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財産保全法案は旧統一教会被害者の声を基に出てきたもの 現状の与党案ではその声を葬ることになりかねない

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

11月24日、文化庁から解散命令請求を受けた旧統一教会による財産の散逸、流出の懸念があり、被害救済がはかれない恐れがあることから、自民、公明、国民民主からは「日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律案」、立憲と維新の会からは「宗教法人の財産の保全に関する特別措置法案」が提出されて、法案の審議が始まり、激しい議論がなされました。

「与党の案だけでは、被害救済は不十分」弁護士の見解

国会を傍聴した、母親が信者時代に1億円以上の献金をして、現在、返金裁判を起こしている被害者家族の中野容子さん(仮名)、全国統一教会被害対策弁護団の阿部克臣弁護士は「与野党で協議していただいて、どちらの法案も成立させてほしい」と話します。

しかしながら、阿部弁護士は「与党の案だけでは被害救済は不十分」と指摘します。筆者も同意見です。現行の与党案では、財産保全に踏み込んでおらず、教団が簡単に財産を流出させることができてしまうからです。

その点を、立憲民主党の長妻昭議員は指摘します。

「弁連(全国霊感商法対策弁護士連絡会)が作った資料にありますが、オウム真理教は1995年6月30日に東京地裁に解散命令請求が出た夏に、オウム真理教名義の主な不動産、物件などを関連会社、信者名義に移転しています。その後、(同年)12月19日に東京高裁での解散命令で確定されましたが、その間になされたわけです。現時点でも、多くの被害者へお金が未払いになっている」と過去の大きな失敗をあげたうえで「与党案では、不動産を売る場合は、1ヶ月前に所轄庁に連絡して、それを(同庁の)ホームページに載せる。第三者に(不動産を)売却する報告を受けた。あるいは信者名義に、その不動産を変えますよ。そういう報告を受けたら、何らかの措置はできるんですか」と質問します。

教団が財産を売っても「ただ指をくわえて見ているだけ」の指摘

それについて、与党の議員は「公告について、宗教法人法では宗教法人の裁量にある程度委ねられております。それでは幅広い全国に広がる被害者に周知がいかない。だからこそ、解散命令の請求の対象となった宗教法人が国に対して通知をする。それに基づいて国は幅広く全国的に公告をする。被害者が知ることになり、法テラス業務の拡充によって、民事訴訟あるいは民事保全の準備が促進されると思いますから、被害救済ができる。実効性がある」と述べます。

長妻議員は「ただ指をくわえて見ているだけじゃないですか。(旧統一教会には)相当な不動産があるといわれてます。報告が来て『それを第三者に売りますよ』というのを所轄庁への報告を1ヶ月前にすると、ホームページに載せるとか周知するんでしょう。それでは止められないじゃないですか。止めないことで、逆にアリバイにもなる。報告したから売りますとなると、止められないわけですよね」

与党議員からは「民事保全ができる。我々はその方法を取っているわけです。裁判所が必要な措置を取るということが、立憲・維新案では具体的にどのような保全措置を取るか全く規定されてないんです。保全に反した場合の効果が全く記載されていない。より確実な民事保全を取るべきだと考えています」と、売ることが止められない点については言及せずに答えます。

旧統一教会の財産流出は、現状の与党案では防げない

同議員は「苦しいですね。自民党の皆さんもわかると思うんですよ。1ヶ月前に不動産を売る前に報告しなきゃいけない。この不動産を第三者に売りますと報告があったとしても、何もできない。もう一つ財産目録というのを報告する。預金も含めて。これが今まで1年に1回だったんです。それを3ヶ月に1回にする。頻度を高くして閲覧も所轄庁などでできるようにする。でも報告をうけた時に、預金が激減してたとしても、止められないわけですよ」と話します。

個別に民事保全をして、不動産を差し押さえるまでには時間がかかります。その間に、教団の不動産は売られていき、預金がほぼゼロになっても、与党法案では被害者はただ見ているしかありません。これでは被害救済などできるはずがありません。

それどころか、国のお墨付きを与えて、不動産を売ることにもなる。これでは被害者救済どころか、逆に、嘘の先祖の因縁話などの不法行為で得た統一教会の財産を守らせることにつながりかねない、危うい内容ともいえます。

野党案にも、与党からの厳しい指摘

ゆえに包括的な財産保全の特別措置法が必要なのですが、立憲・維新案に対しての与党からの厳しい指摘もありました。

自民党の柴山昌彦議員は「包括保全制度は前例がなく、実効性に疑問があり、憲法上の問題も懸念されることから、今回は採用しなかった」と述べており、公明党の國重徹議員は「立憲新案は、裁判所が必要な財産保全処分の内容を考えてみると、明示することができると定めておりますが、どのような場合に何が必要な財産保全処分として可能なのか、明文上規定されておりません」などを指摘しています。

これに対して、阿部弁護士は「立憲、維新の案も私としては憲法に反しないものと考えておりますが、与党の方で憲法への抵触の疑いを指摘するのであれば、また与党の先生から実効性の観点で、具体的にどういう処分ができるのか条文に書かれていないとのご指摘がありましたが、それであれば、野党と是非協議をしていただいて、具体的に条文にできる行為を書き込めばいいだけだと思うんです。できないからといって、それを捨て去るということではなく、今の立憲・維新法案を活かして、それを憲法により適合する、かつ実効性のあるような形で同時に(与野党案を)成立させることが大事ではないかと思います」と話します。

与党法案に欠けているのは、被害がなぜ甚大になったのかの視点

筆者には、与党の法案が「法テラスの相談窓口を充実させるから、被害者個人が裁判を起こして民事保全をしなさい」と、被害者にすべてを丸投げしているように感じてなりません。

その理由は、被害者の側をしっかりと見ていないからだと思います。

財産保全の法案について、立憲民主党の山井和則議員は「信教の自由にも十分に配慮して、合憲的なものとして制度設計したもの」としたうえで「私たちは1年2ヶ月の間三十数人、ヒアリングや会議は70回、延べ100人もの(被害者の)方々の声を聞きながら、個別の民事保全の裁判はできないという強い、そして切なる思いで、財産保全の法整備をしてほしいという声を踏まえて、この法案を作らせていただきました」といいます。

この財産保全の法案は、被害者の声をもとに出てきたものです。それを一顧だにしないことは、被害者の声を葬り去ることにつながります。

なぜこの被害が甚大になったのか。その理由に目をむけてほしい

民事保全のために、被害者に裁判の丸投げをするような法案だけは、やめてほしいと思います。なぜなら、被害者の多くが、高齢になっているからです。

返金の裁判で、最高裁に上告している被害者家族の中野容子さんのお母さんは、すでに亡くなっていますが、裁判を起こした時は母親の年齢は87歳でした。

11月15日に、以前に取り交わした合意書があるとして、約1億8000万円の返金の訴えを退けた1審の判決を取り消して、地裁に差し戻した東京高等の判決がありましたが、この被害女性も80代です。

全国統一教会被害対策弁護団による集団交渉に参加して、ヒアリングに参加された方のなかにも、70代、80代の方がいます。その方からは「すでに90歳になって声をあげられない人もいる」との話も聞いています。

被害者が高齢になっている理由

なぜ被害者が高齢になっているのか、その理由がわかるでしょうか。

それは40年という長きにわたって、旧統一教会による霊感商法や高額献金を防ぐ手立てを国が何も講じてこなかったらではないでしょうか。それにもかかわらず、今なおも、高齢になった被害者に裁判を起こすようにして、負担をさらに強いようとしている。

ヒアリングに参加してくださる被害者の多くは元信者ですので、筆者と同じ立場です。それゆえに、できるだけ、取材の帰り道に話を聞きながら、一緒に国会を後にするようにしています。

その足取りはおぼつかなく、杖をつきながらゆっくりです。時に、ある高齢の元信者が国会の階段で転びそうになり、手を貸したこともありました。そうした方々に、どうして攻撃性のある旧統一教会に対して「裁判を個人個人で起こしてほしい」ということが、平然といえるのでしょうか。

山井議員は「被害者の方々は身ぐるみ剥がれて家庭も崩壊し、メンタルがボロボロになった方もおられます。そういう状態ですから、そのような方々に、個別に財産保全をしろと言ってもこれはほぼ不可能なんです」と話すように、被害が放置されてきたことで難しい状況なのです。

被害者も高齢化して、個別の裁判が難しい現状をしっかりと見据えたうえでの法律こそが、必要なのではないでしょうか。

国民はしっかりとこの実情を見ているように思います。

毎日新聞が11月18、19日に行った「教団が保有する財産を勝手に処分できないようにする法整備への賛否」に関する世論調査では、旧統一教会の財産保全についての「賛成」が81%となっているとのことでした。この報道を目にした時に、そう思いました。こうした声に耳を傾ける必要があります。

与野党とも被害者を救いたい気持ちは同じ

ただし、与野党とも見ているところは、被害者の救済で同じだと思います。

前出の國重議員は「被害者救済のためにいい法律を作っていこうというのは共通だと思うんです。私も真剣であるから、限られた時間の中で、できるだけ問いに対して真正面から答えていただきたい。しっかりと議論をしていくのが大事だと思っています」と話します。

柴山議員も自民党としての立場として「(法案)提案者としては、野党案には憲法上の問題があるほか実効性にも疑念があるというふうに認識してはおりますけれども、ぜひ野党においても我々の法案についても真摯に検討していただきたいですし、ご指摘のように、被害者の救済という目的は与野党問わず協議をされていることは理解をしておりますので、もっと詳しく野党案についてのご説明を伺う機会も設けたいと思っております。お声がけをいただければ我が方も法案のご説明をさせていただく」としています。

他の議員からも「被害の救済をするためという思いは、共通している」という声も多くありました。

長年、霊感商法や高額献金への規制もなく、放置されてきた被害者を救いたい思いは同じはずです。与野党とも、必死な思いで出してくれた大事な被害救済の法案だと思います。ぜひとも、双方良きところ、足りないところを埋めていき、しっかりした議論のうえに、成立させてもらいたいと思っています。しかし残された時はあまりありません。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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