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旧統一教会問題 財産保全のない与党案は被害者の泣き寝入りを促しかねない 圧倒的ヒアリング不足を露呈

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

旧統一教会による財産の散逸、隠匿が心配されるなか、金銭的被害の回復が確実に行えるようにするための法案が、自由民主党、公明党、国民民主党と、立憲民主党と日本維新の会から出されて、議論されています。大事なことは被害者の声にしっかりと耳を傾けて、実効的な被害救済ができるかです。

11月29日、司法記者クラブにて、旧統一教会の被害者(1世、2世、親族)有志一同と、宗教2世問題ネットワークが会見を行い、「旧統一教会の財産保全に関する与党案及び野党案の双方を可決するよう求める要望書」を発表して、岸田文雄首相をはじめとした国会議員に提出しています。

12月1日に行われた法務・文部科学・消費者問題連合審査会で、法案の審議が行われて、同要望書を取り上げて、立憲民主党の山井和則議員による答弁や、日本維新の会の青柳仁士議員からの質問もありました。確実に被害者の声は国に届きつつありますが、与党側からは、被害者視点の薄い答弁が続き、大きな危機感を抱いています。

要望書の中身は

要望書では法案における問題点を挙げています。

財産保全に関する法整備については「速やかに教団の財産保全の手段を取らなければ被害者への賠償が行われなくなってしまう」として「自由民主党、公明党、国民民主党の与党法案について、残念ながら被害者救済のために極めて不十分」としています。

要望書を読み上げた旧統一教会の元2世信者の鈴木みらいさん(仮名)は、「2世という立場で、一番大きかったのは親の1億6千万の献金被害です。統一教会が(会見で)664件の信者からの献金請求に対応したと言いましたが、そのうちの1件になります。全額の返金請求を親がしたのですけれども、教会は2割弱の3千万の献金しか返さないと言い、上司に逆らったら不信仰であるという教義(アベルカイン)があるので、親自身もそれに従って合意書にサインしました。合意書があり、親が献金の不当性に気づいたとしても、返金は難しいかもしれませんが、もし裁判を起こしても、結果が出るのは5年ほどかかります。その間に財産保全がされていないと返金されません。私の親のような信者がたくさんいます」と話します。

旧統一教会に解散命令が出された後に、自らが行った献金の不当性に気づく人もいるでしょう。そうした方が返金を求めても、教団に財産がなかった時には、被害者にお金が戻らないことになります。

つまり、財産保全の規定のない与党案では「解散命令後に被害に気づいても、被害者に戻すお金がないので諦めてください」というものになってしまいます。

被害者が声をあげることを阻むような法律には、絶対にさせてはいけません。

民事保全は被害者にとって非常に酷なこと

しかも、与党案では被害者本人に民事保全を起こすようになっていますが、手練手管で、しかも攻撃性のある教団ゆえに、被害者には大きな精神的な負担がかかりますので、手をあげてくれる、勇気ある被害者は少ないと思われます。危険を伴う可能性があるからです。

鈴木みらいさんのケースをみても、全額返金を求めているのに2割弱しかお金を戻していません。筆者は、親が教団の信仰をもっていることにつけこんだ、悪質な対応だと思っています。こうした形で全額返金を阻止するような教団を相手に、個人で民事保全をすることが、いかに大変なのかがわかります。

与党案には、「旧統一教会の悪質性」が欠けているとの指摘

要望書でも、与党案には教団が被害者に対して、どのようなことを行ってきたかの「悪質性」の視点が欠如しているとしています。

会見に参加したA男さんは「奥さんの難病は先祖の因縁が原因だ」といわれて、教団名を隠されてビデオセンター(八王子カルチャーセンター)に通わされ、2008年から5年間にわたって、ご夫婦で約1000万円の献金をしています。その時A男さんは、「『ここは統一教会ですか』と何度も確認しましたけれども、『いいえ、八王子カルチャーセンターです』との一点張りでした」と話します。

A男さんは教団名を隠され続けられて500万ほどの献金をしています。その後、統一教会だと知らされて「やっぱり騙された」と思ったそうですが、すでに先祖の因縁が奥さんの病気の原因と信じこまされているために、すぐに教団を抜け出せず、1000万円もの被害になっています。

被害者家族である中野容子さん(仮名)の母親は、信者時代に1億円を超える金額を献金しています。

「母親は2004年に入信していますが、その時すでに75歳の後期高齢者でした。私が気づいたのが2015年で、その時には資産のほとんどを献金してなくなっていました。『もう嫌だ』と母が吐き出すように言ったことから、母を助けなければと思い、訴訟をしてきましたが、母親が事前に教団側に念書を書かされたことで、念書の有効性を認められてしまい。地裁、高裁と敗訴となり、最高裁に上告になりました。結論は出ていません」

お金をとれるだけとり、しかも事前に返金されないように念書まで書かせている。どれだけ、教団は被害者を追いやる行為をし続けるのか、と思います。

精神的被害にも目を向けてほしい

望月さん(元信者の女性)は、1997年から2年間ほど、旧統一教会の信者でした。

「夫の力を得て、統一教会から離れることができました。訴えたいのは、統一教会が、正体を隠した違法伝道をしてきたということです。約1年間の教化過程を経て、いつの間にか、私は訪問や街頭で伝道をするようになっていました。脱会して20年になりますが、今でも教え込まれた統一教会の思想からの罪悪感、価値観、人生観を、ふとした時に思い出し、不安を感じることがあり、マインドコントロールの恐ろしさを感じています。統一教会の被害には、金銭的被害以外にも精神的操作により生じた人権侵害があり、これも大きな被害であることを知ってほしいと思います。マインドコントロールにより、組織への絶対服従、絶対従順、絶対信仰というのを持たされます。これを教え込む手法は、とても悪質だと考えております。先祖の因縁などで恐怖心を煽り、やめたくてもやめられない精神状態にすることは、まさに人権侵害をされ、信教の自由を侵されていることにならないでしょうか」と、精神的被害の大きさを強く訴えます。

石原さん(元信者の女性)は、94年から約4年間、旧統一教会の信者でした。

「信教の自由があると(旧統一教会は)言ってますけれども、信教の自由には『やめる自由』『信じない自由』もあることを、私は教団をやめるまで知りませんでした。4年の間には、世界平和女性連合の一員として韓国やアメリカに行って、日韓の方たちと姉妹結縁を結んだこともありました。自分が活動すればするほど、家庭が崩壊していくのが目に見えてわかっていましたので、おかしい団体と思いながらも、やめることができませんでした。やはり先祖霊界の恐怖を深く植え付けられていたからだと思います」

与党案では、民事保全を被害者個々人の裁判に任せようとしていますが、いかに元信者である被害者らが、教団から大きな傷や影響を心に受けていて、それを行うのが容易でないことがわかります。

圧倒的な被害者へのヒアリング不足を露呈

筆者は11月24日、12月1日の与野党案の質疑の傍聴をしました。しかしながら、与党側の答弁には、被害者視点が欠けているものばかりでした。「被害者に話を聞きました」と話しますが、元信者の目線でいえば、被害者へのヒアリングが圧倒的に不足していることが、明らかでした。話せば、話すほど、それを露呈する結果につながっていました。

前出の鈴木みらいさんも「被害者へのヒアリングの回数についても、野党はこれまで延べ100人に70回以上にわたりヒアリングを行ってきて、与党と野党には大きな差が生まれています」と話しています。

元信者や被害者はしっかりと、その視点をもって、法案の行方をみています。

被害者の泣き寝入りを促すような法律であってはならない

2009年以降に、念書や合意書を書かされた方は多いと思いますので、そうした方々がマインドコントロールが解けた後に、裁判を起こそうとするかもしれません。

その時にお金がなければ、返金を諦めざるをえず、被害の声さえあがらなくなるでしょう。被害者を泣き寝入りさせるような法律であってはなりません。

財産保全は、被害者が声をあげて救われ続けるためにも絶対に必要となるものです。

会見に集った被害者らは「与党、野党の法案のどちらも、被害者救済を考えてくださったもの」として、与野党、双方の法律が成立するように要望しています。

「被害者を救いたい」その思いは同じなはずです。一人でも多くの被害者に返金を促して、被害の声をあげることを止めないような、被害者視点の実効性のある法律になるようにと願いながら、法案の行方を見守っています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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