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金与正氏の身にいったい何が?1カ月近く公の場に姿見せず

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
金与正氏(写真:代表撮影/Inter-Korean Summit Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

北朝鮮の最高指導者、金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の実妹である金与正(キムヨジョン)・朝鮮労働党第1副部長が7月下旬以来、党の重要会議を欠席し続けている。8月20日付の朝鮮労働党機関紙、「労働新聞」に掲載された写真によると、与正氏は19日に開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会にも姿を見せなかった。

北朝鮮国営の朝鮮中央テレビが20日放映した映像でも与正氏の姿を確認できなかった。

与正氏は2020年4月の党政治局会議で、政治局員候補に復帰を果たした。朝鮮中央通信(KCNA)は8月20日、19日開催の党中央委員会総会には「党中央委員会政治局委員、候補委員と党中央検査委員会委員が出席した」と報じたが、与正氏の姿は見られなかった。

与正氏が最後に公の場に姿を現したのは、7月27日に開催された第6回全国老兵大会だ。8月13日に開催された党中央委員会政治局会議にも出席しなかった。

与正氏は4月に政治局員候補に復帰後、6月7日の政治局会議、7月2日の政治局拡大会議、7月25日の政治局非常拡大会議にそれぞれ出席してきただけに、8月に入ってからの欠席は異様だ。

与正氏の身にいったい何が起きているのか。単なる体調不良なのか。あるいは会合や集会を避け、新型コロナウイルスの感染予防を徹底しているのか。降格された可能性はないのか。それとも後継者として海外メディアからもあまりに注目されすぎたので、金正恩氏の意向を踏まえ、あえて表舞台から遠ざかっているのか。北朝鮮の「奥の院」でいったい何が起きているのか。いずれにせよ、北朝鮮ウォッチャーの間では今、与正氏の動静に注目が集まっている。

与正氏は2017年10月、政治局員候補に就任した。しかし、2019年4月、ベトナム・ハノイでの2回目の米朝首脳会談の決裂を受け、責任を取らされる形で、いったんは政治局員候補から外されたとみられている。

●金正恩氏が頼れるのは身内の兄妹

しかし、正恩氏の健康不安がささやかれる中、正恩氏の最愛の妹であり、信頼の厚い与正氏は、再び政治的に台頭。2020年4月に正式に党政治局員候補に返り咲いた。

正恩氏の実兄で、政治に興味がなかったとみられていた正哲(ジョンチョル)氏も今春、朝鮮労働党の中央党組織指導部入りを果たしたとみられている。

経済の低迷やコロナ禍での社会不安、正恩氏の健康不安、そして、それらに伴う金正恩体制の求心力の衰えが指摘されるなか、正恩氏は信頼のおける実兄や実妹を政治的に台頭させ、党や軍のグリップ(掌握力)を強めようとしていると筆者はみている。正恩氏の目2つだけでは党や軍の幹部たちの動向に常に目を光らせることはできない。頼れるのは身内だろう。故金日成(キムイルソン)主席直系の「白頭(ペクトゥ)(山)の血統」の兄妹の力を借りて、正恩氏は何とか国を治めようとしているとみている。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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