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「お前殺す」の誹謗中傷の電話もかかる 旧統一教会問題の最前線で戦う被害者たち

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

6月21日、立憲民主党を中心とする第48回「統一教会」国対ヒアリングが開かれました。まさに今、旧統一教会問題に対して最前線で戦っておられる、橋田達夫さん、鈴木みらいさん(仮名)、中野容子(仮名)からさんから深刻な状況が話されました。

「お前殺す」という電話が4回かかる

橋田達夫さんの元妻は旧統一教会に入信して献金をするなどして、その額は1億円にも上っています。橋田さんはその後、離婚しましたが、元妻と暮らしていた30代の息子さんが自ら命を絶ってしまうという大変つらい経験をされています。

橋田さんは「家庭を崩壊させ、財産を奪い、人の命まで奪ってひどいことをしておきながら、誰かわからないけれど『お前殺す』という電話が4回入ってきました。この電話を受けた時、心にグサッときました。しかし負けません」と気丈に話します。

「統一教会は、被害を訴えても無視をする。その繰り返しでつらい毎日でした。いつも教会のこと、(亡くなった)長男のことを考えます。『お前殺す』と言われた時に、返事をしようとしても、自分たちの言いたいことだけを言って、相手は電話を切る。誹謗中傷をしている人が誰かというのを見つけるのは難しいかもしれないけれど、戦っていかなければならない。文化庁には解散請求命令に向けて頑張ってほしい」と話します。

命がけで声をあげる戦い 警察庁も適切な対応の意向

立憲民主党の山井和則議員は、橋田さんの言葉を受けて「誹謗中傷ですから、相手が名乗ってくるわけではありません。特定の団体、個人がやっているのか、誰からのものであるはわかりませんが、被害を訴えている方々は、様々な誹謗中傷を受けて苦しんで、命がけで声をあげて下さっている状況です」と話します。

この状況を踏まえて、警察庁の担当者は「個別事案については、詳しくお話しできませんが、橋田さんとは連絡をとっていますので、橋田さんの意向に沿った適切な対応を行っていきたい」ということです。

現状で橋田さんに対して殺害まで口にするのは、旧統一教会に関係、賛同した人以外には考えられない状況ですが、はっきりしたことはいえず真相は藪のなかです。しかし被害を口にする方が、身に危険が及ぶような事態にはなってはなりません。被害が起こる前に、早急に捜査を行い犯人の特定を願うところです。

信者である親が高額献金をして、老後破綻とならないために

旧統一教会の元2世の鈴木みらいさんの親は、2002年に1億6千万円もの献金をして、22年秋に全額返金を請求したものの、2割弱のお金しか戻ってきていません。

たいがい教団からお金を戻してもらっても、親が信者である場合、それを再び献金に回すことが多くあります。鈴木さんの親は「娘より信仰をとる」と言い放ったことから、絶縁状態になっているとはいえ、親の老後が心配なことから、鈴木さんは「不当寄附勧誘防止法が完全に施行されるタイミングで、阿部克臣弁護士を通じて、通知書を送って頂きました。親が高額献金して破綻すれば、旧統一教会が配慮義務に違反することが伝わりました」と話します。

どういう観点から旧統一教会に「通知書」を送ったのか?

阿部弁護士からは、代理人として送った通知書についての説明がありました。

「これには大きな意味が含まれています。昨年成立した不当寄附勧誘防止法のなかに配慮義務が設けられました。配慮義務違反のなかに『家族の生活維持を困難にするような寄付の勧誘を行ってはならない』というものがあります」

4月3日、文化庁から宗教法人に出した、不当寄付勧誘防止法の施行のなかで、第3条の配慮義務違反の解釈について次のように示されています。

「法人等が、多額の寄付を行う個人が家族の同意を得ずに寄付しており、寄付の金額が家族の生活の維持を困難にする額であったにもかかわらず、当該個人からの寄付をそのまま受け入れた」

この点について阿部弁護士は「積極的に寄付の勧誘をした場合だけではなくて、家族の生活の維持が困難になりうることがわかっているにもかかわらず、そのまま受け入れたということも、文化庁の解釈として配慮義務違反になりうるということが示されております」

旧統一教会の信者のケースでは、お金が戻ってきてもすぐに献金をしてしまうことがよくあるとして「放っておけば、それが寄付に回ることは明らかですので、そうなった場合、親の老後を子供である鈴木さんがみるということになってしまいます。鈴木さんの親に戻ってきたお金をどう寄付させないかが、大事になります。このまま教団が黙ってこのお金を受ければ、配慮義務違反となり、行政措置の対象になり、解散命令の根拠となります」と続けます。

通知書を送ったあとの反応はどうだったのか?

鈴木さんによると「親は教会から『もう大金(の献金)は受け取れない』と言われたそうです。この通知書のおかげだと思います。統一教会だけでなく、関係省庁(消費庁、文化庁宗務課長)にも送付して頂いたので、献金しづらくなったと思います。もしも通帳履歴などを調べて、今後、高額献金をしていたら、献金を受け取った旧統一教会は配慮義務違反に違反したと訴えることができます」

今、信者である親の老後を心配している宗教2世に対して、配慮義務違反の可能性の通知書を送ることで「親である1世の老後破綻を阻止できるきっかけになれば」と鈴木さんは話します。

昨年、成立した不当寄附勧誘防止法の運用への光が見える話でした。

しかし教団はその解釈をかいくぐることも考えられますので、今後も厳しい目をもって、返金された方のお金の行方を見続ける必要があります。

信者である母親が念書にサインして敗訴、最高裁に上告中

中野容子(仮名)さんの母親は、数千万円被害を受けて、2016年から所属教会に直接交渉しましたがそれがうまくいかず、2017年に東京地裁に提訴しましたが敗訴。高裁に控訴しても負けてしまい、昨年10月末、最高裁に上告の手続きを行いました。

中野さんは、その後(国会でも問題になった)母親が教団に念書を取られた件や、それに関する、岸田首相の答弁であったり、教団の内部資料を含めて資料を提出しています。さらに3か月ほどかけて、書面、書証を読み直し4万8千字ほどの陳述書にまとめて、5月29日に最高裁宛に提出しています。

「今、母親から引き継いだ裁判は、統一教会側の完全勝訴になっていますが、この(誤)判決が維持されれば、統一教会にとって、司法のお墨付きを得たことになります。今後、母と同じような損害賠償請求に対して、統一教会は(教団に)有利な判決を必ず引き合いに出してくることになる」と危機感を示して、徹底的に戦う気持ちを出してお話をされました。

さらに「これまでの私自身の交渉、訴訟での経験からも、問題が発覚してからメディアなどで明かされた統一教会の主張やふるまいからも反省は一切感じられません。この一年足らず、どれほど問題が指摘されても、真摯に向き合おうという姿勢など一切みられませんでした」といい、旧統一教会の解散命令を強く求めます。

今、旧統一教会の問題に対して、第一線に立って戦う元信者、信者を持つ家族らは本当に様々な誹謗中傷を受けており、命の危険さえも感じるような状況です。

教団への恨みから安倍元首相を銃撃したとされる、山上徹也被告の裁判も始まりますが、旧統一教会問題はこれからが解決のための本格的なスタートです。何より、世間の方の大きな関心こそが、被害を受けた方々の教団に立ち向かうための大きな力となります。

この他にも、解散命令請求時における、宗教法人法における財産保全の法的不備を指摘する声があがりました。(続)

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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