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【プロ野球】開幕ダッシュの鍵は「第2先発」。先発陣はやや調整不足?

田尻耕太郎スポーツライター
ソフトバンクの開幕投手を務める東浜(筆者撮影)

今季は開幕ダッシュが例年以上に重要

 いよいよプロ野球開幕目前だ。6月19日、待ちに待った長いシーズンのドラマが幕を開ける。

 今季は例年より23試合減の120試合制だ。福岡ソフトバンクホークスの工藤公康監督は「開幕ダッシュを当然意識します」ときっぱり言った。試合数が減れば1試合の比重が増すとともに、短距離レースのように出遅れは致命傷になりかねないとの考えが言葉の裏側に見てとれた。

 長丁場のペナントレースを安定して戦ううえで重要なのは投手力だ。打線は水もの。特に先発投手がしっかり計算立てられれば、リリーフ陣への負担も少なくて済む。

 各チームともメディア報道を見比べると開幕ローテーションはもう出揃っている。なかでも、やはり開幕投手の顔ぶれは当然ながらとても豪華だ。「うちのエース」「今シーズンの柱」と各監督が自信を持って送り出してくる。

 それは毎年と変わらない。

 しかし、3カ月遅れの開幕は、彼らの調整をとても難しくした。

 準備をする時間は飽きるほどあった。しかし、開幕日が「6月19日」と正式決定したのは5月25日。そこからの準備期間は1カ月もなかった。

 プロ野球選手も人の子だ。目標がきちんと定まらない中で体も心も緊張状態を保つことなんて出来ない。自主練習期間中に取材をしたところ、大抵の先発投手たちは「開幕までに練習試合で3、4試合は少なくとも登板したい」と話していた。中6日が主流だから登板は週1で、4度マウンドに上がるならば1カ月は“少なくとも”欲しいとの要望だった。

タカの開幕投手・東浜はどんな調整を?

 しかし、実際はそれだけの期間をとれなかった。

 ホークスの開幕投手を務める東浜巨を例にとって、ここまでの足跡をたどってみる。

 ・5月26日(火)、紅白戦に中継ぎ登板。3回打者9人、1安打、無失点。

 ・5月31日(日)、紅白戦に先発。3回打者9人、パーフェクト投球。

 ・6月6日(土)、阪神戦に先発。3回8安打4失点。

 ・6月12日(金)、広島戦に先発。3回1安打無失点。

 東浜は登板間隔を詰めることで4度の実戦機会を得た。ただ、最終調整となった今月12日の広島戦は少し計算外だった。プレーボール直後に痛いアクシデントがあった。広島1番のピレラの強烈なピッチャー返しのゴロが東浜の左太もも付近に直撃したのだ。本来ならば、80球程度を予定していたが、3回を43球で投げきったところで大事を取り降板となった。

 翌日、東浜は「骨に異常はないし、当たった箇所からしても大丈夫だと思います。当たったときはスゴイ音がしましたけどね」と話していた。問題なく、自身初となる開幕マウンドに立つことはできそうだ。

12球団開幕投手たちの調整は?

 ただ、気になるのは登板イニングだ。アクシデントがあったためやむを得ないが、最長で3回しか投げていない。

「スタミナについては阪神戦で75球投げることができたからある程度行けると思います。ただ、たしかにイニングを重ねる作業はもう少ししたかった」

 投手はただ単に球数で疲れるのではなく、チェンジのたびにベンチで座って再び気持ちを整えてマウンドに立つことの繰り返しでも疲労を感じるのだ。

 その意味で、今季は12球団を見渡しても、開幕投手たちの調整はまだ万全とはいえないのではなかろうか。

 開幕ちょうど1週間前の練習試合で揃い踏みした、各球団の開幕投手たちの登板成績は以下のようになる。

 【パ・リーグ】

 西武  ニール 5回99球、8安打、6失点

 楽天  則本 5回80球、5安打、1失点

 ロッテ 石川 4回87球、10安打、8失点

 日本ハム 有原 5回65球、4安打、無失点

 オリックス 山岡 5回78球、4安打、2失点

【セ・リーグ】

巨人 菅野 5回82球、6安打、2失点

DeNA 今永 5回84球、7安打、3失点

阪神 西勇 5回77球、6安打、1失点

広島 大瀬良 6回91球、6安打、3失点

中日 大野 5回94球、11安打、6失点

ヤクルト 石川 4.2回 83球、3安打、2失点

 開幕1週間前の登板だから、本番に疲労を残さないように注意を払うのは当然だが、それでも5回を超えたのは広島の大瀬良大地ただ1人だけだ。

 では、その前回までに長いイニングを投げたのかといえば、オリックスの山岡泰輔が5日の試合で7回を投げたのみ(ヤクルト石川も5回を投げたが、ほぼ変わらないため除外)だった。

 例年からすれば、これは異例である。

 やはり準備期間の短さが開幕投手たちの調整を難しくしていた。

工藤監督が明かす「第2先発」構想

 もちろん、これは開幕第2戦以降の先発ローテーション投手たちにも同じことが言える。そのことも考慮されて、今シーズンは出場選手登録枠が従来の29名から31名に、ベンチ入りも25名から26名へ拡大される。

 この増枠をどのように使用するか、首脳陣の腕の見せ所となる。

 ソフトバンクの工藤監督は昨季12勝で新人王の高橋礼と、今春に自己最速153キロをマークするなど伸び盛りの松本裕樹の2投手を「第2先発」としてベンチ入りさせる構想を明かしている。

「先発投手のイニングや球数を急激に増やすと怪我も怖いし、(中6日の)1週間での回復が見込めない中でどんどん状態が悪くなるのも怖い。僕ら(首脳陣)も開幕が決まったからと言って、急に投げこめとも言えなかった。シーズンに入って、少しずつ上げて、2、3週もすれば通常に戻せるかなと思いますが。

 また、そのイニングをリリーフ投手だけで埋めるのも大変。高橋投手も松本投手も長いイニングを投げることができるし、リズムよく投げてくれるから攻撃のリズムも作りやすくなる。劣勢からの登板でも、逆転のチャンスが広がる」

 第2先発といえば、昨季は日本ハムがオープナーを採用して栗山監督が起用したし、この開幕前にも楽天や阪神で「第2先発導入」の動きがあるとの報道がある。

 先述したように、長いペナントレースを安定して戦うには投手力の充実が必要になる。例年よりも分母が少なくなる今シーズンは、より目の前の試合、1つの勝利にどん欲になるチームが最後に笑えるのかもしれない。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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