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なぜ、旧統一教会の解散命令請求とともに、財産保全も必要なのか。弁護士による見解

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

10月2日、立憲民主党を中心にした国対ヒアリングが開かれました。

「なぜ宗教法人法の改正ではなくて、特別措置法が必要なのか」について、弁護士の見解が話されました。

冒頭で、立憲民主党の長妻昭議員は「今月の12日に、宗教法人審議会が開かれての議論があると聞いております。いよいよ解散命令請求が近づいてまいりまして、財産が散逸、海外に流れたり、どこかに消えたりしないような対応が必要だと政府にも申し上げておりますけれども、なかなか案が出てきていません。私どもとしても、法的な措置が必要ではないかということで、議員立法の提出を、この臨時国会で準備をしているところでございます。宗教法人法の改正よりも、むしろ特別措置法の方が実効性があるかと思います。特別措置法について検討しているところで、きちっとお金が戻る対応を国をあげて検討する時期にきていると思います」と、財産保全の特別措置法の提出方針を話します。

4日に、日本維新の会と国民民主党が共同での宗教法人法改正案のなかに、被害者救済のための財産保全の新設をすることも検討しているという報道もありました。

被害救済のために必要な財産保全の流れは、できつつあるように思います。今回のヒアリングのなかでも、この件に関する話がありました。

解散命令が出された後に、必要になるのが財産保全

9月30日に「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)が行われ、まず会見での声明について阿部克臣弁護士から話がありました。

「今回の文化庁による旧統一教会の解散命令請求の報道がありましたので、それを前提に、全国弁連で重要と考えること3点について会見で声明を出しました」

1点目は旧統一教会に対してです。

「旧統一教会には、きちんと被害者に謝罪をして賠償して下さいということです。不祥事を起こした企業であれば、当然そのような対応を取るわけですが、旧統一教会においてはそうした対応をとっていない。むしろ被害の声をあげるものに対して、それを抑えこむ、攻撃するような対応をとっていますので、謝罪と賠償を求めています」

2点目は「裁判所における(解散命令請求事件の)迅速な審理です。解散命令(までの時間)が裁判所で長くかかってしまうと、それだけ被害が拡大しうることになります。また財産隠しの時間的猶予も与えることになる。できるだけ速やかにやって頂きたい」

3点目は、被害者の救済にもつながる財産保全の特別措置法の制定の必要性についてです。

「すでに全国弁連では『解散命令請求が出された後に、必要になるのが財産保全』との声明を出しています。解散命令請求をしてから、東京高裁で決定が出て確定になりますが、裁判所から選任された清算人に財産の管理権が移ることになりますので、教団は勝手に財産の処分ができなくなる。東京高裁で決定が出るまでは、宗教法人法には保全の規定がない。会社法などには解散命令とセットで保全処分の規定があるのに、宗教法人法にはそれがないので、急いで法律を作る必要がある」と訴えます。

なぜ宗教法人法の改正ではなくて、特別措置法が必要なのか

同弁護士は「なぜ宗教法人法の改正ではなくて、特別措置法なのか」について説明をします。

「宗教法人法の改正になりますと、すべての宗教法人に及ぶ可能性が出てくるので、法律改正は容易ではないと考えられます。数年単位の議論が必要かもしれません。1995年の宗教法人法の改正の時も財産保全の話は出ましたが、実現しなかったと聞いています。旧統一教会の解散命令請求に関して、今すぐに保全の規定が必要だと考えておりますので、特別措置法として新しい法律を作って頂くことが適切と考えている」といいます。

適用要件をきちっと限定すること

多くの宗教界からも理解をもらうためにも「他の健全な宗教法人への適用を防ぐための適用要件をきちっと限定すること」をあげます。

「今、我々で考えているのは三つありまして、一つ目は過去に不法行為の請求を認めた確定判決が多数あること。二つ目が海外への多額の送金を行ってきた。三つ目が質問権行使の対象にされているという要件で絞られてくるのではないか」と考えております。

さらに「実効性ある規定にするため」の法律を作るように求めています。

「せっかく法律ができても、裁判所が認めないというものでは、むしろ解散命令請求に悪影響を及ぼしてしまうことになる。裁判所がきちっと認めてくれて、保全してもらえる法律を作って頂く必要がある」としており、そのために「要件を必要以上に加重しない」こともあげています。

「個々の債権者が損害賠償請求権を持つという民事保全法の法律があるのですけれども、そのような証明を求められることになりますと、ハードルが途端にあがることになりますし、保全できる範囲も限られたものになってしまいます。さらに現在、旧統一教会の財産隠しを行っているという証明を被害者側で求められると、それはほとんど不可能になります。海外送金を行っていたと、過去の裁判資料には出ているところもありますが、それを今も行っているかを被害者の側で証明を求められたらそれはできません」(阿部弁護士)

また「保全の処分の内容及び、範囲を適切に設定してほしい」ということです。

「一つ一つ列挙してその行為をしてはならないとしますと、必ず、旧統一教会は抜け道を探して送金をしたりしますから、実効性あるものになりえないと考えます。我々としては、すでに会社法や一般社団法人法にあるような、管理人による管理命令を規定するというのが、適切かなと考えています」(同弁護士)

文化庁は現状では、民事保全の手続きのスタンス

同党の山井和則議員から「解散命令の現状について、財産保全のための法整備として、文化庁として、検討しているのか否か」との質問がありました。

文化庁からは「(財産)保全につきましては申し上げることは差し控えたいと思いますが、現在の我々のスタンスとしましては、民事保全という手続きがあります。我々は現行法で民事保全を使って債権を回収できるようにして頂くとともに、我々は現行法における解散命令請求について、全力で取り組んでおりまして、(解散命令請求の)最終の判断に向けて努力をしているところでございます」との話がありました。

東京裁判所のHPでは、民事保全手続について「保全事件とは、民事訴訟の本案の権利(貸金返還請求権など)の実現を保全するために行う仮差押えや仮処分の手続のことをいいます。例えば、仮差押命令の申立ては、裁判を起こす前に、相手方の不動産や預金などの財産を前もって仮に差し押さえ、将来の回収を容易にする手続です」としています。

民事保全を行うことの難しさも

しかし、阿部弁護士は民事保全を行うことの難しさをあげます。

「現行法でも民事保全法という法律がありまして、民事保全法という個別の債権者が裁判所の決定を受けて、個別に財産を差し押さえるというものになります。実際にそういうやり方も理屈上できなくはありません。現実としてはハードルが極めて高い」

例として、旧統一教会の本部教会の不動産価値が仮に10億ほどだったとした場合をあげます。

「もし民事保全法における仮差押えをしようとすると、担保金を被害者側でいったん、積まなければならない。通常の基準は2割という話になりますので、そうなると2億円を被害者が集めて裁判所に預けなければならないので、現実的に非常に難しいところがある。また、被害者の側で損害賠償請求権を個別に立証する必要がある。それに(教団による)財産隠しによる保全の必要性があるとしても、旧統一教会側で財産隠しの恐れがあるということを(こちら側で)証明しなければなりません」(阿部弁護士)

現在、全国弁護団で受任しているものは約40億円だといいます。

「潜在的な被害者はもっと多くいらっしゃって、 現在の信者の方も数年後に脱会して被害を訴えてくる可能性がある。潜在的な被害は相当あるので、やはり教団の資産そのものを差し押さえておく必要がある。そうしないと被害者は救済されないことになります。民事保全法という個別の債権者の手続きで対応するのは、適切ではないし、それで対応しうるものではない」としています。

一連の国対ヒアリングの最後に文化庁からは「我々も全国弁連の先生方と連携をさせて頂いて、本当に多くの方々の声を聞いています。被害者の救済は本当に重要なことであります。今後も、我々としてできることは何かを考えていきたい」と話します。

解散命令請求の行く先とともに、被害者救済のための財産保全の立法がどのような形でできるのか非常に注目されています。

この他にも、元統一教会2世、被害者家族からのお話もありましたが、機会を改めて記事に致します。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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