Yahoo!ニュース

新型コロナワクチン接種、日本はG7で唯一開始できず――OECD37カ国でも日本など5カ国のみが未接種

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
日本では一般国民対象の新型コロナウイルスのワクチン接種はいったいいつ始まるのか(提供:PantherMedia/イメージマート)

日本の新型コロナウイルスワクチンの接種開始が、国際的にみても非常に遅れている。日本や欧米の主要7カ国(G7)の中で、いまだにワクチン接種を開始していない国は日本だけだ。

さらに、英国のオックスフォード大学運営の「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」の1月28日時点のデータによると、世界の先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD、本部パリ)加盟国37カ国中では、日本やコロンビアなど5カ国のみが接種を始めていない。

パンデミックに見舞われる中、PCR検査態勢確立の遅れや新型コロナ特措法の不備、自宅療養死の急増といった医療体制の問題をはじめ、ここにきてワクチン接種でも、日本の危機管理の備え不足が露呈してきている。

さらに、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は日本のワクチン接種状況に関心を示している。日本のワクチン接種の遅れが今夏開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに与える影響が懸念される。

●遅すぎる日本の接種開始

日本はG7の中で唯一接種を開始しておらず、遅れが目立つ。日本政府は2月中旬にワクチンを承認し、医療従事者への先行接種を2月下旬に始める予定だ。

確かに日本は他のG7の国々と比べると、感染拡大が抑えられてはいる。しかし、集団免疫を獲得し、コロナ禍を一刻も早く終息させたいのであれば、一般国民へのワクチン接種をできるだけ早く開始したいところだろう。 

なお、OECD加盟国37カ国中、日本と同様、いまだ接種を開始していない国は、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビアとなっている。韓国、オーストラリア、コロンビアの3カ国はワクチンの供給不足が際立ってきている中でも、2月中に何とかワクチンを輸入し、接種を始める予定だ。一方、感染予防対策で優等生となっているニュージーランドは3月末までにワクチンの第一陣を輸入し、今年年央からの本格的な国民への接種を開始する予定だ。

●ワクチン接種を開始した国は世界56カ国

世界全体での新型コロナウイルス感染者数は1億人、感染死者数は210万人をそれぞれ優に超えた。感染拡大が一向に収まらない中、Our World in Dataの28日時点のデータによると、すでにワクチン接種を開始した国は56カ国に達している。

国民への接種数の多いトップ10は上位から順にアメリカ、中国、イギリス、イスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)、インド、ドイツ、イタリア、トルコ、スペインの順になっている。人口100人当たりの接種数では、イスラエル、UAE、セーシェル、イギリス、バーレーン、アメリカ、マルタ、セルビア、アイスランド、デンマークの順になっている。

アジアでは、中国とインドに加え、インドネシア、シンガポール、ミャンマーが既に接種を開始している。

世界保健機関(WHO)は18日、49の富裕国で3900万回以上のワクチンが投与されている一方で、貧困国ではギニアのわずか25回分の接種しか行われていないことを明らかにした。

WHOのテドロス・アダノム事務局長は同日、より豊かな国で暮らす健康な若者が、貧しい国で暮らす重症化リスクのある人よりも先に接種を受けるのは、公平ではないと述べた。国際NGOオックスファム・インターナショナルは、低・中所得国では2021年末までに人口の10%未満しかワクチンを接種できない可能性を示している。

新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐって先進国と途上国間で格差が生じてきている
新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐって先進国と途上国間で格差が生じてきている提供:PantherMedia/イメージマート

「ミーファースト」(me-first)とも揶揄される富裕国の自国優先的なワクチン確保が目立ってきている中、ノルウェーは国内でのワクチン接種開始と同じ時期に、低所得国へのワクチン提供を約束するなど注目を浴びている。(参考記事:Norway to share Covid-19 vaccine with poorer countries at same time as protecting its own citizens

●東京オリパラへの影響

IOCのバッハ会長は28日の東京オリパラ大会組織委員会の森喜朗会長との電話会談で、日本におけるワクチンの状況に関心を示した。

大会組織委員会の武藤敏郎事務総長によると、「バッハ会長としては、ワクチン接種が大いに進んで、日本でできるだけ大勢の人が早く接種できるようなことを期待したい」と述べたという。

はたして日本はそのバッハ会長の期待通りに、東京五輪開幕前までに大勢の人々にワクチン接種を実施できるのだろうか。

また、そもそもワクチンの供給が不足し、先進国と途上国の間でワクチン接種に格差が生じてきている中、東京オリパラを今夏に開催していいのかという根本的な疑問も強まっている。

五輪選手は人並み外れた運動神経や相当な体力の持ち主のはずだ。世界的なワクチン不足の中、人道主義の観点からも、壮健な五輪選手より医療従事者や重症化リスクの高い人々へのワクチン接種を最優先にすべきではないか。この地球上でワクチン接種を一番必要とされている人は誰なのか。パンデミック禍でのワクチン接種の問題が人類に重くのしかかっている。

(関連記事)

東京五輪、命を守るために早く開催中止の決断を

新型コロナ、日本のPCR検査数はOECD加盟国36カ国中35位。世界と比べても際立つ少なさ

労働者の街、川崎でホームレスが減っている――現場で何が起きているのか

新型コロナ緊急事態宣言、日本に本当に足りないのはマスクより国民のコンセンサスだ

新型コロナ対応で露呈。戦後日本の成り立ちが招いた危機管理の弱さ

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

高橋浩祐の最近の記事