「異常気象は国家安全保障上の最大の脅威」気候変動対策が急務の世界の軍事当局

日本各地では近年、観測史上最大級の大雨に見舞われている。防衛当局の対応は十分か。(提供:アフロ)

大型台風やハリケーン、洪水、海面上昇、アマゾンの森林火災...気象災害が人類にとって安全保障上の最大の脅威の1つになってきている。しかし、世界各国の軍事当局が、地球温暖化など気候変動のもたらす気象災害への対処で後手に回っている。このため、軍当局者や気候変動の専門家からは、こうした異常気象がもたらすリスクをめぐって、軍当局による継続した分析や予測、計画立案を求める声が上がっている。

筆者が東京特派員を務める英国の軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーが10月25日、Climate change needs to wrench new thinking in military planning circles(気候変動は軍事計画当局から新たな思考をもぎ取る必要がある)と題した記事を掲載し、注目を浴びている。日本での議論の叩き台にもなると考え、この拙稿で紹介したい。

●軍当局、気候変動対応で自国政府に進言できず

この記事によると、アメリカや北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍当局者はこうした気候変動リスクを意識しているものの、それが引き起こす急激な安全保障環境の変化に対してどのように準備すればよいのか、さらには自国軍が将来にわたって、そうした激変する安全保障環境下でどのように活動すればよいのか、自国政府に十分に積極的に進言できないでいるという。

同記事によると、気候変動に関する世界軍事諮問会議(The Global Military Advisory Council on Climate Change, 略称GMACCC)の議長を務めるバングラデシュ退役少将のアンム・ミュニルザマン氏は24日にブリュッセルで開かれた国際会議で、「海面が3.93インチ(=約10センチ)上昇しただけで、スリランカからアメリカまで何百万人の人々が部分的あるいは全面的な洪水に見舞われる」と指摘、「小さな海面上昇でも、バングラデシュの陸地の20%を埋没させ、人口の5分の1に当たる3500万人を強制退去させることになるだろう。これは単なる1つの防災問題をはるかに超えるものだ」と述べた。

●「気候変動は安全保障上の脅威」

英国国防省で能力開発を担当するリチャード・ブリューイン氏も「世界の多くの国の軍事当局者は、気候変動を安全保障上の脅威とみなしている。しかし、彼らは具体的な任務遂行や実施までには至っていない。彼らは現状分析や想定されるシナリオの立案、それに伴う軍の訓練、さらには軍の改革を行う必要がある」と指摘した。

ブリューイン氏はさらに「有志連合がアフガニスタンに派兵する前に、気象条件を作戦能力計画に織り込んでいたならば、大型輸送ヘリのCH47チヌークをわざわざ高温と高地用のために改めて再設計する必要はなかっただろう」と指摘、「このようなことは日常的に防衛計画や作戦能力計画に考慮されるべきだが、しばしば後からの思い付きとして実施されている」と述べた。

このほか、欧州連合(EU)の安全保障に関する教育訓練機関である欧州安全保障・防衛大学校の担当者も、コンピューターや電子機器、さらにはタービンエンジンの耐熱性が弱いことを指摘し、気温上昇によるクックオフ(昇温発火)の危険性を指摘した。

また、大型ハリケーン「マイケル」が2018年10月にアメリカ南部フロリダ州に上陸した際、アメリカ軍は所有するF22戦闘機の3分の1を他基地に再配備しなくてはならなくなったが、設備が十分に整っていなかったため、F22が一時的に使用できなくなったという。

●アメリカ軍基地の3分の1が気象災害に脆弱

アメリカ国防総省の推計によると、アメリカ軍の3分の1の基地が気候変動に伴う火災や洪水などに脆弱だという。

米バージニア州ノーフォークにあるアメリカ海軍の基地は、世界最大の海軍基地にもなっているが、海面上昇によって基地自体が水没の危機にさらされている。アメリカ海軍の元幹部は「気候変動が国家安全保障における最大級のリスク」と断言している。

フランス国防省の担当者も「われわれは、世界中の脆弱な地域で軍のインフラストラクチャーを擁している。われわれフランスも次の防衛白書では、気候変動に関するロードマップが必要になる。それはリスクマップとも呼べるもので、気候変動が安全保障に与える影響について、戦略的な展望を示すものになるだろう」と述べた。

このほか、泥沼化するシリア内戦も過去最悪の干ばつが引き起こしたと数多くの専門家が指摘してきた。

筆者は今月に入り、内閣府の事業でオーストリアなど四季のある国々からの青年代表団と会ったが、彼らは皆一様に「春と秋が短くなり、四季ではなく、夏冬だけの二季のようになってきている」と述べていた。このほか、異常気象をめぐる議論では、ペルーの青年はジャングルが徐々に消滅していると話していた。

●問われる日本の対応

翻って日本はどうか。政府は2018年12月、防衛力整備の指針を示す「防衛計画の大綱」を定めた。従来の陸・海・空に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった各国がしのぎを削る新領域での防衛体制の強化を訴えている。しかし、気候変動に伴い、気象災害が国家安全保障上の最大の脅威になるとの認識が欠如している感が否めない。

2011年の東日本大震災の津波では、航空自衛隊松島基地が被災し、滑走路や格納庫、F2戦闘機など計28機に被害が及ぶ事態も起きた。

さらに言えば、九州や秋田、関東、関西といった日本各地でも近年、観測史上最大級の集中豪雨や記録的大雨に見舞われている。最近では、台風19号が全国に大きな被害をもたらし、死者・行方不明者は100人近くに及んでいる。この台風19号の影響では、10月14日に予定されていた海上自衛隊の観艦式も中止になった。

さらに10月25日に福島、千葉に降った記録的大雨でも、これまでに10人が亡くなり、2人が行方不明になっている。

日本はこうした苛烈さを増す台風や豪雨の被害に加え、毎年のように火山の噴火や地震にも見舞われている災害大国でもある。

日本政府には、国家として国民の生命と財産を守る第一義的な義務がある。世界各地で気象災害が悪化の一途をたどるなか、国民にとって安全保障上の最大の脅威は、地球温暖化がもたらす異常気象だと認識し、防衛省・自衛隊を巻き込み、防衛大綱でも積極果敢な長期戦略を打ち出していくべきではないか。後手に回ってはいけない。例えば、議論の叩き台として、党派を超えて、アメリカの連邦緊急事態管理庁(FEMA)のような実動部隊を完備した機関の設置を真剣に検討すべきではないか。