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日本、ワクチン接種率OECD37カ国で最下位――東京五輪よりもコロナ対策に専念を

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
アストラゼネカ製ワクチン。日本はワクチン接種を加速し、感染を封じ込められるか(写真:ロイター/アフロ)

日本の新型コロナウイルスのワクチン接種率が、先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中でダントツの最下位に陥っている。世界182カ国中でも131位にとどまっている。世界と比べても、日本のワクチン接種の少なさが際立っている。

英国のオックスフォード大学運営の「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」の4月19日時点のデータによると、日本の人口100人あたりの接種回数は1.53回で、世界平均の11.61回より一桁も少なく、大幅に下回っている。国軍による市民への武力弾圧が続くミャンマーの1.91回よりも少ない。

OECD加盟国のワクチン接種先進国としては、イスラエルの119.32回がトップ。2位はチリの68.84回、3位はイギリスの63.02回、4位はアメリカの62.61回、5位はハンガリーの48.22回となっている。

人口の中で少なくとも一回のワクチン接種を受けた割合も日本は0.96%となっており、1%未満。OECD加盟国で最下位層に沈んでいる。

日本の人口の中で少なくとも一回のワクチン接種を受けた割合は0.96%で、1%未満となっている。(「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」より筆者がキャプチャー)
日本の人口の中で少なくとも一回のワクチン接種を受けた割合は0.96%で、1%未満となっている。(「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」より筆者がキャプチャー)

●日本、遅れて接種を始めた国々にも接種率で逆転される

筆者は2021年2月2日、「緊急事態宣言」を延長する菅首相の記者会見で「なぜ日本のワクチン接種が遅れているのか」と質問した。

これに対し、菅首相は、ワクチン接種が遅れている事実を認めたものの、「日本はワクチンの全量確保が早かった」と強調。「ワクチン接種の体制ができて、始まったら世界と比較をして、日本の組織力で、多くの方に接種できるような形にしていきたい」と述べた。

しかし、その菅首相の言葉とは裏腹に現実には日本は依然、国際的に後れを取り続けている。菅首相への筆者の質問当時の2月初め、OECD加盟国37カ国中、日本のほか、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビアの4カ国がまだ接種を開始していなかった。その後、日本とコロンビアが2月17日に接種を開始。続いて、ニュージーランドが2月20日、オーストラリアが2月22日、韓国が2月26日にそれぞれ接種を開始した。しかし、今では日本は、こうして遅れて接種を開始した国々にも逆転され、接種率はOECD加盟国で最下位に陥っている。

具体的には、人口100人当たりの接種回数はコロンビア7.29回(33位)、オーストラリア5.87回(34位)、韓国が3.08回(35位)、ニュージーランド2.81回(36位)、日本1.53回(37位)と日本の遅れが目立ってきている。

菅首相は4月19日、米製薬会社ファイザーのブーラ最高経営責任者(CEO)との17日の電話協議を踏まえ、「9月までに供給されるメドがたった」と述べた。しかし、世界各国がワクチン確保レースでしのぎを削る中、はたして予定通りに進むだろうか。心配が尽きない。

●集団免疫を早く獲得した国が「勝ち組」

なぜ各国とも競うようにして国民へのワクチン接種を急ぐのか。それは集団免疫を獲得し、コロナ禍を一刻も早く終息させるためだ。集団免疫の確立で後れを取れば、国際的に人流・物流のフル再開の機運が生まれた時に、日本が締め出される懸念がある。結果として、貿易立国の日本は他国に比べ、経済回復も出遅れてしまう。

米英は感染者数や感染死者数では「負け組」だったが、ワクチン接種では先行し、早期のコロナ危機克服と景気回復では「勝ち組」になる可能性が高まっている。ワクチンというゲームチェンジャーを手にし、一発逆転劇を期している。

●日本のPCR検査数はOECD加盟国37カ国中36位

日本が後れを取っているのはワクチン接種だけではない。国際統計サイト「Worldometer」の4月19日時点のデータによれば、日本の新型コロナウイルスの人口100万人当たりのPCR検査数は8万6543回となり、世界210カ国中145位にとどまっている。OECD加盟国37カ国では36位となっている(最下位はメキシコ)。ワクチンのみならず、検査数の低さも国際的に際立っている。

●日本の実効再生産数はOECD加盟国中2位

また、Our World in Dataの4月17日時点の最新データによると、1人の感染者から何人に感染が広がるかを示す日本の「実効再生産数」はOECD加盟国中、オーストラリアに次いで高い2位の1.3となっている。

日本の新型コロナウイルス「実効再生産数」はOECD加盟国中、オーストラリアに次いで高い2位(Our World in Dataのサイトより筆者がキャプチャー)
日本の新型コロナウイルス「実効再生産数」はOECD加盟国中、オーストラリアに次いで高い2位(Our World in Dataのサイトより筆者がキャプチャー)

●東京五輪よりもコロナ対策に専念を

これまで見てきたように、日本はワクチン接種率でも検査件数でも実効再生産数でも、どれも先進国の中では最下位の水準にある。ニューヨークタイムズをはじめ、海外メディアがこのところ、相次いで指摘しているように、ワクチン接種が進んでいない国が東京五輪・パラリンピックを開催することはリスクが大きすぎないか。それはまるでボクシングの試合を無防備のノーガードで戦うようなものではないか。東京五輪よりもコロナ対策に専念することを多くの国民は望んでいるのではないか。

参考記事:「東京五輪開催は再考されるべき」英医学誌が論考掲載

特に国内外で変異株が猛威をふるい、世界全体では先週一週間で、過去最多となる約522万人の新規感染者が確認された。世界全体の新規感染者数は8週連続、感染死者数は5週連続でそれぞれ増加し、感染再拡大が止まらない。

深刻化するコロナ禍でも、国際オリンピック委員会(IOC)や日本政府、東京都などは東京五輪をあくまで強行する構えだが、東京でのノーガードのボクシングの試合を多くの日本国民も、そして、世界も認めるだろうか。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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