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”工藤流”トレで、鷹育成にまた秘密兵器! 伊藤大「今年は上がれる気がする」

田尻耕太郎スポーツライター

昨年はフレッシュ球宴に出場

工藤公康監督はB組のブルペンにも足を運ぶ。若手投手の投球を丁寧に見て回り、時には1人1人に声を掛ける。「お、良くなってるじゃねぇか」。お褒めの言葉に思わず顔を綻ばせたのは伊藤大智郎だ。

2010年育成ドラフト3位で入団した5年目の右投手。背番号「127」からまだ卒業できていない。昨年はウエスタンで14試合に登板し1勝0敗、防御率4.40。決して目立った数字ではないが、フレッシュオールスターにも出場するなど飛躍を感じさせた。右サイドから140キロ超の強いボールを投げ込むのが特長。それでも育成でくすぶるのはコントロールに課題があるためだった。昨季、投球回数14.1回に対して10四死球は確かに多すぎる。これが支配下に上がれない「壁」となっていた。

”工藤流”ゴムチューブトレで制球難克服

その伊藤大が昨秋のキャンプで話題の人となった。工藤監督が視察に訪れた数少ない機会の中で、直接指導を受けた選手だからだ。

新指揮官はブルペンで春キャンプから導入するトレーニング法をコーチと相談していた。ゴムチューブを柱と腰にくくりつける。体に負荷をかけて投球動作を行うことで、軸足の使い方や体重移動などが良くなる効果がある。工藤監督が「30年前からやっていた」というユニークなトレーニング法だ。

そのタイミングで伊藤大は偶然ブルペンに現れた。思わず恐縮したが、工藤監督は伊藤大を呼び寄せると、ゴムチューブを装着させてシャドーピッチングを行わせた。何度か投球動作をした後に、外した状態でもやってみる。すると「体が勝手に前に出る感じがした」。伊藤大にとっては大きな驚きと発見だった。「自分に合っていると思った」。伊藤大はオフも1人でその練習を継続。今、その効果を体で感じている。

悲願の支配下へ、確かな手応え

「今まで軸となる右足が安定せずにコントロールを乱していた。下半身が安定しないことで、ボールを離すポイントがバラバラになっていたからです。ゴムチューブを使って練習すると右足の内転筋あたりに意識が働き、ぐっと我慢したまま体重移動が出来るようになりました。そうすると、何を意識しなくても、リリースポイントは絶対に同じところになるんです。まだ完ぺきではありませんが、コントロールに自信が持てるようになってきました」

大きな自信が、言葉にも力を生む。「今年は支配下に上がれる気がします」。笑顔で堂々宣言してみせた。

「紅白戦でチャンスがあれば。しっかり練習頑張ります」

ホークスには先発ローテ経験者の山田大樹や、12年オールスター出場の千賀滉大、昨年21歳以下の侍ジャパンで主将を務めた牧原大成ら「育成の星」を輩出した例が多くある。5年目の伊藤大智郎。ぜひ覚えておいてほしい投手の1人だ。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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