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旧統一教会の救済法が成立も、実効性への課題は山積み 新たな救済への懸念も法案質疑で明らかになる

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

12月13日に自民、公明、国民民主が提出の旧統一教会の被害者救済法(「特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律案」)が参議院で可決、成立しました。

思い返せば、昨年12月10日に旧統一教会の高額献金などの被害が明らかになり、不当寄附勧誘防止法が成立しましたが、1年ほどが経って、ようやく被害救済への扉が少しだけ開かれたことになります。

いまだ救済への実効性には疑問符がつく

「少しだけ」といったのには理由があります。

同法は、教団の財産状況を監視したり、被害者が相談して問題解決をはかれるように法テラスを充実させる点では評価はできるものの、被害者自身が民事保全の裁判を起こさなければなりません。

昭和55年以降、旧統一教会の問題が40年も放置されたことで、80歳、90歳になった高齢の被害者もいるなか、それが本当にできるのか。また財産目録などを提出させて監視するだけでは、旧統一教会の財産の隠匿・流出を止められるとは思えませんので、昨年の不当寄附勧誘防止法でもそうでしたが、救済への実効性には疑問符がつく形となっています。

「本当に救われるような法律にはなっていない」の指摘


12日の午前中に行われた法務委員会、文教科学委員会連合審査会の法案審議を傍聴した元旧統一教会2世のもるすこさん(仮名)は「国会という場で統一教会に関する議論をしてくださった与野党議員の皆様には感謝しております。ただ内容については、被害の声を上げられず、訴訟を起こすこともできない人たちが、本当に救われるような法律にはなっていません。このようなところをしっかりと修正していって、来年以降さらに統一教会の問題、そして宗教と政治の問題を広く議論していただきたいと思っています」と話します。

一方で、数多くの被害者からの声と願いをもとにした、教団の財産散逸を防ぐための立憲、維新の野党案「包括的財産保全法案」は衆議院で否決されました。真の被害救済への道は遠のいたともいえますが、同法の附則において「宗教法人による財産の処分管理の特例等による被害者救済の状況等を勘案し、具体的に検討すべき課題が生じた場合においては、3年を待たずに信教の自由に十分配慮しつつ、解散命令の請求等に係る対象宗教法人に関する財産保全の在り方を含め検討を行う」が入りました。

この点について、母親が信者時代に1億円以上の献金をして、現在も返金を求めて最高裁で教団と戦い続けている被害者家族の中野容子さん(仮名)は「(財産保全について)施行後の様子を見つつということを(与党側は)言っています。『緊急を要するんだ』ということをずっと(被害者は)訴えてきたはずなのに。今後、教団が財産を散逸させることが起こるはずですが、それをどんなふうにチェックして、どのような保全をかけられるのかが、まったく見えておらず不安を感じます」と話して、見直しを求めています。

新たな懸念の存在が浮上

同委員会のなかで、新たな懸念が立憲民主党の石橋通宏議員から示されました。

「甚大な被害が長年にわたって起こり、旧統一教会は違法不当なやり方で勧誘をして、献金を強いてきた。それによって得られた資産・財産というものは、違法収益・財産と判断すべきだと思います。つまり、それは統一教会の正当な財産ではなくて、被害者に返すべき財産である。解散命令請求を出されたのですから、そうするべきではないかと思いますが、大臣見解をお願いします」

盛山文部科学大臣は「旧統一教会については、長期間にわたり多数の方たちに深刻な影響をもたらしたことは明らかで、その被害者の救済を行うことは重要だと考えております。他方、宗教法人が解散した場合の被害者に対する債務の弁債については、宗教法人法に定める清算手続きに則り(のっとり)行われるべき」と答えます。

「大臣は手続きをおっしゃったけれども、包括的な保全ができなかったら、仮に統一教会へ解散命令が出された時に保有している財産は、どうなるのか。統一教会が自分でこの財産の扱い、引き継ぎが決められてしまったら、統一教会がそのままその財産を自由に使うということにもなりかねません」(石橋議員)

宗教法人法では「解散命令が出た場合の残余財産の手続きは、法令上、当該法人の規則にのっとり、どう帰属するかを決めるとなっている」といいます。

「我々の情報によりますと、統一教会の法人規則では、責任役員会の3分の2以上の決定、もしくは評議委員会の決定、これで選定をした団体に帰属をするというように規定をされていると理解をしております。つまり、役員会のメンバーは全員統一教会の人たちですから、統一教会自らが、どこに誰に(財産を)引き継ぐかを決められてしまう訳です。そんなことを許すんですか。だから、我々はこれだけ多くの被害を出してきた、違法不当な形で得られた財産について、今すぐ保全すべきではないのか、少なくとも解散命令が出された時には適切に保全をして、きちんと被害者に返還すべきものではないか」と提言してきたと石橋議員はいいます。

盛山文部科学大臣も、解散命令が確定した場合の財産の保全の扱いについて「これは宗教法人法に基づいてとなり、その点では石橋先生のご指摘の通りであります」と答弁しています。

解散命令が確定した後の残余財産の扱いについても、今後、議論を深めていかなければならない懸案事項です。

マインドコントロールの言葉の密度の違いを指摘

今回、筆者が注目したのは、繰り返しマインドコントロールという言葉が与野党の議員らから出てきたことです。信者らが教え込まれた心から容易に脱することができないことへの理解を強く感じました。一方で、与野党それぞれが語るマインドコントロールの言葉の深さが、あまりにも違うとも感じています。

この点を、もるすこさんに尋ねると「それを感じましたね。立憲をはじめとする野党議員と、与党議員、自民党、公明党議員のマインドコントロールという言葉に対する理解度の違い。これは被害者とどれだけ接してきたかヒアリングを行ってきたかというのも密度の違いだと思う」と話します。

石橋議員は質疑のなかで「立憲民主党の被害者救済対策本部の事務局長をさせていただいて、1年半、多くの皆さんの声を多くの皆さんの涙ながらの訴えを聞かせてもらい、その上で我々の案(包括的財産保全法案)を提出させていただいた」と話していますが、言葉の密度の違いは歴然としています。


もするこさんは「マインドコントロールは定義されていないと思いますけど、信者たちがそういう心理的な状態に陥っているというのは事実なんですね。だから、これをしっかりと自民党、公明党の議員も、もっと被害者に対してヒアリングを重ねて理解を深めていってほしい。そうすると今までの議論というのが変わってくるのではないか」とも話します。

「自己責任なんですか?」の厳しい指摘も

石橋議員は「弁連(全国霊感商法対策弁護士連絡会)の皆さんはじめ被害者の皆さんが与党法案ではダメだとおっしゃっている。その理由の一つが、違法不当な勧誘行為によってマインドコントロール下に置かれているという、昨年から一緒に議論してきた問題であります。マインドコントロールがいつ解けるのかはわかりません。弁連の皆さんも、例え解散命令が出たとしてもすぐには解けないのではないか。解けたとしてもすぐに民事の保全手続に行けるような状態に戻るかについて、何年もかかるのではないか。民事の手続きができない方々が圧倒的多数だといわれているわけです。民事の手続きの拡充、円滑確保したとして、それができない状態にある方々。解散命令請求が出たとしても、当分の間はできないかもしれない。そういう方々は、言い方は悪いですが、見捨てるのですか。もう救済しないと。自己責任だというふうにおっしゃるのですか」と指摘をします。

これに対して、自民党の山下貴司議員は「自己責任だ、救済しないという思いは全くございません」と強く否定します。

与野党ともの課題との答えも

続けて石橋議員は「今の法律の立て付けでいけば、解散命令が出ました。清算人を決めて極めて短期間、一定期間内に債権者は申し出をしなければなりません。だからその期間内に結局申し出ができない方々は取り残されるんです。その間にマインドコントロールが解けるんですか?その間にマインドコントロールが解けても自ら保全手続に入るような状態にあると、皆さんお考えなんですか?その間に申し出ができない方々は、法的手続きに則って清算手続きに入ってしまえば、もうダメなんですよ。先ほど言ったように、これは不法違法な形で国民から収奪をされて残った財産です。差し押さえましょうよ。そして将来マインドコントロールが解けて、財産を取り戻したいと思われた被害者の方々が救済されるようなスキームを作ろうじゃありませんか。いかがですか」

自民党の柴山昌彦議員は「ご質問に対する答えなんですけれども、そこは今おっしゃったように、与野党ともの課題であります」と答えています。

石橋議員も「長年にわたって国民からの違法不当な献金勧誘活動によって収奪をしてきた。だから解散命令請求を出したんでしょう。そういう団体に対して、違法不当に収奪をされた国民に返すべき、被害者に返すべき財産をしっかり守って、できる限りお返しをしていく。国が責任を持ってその資金を作ろうという話をさせていただいているわけですから、与野党関係ないですよね。共通の問題認識でやろうじゃありませんか」と提案します。

柴山昌彦議員も「それについての立法政策の是非とか、あるいは今後の状況について検討するには当然、必要であれば検討するということはやぶさかではありません」と答えます。被害救済に向けて、少しだけですが希望のみえる質疑応答でした。(一部、質疑内容を省略しています)

附則にこそ被害者の思いがつまっている

午後に行われた法務委員会では、立憲民主党の牧山ひろえ議員から附則決議案が読み上げられて、全会一致で同委員会の決議となりました。不当寄附勧誘防止法の時もそうでしたが、附則にこそ被害者の思いがつまった内容が含まれています。

附則6「旧統一教会問題に起因する親族間の問題、心の悩み、宗教理性を含む子どもが抱える問題等の解決に向け、法テラスを中核とした相談対応、精神的支援、児童虐待や生活困窮問題の解決に向けた支援等を一体的かつ迅速に提供するなどの被害者に寄り添った相談支援体制を構築すること。その際必要な予算を確保するとともに、元信者や宗教2世等の方々、これまで旧統一教会問題の被害者支援を行ってきた有識者等の知見を活用すること」

これから先、今回の法律に関して、被害者、元信者、弁護士などから辛辣な声も多く出てくると思います。しかし良薬は口に苦しです。

被害の声をあげる方々、その救済に携わり、今も旧統一教会の様々な攻撃に身をさらされながらも、戦い続けている弁護士など現場の声にしっかりと耳を傾けて、いかに法律のブラッシュアップをしていくべきか。それが今、問われています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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