姿勢と敵意に変わりはなく、独立を訴え、対外勢力との連携を求めている」と批判、「台湾独立は袋小路であり、対決姿勢は何ももたらさない」と非難した。

②重要海域で統合戦闘能力を示す狙い

台湾国防部は、中国軍機が10月1日も2日も台湾島の南西にある東沙(プラタス)島近くを飛行したと発表した。東沙島は台湾が実効支配している。

10月2日に東沙島近くの台湾南西沖の防空識別圏を横切る形で進入した中国軍機の飛行経路(台湾国防部より)
10月2日に東沙島近くの台湾南西沖の防空識別圏を横切る形で進入した中国軍機の飛行経路(台湾国防部より)

1日に台湾の防空識別圏に進入した中国機38機の内訳は、戦闘機「殲16(J16)」28機と戦闘機「スホイ30」4機、爆撃機「轟6(H6)」4機、対潜哨戒機「運8(Y8)」1機、早期警戒機「空警500(KJ500)」1機。

また、2日に台湾の防空識別圏に進入した39機の内訳は、昼夜の二度の飛行を合わせて、J16が26機、スホイ30が10機、Y8が2機、KJ500が1機となっている。

中国は、複数のスコードロン(飛行隊)からの多機種連携の統合戦闘能力を台湾と米国に誇示する狙いがあったとみられる。

特に中国機が近くを飛来した東沙島は、陸地部分の面積がわずか1.74平方キロメートルだが、軍事的価値が計り知れない。東沙島は台湾海峡南端とバシー海峡西端双方の近くに位置する。中国にしてみれば、東沙島を軍事基地化し、戦略的に重要な両海峡を制御下に置きたいところだろう。有事の際には両海峡を封鎖し、台湾の孤立化を図れる。海南島を主要な基地とする中国の潜水艦隊にとっても、台湾の南に位置するバシー海峡は太平洋に出る際の重要航路ともなる。

③台湾のTPP加盟申請への反発

中国は、台湾当局が9月にTPP(環太平洋経済連携協定)に正式加入を目指す意思を表明した頃から、台湾の防空識別圏への中国軍機の飛来を一気にぐっと増やしている。

「中国本土と台湾は1つの中国」を唱える中国は、台湾のTPP加盟には強硬に反対している。しかし、台湾はTPP加盟に引き続き、強い意欲を見せている。

中国は台湾のTPP加盟申請を口実に、台湾への軍事的圧力をさらに高め、政治的にも徐々に屈服させてやろうとする中長期的なサラミ戦術も仕掛けていると筆者はみている。

言ってみれば、中国は台湾相手に一種の「強制外交」を展開している。強制外交とは、自国が必ずしも相手国の軍隊を撃破することなく、相手国に痛みを与えることのできる圧力を示すことによって、自国に望ましい行動を相手国の政策決定者に選択させることを意味する。核ミサイル実験を繰り返してきた北朝鮮も、この強制外交をよく駆使する国だ。

なぜ中国は過去最多の軍用機を台湾防空識別圏に送っているのか。このところ、中国中央電視台(CCTV)環球時報など複数の中国国営メディアが中台の「祖国統一」の悲願が背景にあるとの見方を示している。

中国共産党系シンクタンクの研究員も筆者の取材に対し、「中国統一を近いうちにやらなければならないと思っている人が周りに多い」と述べた。

アメリカ国務省は3日、中国軍機の台湾の防空識別圏への進入について声明を出し、「強い懸念」を表明した。そして、「アメリカの台湾へのコミットメント(関与)は極めて堅固だ」と強調し、台湾海峡とこの地域の平和と安定の維持に引き続き、寄与していく姿勢を見せている。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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