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旧統一教会の思惑通りに進んでしまうのか 現行法での対応の見解に懸念 被害救済の道が絶たれる恐れも

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

10月27日に予算委員会の国会質疑を傍聴した後に、司法記者クラブでの全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の会見に足を運び、旧統一教会が一部議員に送っていたとされる文書を入手しながら、このままでは旧統一教会の思惑通りに物事が進み、岸田文雄首相が強く訴える「自民党の旧統一教会との関係断絶」の徹底が、掛け声だけで終わってしまうのではないかという懸念を抱きました。

現行法での財産保全は、旧統一教会の思惑と合致している

10月13日、文化庁が裁判所に申し立てた旧統一教会への解散命令請求が受理されましたが、解散命令が確定するまでは年単位の時間がかかると考えられており、その間に旧統一教会が保持する資産を隠匿したり、海外に移したりする恐れがあります。

立憲民主党からは、財産保全の特別措置法案が提出されて、日本維新の会は、宗教法人法の改正案に財産保全を盛り込んで、被害救済を図ろうとしています。

自民党、公明党は、プロジェクトチーム(PT)を立ち上げての議論がなされていますが、現行法での財産保全に対応するとの見解もあり、もしそうなれば、充分な被害者救済ができない恐れがあります。何より、これは旧統一教会の思惑と合致しており、とても危険な思いを抱いています。

「憲法違反であるために、議論を国会で進めないように」との文書

10月27日の予算委員会の岸田文雄首相の答弁で、旧統一教会が財産保全の法案を阻止しようと文書を送っていることが明らかになりました。

「違憲違法な立法措置(財産保全に関する特別措置法)等のための法案がなされないように」という文書が一部の自民党議員に送られていたことへの、立憲民主党の西村智奈美議員からの質問に対して、岸田首相は、自身の事務所にもファックスで一方的にその文書が送り付けられていたことを話します。

しかも「財産保全はやらなくてもいいとか、憲法上の財産権に反するとか、与党から出てくる意見は、ここに書かれているものと内容が非常に似通っているんですよ。やっぱり影響を受けているんじゃないか。そういうふうに思わざるを得ません」と西村議員は指摘します。

議員らに送られた文書には、財産保全に関する立法は「憲法違反であるために、このような議論を国会で進めないように改めてお願い申し上げます」と書かれています。憲法違反を盾にして自由な議論すら行わせないようにするところに、教団の考え方や本質がみえる思いです。もし、これに同意するような議員が自民党にいるとすれば、実質的な旧統一教会との関係断絶はできていないことになります。

国会でも取り上げられた、旧統一教会が送った文書の一部・筆者撮影・修正
国会でも取り上げられた、旧統一教会が送った文書の一部・筆者撮影・修正

現行法で対応できないから、財産保全の特別措置法を求めている 

10月27日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が司法記者クラブで会見を行い、事務局長の川井康雄事務局長は声明を通じて「速やかに財産保全の特別措置法を成立させるべき」と訴えます。

阿部克臣弁護士は、岸田首相の「政府としては、外為法をはじめあらゆる法律(現行法)を駆使しながら財産の状況も含めて、注視をしている状況であります。各党において財産保全の必要性があるのではないか議論が始まっており、状況をしっかりと見ていくことが大事だ」との話を引用しながら、「これでは被害者救済がはかれない懸念が大きい」と指摘します。

「現行法で対応できないから、財産保全の特別措置法での法整備を求めているのであって、現行法を駆使して十分な被害者救済がはかれるとは到底思えません。各党の議論を注視するのではなくて、与党政府でもどのような法律が必要かの議論を始めていただきたい」

そして与党議員からの「財産権の法律を作ると、憲法の保障する財産権や信教の自由との関係で違憲となる」との意見が出ていることに触れます。

「財産権や信教の自由というのも当然のことながら、他者の人権との関係で制約を受ける権利です。財産権は、もともとそこまで神聖不可侵な権利ではありません。現代の福祉国家の社会のもとでは一定の社会的な制約を受ける権利ということで理解されているもので、財産権があるからといって、立法ができないというものではありません」(阿部弁護士)

さらに「危惧しているのは、海外への対応の送金や、国内の不動産の移転です。そういう現状変更的なものを規制するべきことで話をしているので、現在の信者の信仰活動を制約するものとはならないと思います」と続けます。

川井弁護士も「憲法違反になるかどうかは、その制約の程度による」として「保全される財産の上限を考えるなど、工夫の余地は幾らでもあり、財産権と信教の自由との調整をはかりながら、適切に財産を保全して被害者救済を図っていくことは十分に可能」としています。

現行法の民事保全の対応は、教団の思惑と一致することに

木村壮弁護士は「与党は、現行法をベースに考えているようですが、やはり民事保全法だけでは、被害救済は困難だといえます。今、全国統一教会被害対策弁護団で124名の被害者が集団交渉(総額約39億5600万円)の申し入れをしていますが、この方々が民事保全の手続きを使うとなると、それぞれの裁判官に対して申請をすることになるわけです。そして、統一教会の不動産の仮差し押さえるとなると、不動産の5%から20%位の保証金を積むことになります。しかも個別にです。非常に手間になって、実効的な財産の保全ができません。集団的な被害を生じさせている以上、その実態を踏まえた対応、手続きが必要だと考えます」といいます。

すでに教団にお金をとられて被害者には保証金など積むことができない状況の方が多くいます。民事保全法を使うことの難しさを、教団側は十分にわかってのことでしょう。

文書の中で「財産保全は民事保全による手続きで十分である」として「仮に当該宗教法人に対して『被害』を訴える者が現存するのだとすれば、それらの者は、当該宗教法人に対して不法行為等に基づく損害賠償訴訟を行い、民事保全法に基づく財産保全命令を申立てれば足りるのであって、それ以外の新たな制度の必要性はない」としています。

まったく被害者目線に、たっていないものといえます。

文化庁が解散命令請求で指摘したように、旧統一教会は財産利得を目的として、献金などを集めてきました。ゆえに豊富な資金力と多数の信者を擁しています。そうした教団に対して、被害者一人一人が財産保全の戦いをしなければならないのは、あまりにも酷というものです。

被害者は、組織対個人の圧倒的に不利な戦いを強いられる

しかも、彼らは被害者など教団に反対する者をサタン(悪魔)とみて、攻撃的な行動をすることで知られており、この状況下で勇気を持って個別に民事保全することが、いかに被害者にとってハードルの高いことなのかを思わざるを得ません。

このまま現行法での対応となれば、被害者はさらに苦しむことになり、救済の道は大きく阻まれることになりかねません。

潜在的な被害はまだ多くいる

山口広弁護士は「先日も、統一教会に20年、30年間、関わってきたご夫妻が、相談にみえました」しかも「『信者仲間にも同じように被害回復をしたいという人がいるけど、連れてきていいですか』と聞かれまして『どうぞ』と言いました」と話します。解散命令請求を受けて後の被害相談は、今も寄せられています。

「現役信者も、潜在的な被害者だと思っています。自分の頭で考えて判断してはいけないと言われています。『お金を取り戻そうかな』と考えること自体が、サタンの働いていることという罪意識を植え付けられていますから、自分自身の心を取り戻して被害回復するには時間がかかるんです。こうした被害者が(教団の)資産隠しによって救済されないことになる。潜在的な被害者は今の数十倍と見てもおかしくないわけですよ」(山口弁護士)

全国弁連は声明のなかで、文化庁の調査により、旧統一教会による全国で「相当甚大」な規模での被害が確認されており、解散命令請求が行われた以上は「もはや被害者救済のための財産保全も、基本的には個々の被害者の自助努力に委ねられるべきものではない。国として正面から法整備をして対応すべきもの」としています。

旧統一教会の術中にはまったような、現行法の活用での決着となるのか

多くの消費者被害では、組織だった悪質業者が、高齢者などの個人を食い物にしてたくさんのお金を取ります。悪質業者ほど返金交渉をしても、それに真摯に応じないものです。他の悪質商法をみても、被害回復は巨大な組織を相手にした時に、個々の人の力だけでは、太刀打ちできないものなのです。

旧統一教会は過去に多くの国民の知らないところで、日本の政治家に影響を与えてきた団体です。そして今回も、一部の議員らに陰でファックスで文書を送り、自分たちの思惑通りに進めようとしていたことが明らかになりました。

このまま旧統一教会の術中にはまったような、現行法の活用での財産保全の決着になってしまうのでしょうか。日本という国は、こうした教団の思惑に対してもう抗(あらが)うことはできないのでしょうか。

国が今後、金銭的、精神的苦しみを抱える被害者たちの心身を軽減させる道を示してくれるかどうか。旧統一教会の問題を真剣に考える多くの国民が、財産保全の議論の行方を見守っています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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