トランプ大統領が敗北を認めない最大の理由

教会堂を背景にして聖書を片手に「米国は世界一偉大な国だ」と発言したトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

大接戦となったアメリカ大統領選での全州の結果が判明し、民主党のバイデン前副大統領(77)が勝利したのにもかかわらず、共和党のトランプ大統領(74)は敗北を認めていない。

なぜトランプ大統領はなかなか敗北を認めないのか。

1つには、メディアが報じているように、今後の政治的な影響力を確保したいため、できる限り「不正投票」を訴えて法廷闘争に持ち込み、長引かせたいとの思惑があるのかもしれない。特に、来年1月5日のジョージア州の上院決選投票までトランプ支持者をひきつけ、権限の大きい上院を身内の共和党が制することを導けば、2024年の大統領選への再立候補が可能だと考えているのかもしれない。

しかし、筆者はトランプ大統領が敗北を認めない最大の理由は、トランプ大統領自身の幼い頃からの強い信仰に基づいているとみている。

●トランプ大統領が信仰しているもの

トランプ大統領の宗教は、キリスト教プロテスタントのカルヴァン派の一派、長老派(プレスビテリアン)であることが知られている。トランプ大統領は幼い頃、生まれ育ったニューヨーク市クイーンズの長老教会に通っていた。そして、そこで1950年、13歳になったころに堅信礼を受けた。その後は、マンハッタン5番街にあるマーブル協同教会に毎週日曜日、約50年間も礼拝に行ったという。

トランプ大統領はそのマーブル協同教会のノーマン・ヴィンセント・ピール牧師から大いなる影響を受けた。

ピール牧師は、自らのベストセラーの本『ポジティブ・シンキングの力』を通じて、自己啓発や自己暗示に力を入れていた。

トランプ大統領とトランプ家に関する本を2冊出版したアメリカの作家兼ジャーナリスト、グウェンダ・ブレア氏は2015年10月の段階で、政治メディア「ポリティコ・マガジン」で次のように書いていた。

「ピール牧師の物の見方は(…中略…)トランプ家のカルチャーにまさにぴったりと合っていた。つまり、規則を曲げることを決していとわないこと、勝つためには何でもすること、そして、決してあきらめないこと」

ピール牧師の著書『ポジティブ・シンキングの力』は何百万人の読者の助けになったかもしれない。しかし、自己啓発や自己暗示はあまりに行き過ぎると、周りに害を及ぼすことになる。トランプ大統領はピール牧師の影響を大いに受け、自己予言の成就をしていく人物となった。

●「トランプの思考や行動の背後にはカルヴァン派の発想」

日本でも、元外務省主任分析官である作家の佐藤優氏が早くからそうしたトランプ氏の独断的に見える思考や行動の背後に、カルヴァン派の発想があると指摘してきた。佐藤氏はトランプ大統領と同じカルヴァン派だ。

筆者は2017年2月、トランプ氏の大統領就任を受け、佐藤氏の指摘も踏まえ、そのことを記事にした。

(参考記事:トランプ大統領は「イスラエル中心主義者」だ 就任演説での聖書からの引用に隠された意味

同志社大学大学院神学研究科を修了した佐藤氏は2017年1月26日、新党大地主催の月例定例会で、次のように語っていた。

「カルヴァン派の場合、神によって選ばれる人は生まれる前にあらかじめ定められている、と考える。本人の努力は一切関係ない」

「そうすると、試練にすごく強くなる。どんなにひどいことに遭っても、負けない。どうしてか。神様が与えた試練なので、最後に勝利すると決まっていると考える。そして、問題はどういう勝利の仕方なのか、と考える」

そして、トランプ大統領については「自分は神様に選ばれたときっと思っている」と分析していた。

佐藤氏は最近でも、雑誌「プレジデント」2020年7月17日号の寄稿の中で、「トランプ米大統領の信仰する長老派の特徴は、打たれ強いこと。その代わり、負けを認めず、反省しません。新型コロナウイルスや人種差別反対デモへのトランプ大統領の対応は、俺は間違えていない。だからやり方を変えないという態度です。強い信念はカルヴァン派の思考の特徴ですが、そのマイナスの面が出ていることを感じます」と指摘している。

●トランプ氏「敗北は心の問題」

トランプ大統領は自書『Think BIG and Kick Ass in Business and Life』(邦題:大富豪トランプのでっかく考えて、でっかく儲けろ)で次のようにも述べている。

「敗北は心の問題だ。敗北を受けいれ、絶望的な敗北者の思考形式になったとき、あなたは敗北する」

「でっかいエゴを持つことは良いことだ」

家族や身内の共和党議員の説得があろうとなかろうと、トランプ氏はそう簡単に敗北を受け入れないとみられる。

だが、「トランプ劇場」と化してきた今のアメリカ政治が長引き、将来に「分断と対立」の深刻な禍根を残すような事態になってはいけないだろう。

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