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長男が「なぜ、死んだのか」をずっと考えてきました。旧統一教会元信者、被害家族による第二次の集団交渉

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

「毎日、そして今も東京に向かいながら、長男が『なぜ、死んだのか』をずっと考えてきました。当事者である長男は、苦しかったんだろうと思う」

4月5日、立憲民主党を中心とする「統一教会国対ヒアリング」が行われて、家族として被害を受けた橋田達夫さんは涙をこらえながら話します。

橋田さんの元妻は30年以上前に、旧統一教会に入信し、田んぼを売り献金をするなどして、被害は1億円にも上っています。橋田さんは、元妻の入信をめぐって離婚して家族と離れます。しかし3年ほど前、元妻とともに暮らしていた、30代の息子さんが突然、自ら命を絶ちました。橋田さんは金銭的被害だけでなく、家族として精神的に辛い被害を受けています。

「34年間、一人で統一教会と闘ってきました。妻は教会に行きっぱなしで『やめてほしいといっても、聞かなかった』本当に苦しいです」(橋田さん)

教団に対して第二次の集団交渉の申し入れ

全国統一教会(世界平和統一家庭連合)被害対策弁護団の阿部克臣弁護士から、教団に対して、第二次の集団交渉の申し入れが行われたことが発表されまた。橋田さんも今回の集団交渉に参加している一人です。

「第二次の請求金額は約3億1400万円で、通知人は19名になります。このうち財産的損害は約2億6100万円、慰謝料は約5200万円になります」

一次と二次の集団交渉を合わせると67名、請求金額は約19億2千万円です。

「第一次の時には、被害者本人の献金といった財産的損害に関する請求でしたが、今回の特徴としては、特に悲惨な事案として被害を受けた(元信者や)家族への慰謝料を増額したものが2件あります。その1件が橋田さんになります。橋田さんの請求金額は4000万円となり、そのうち2000万円が慰謝料の請求です」(阿部弁護士)

家庭が破壊されたことへの慰謝料

橋田さんの元妻は教会の活動に没頭して、子供を放っておく形になり、長男は中学生の頃に不登校になり、成人後はアルバイトも長くは続かなかったと言います。

「36歳で長男が亡くなり、橋田さんは奥さんと離婚することになり、家庭が破壊されました。そこで2000万円の慰謝料を請求しています。財産の損害は、橋田さんの持つ不動産を高知県が収用した時に、そのお金を(県が)誤って橋田さんの元奥さんの口座に振り込んでしまいました。その中から奥さんは統一教会に2000万円を献金しています。その金額も請求しています」(同弁護士)

橋田さんは「僕の名前で勝手に銀行からお金を借りることもあった。今回の2000万円も自分のお金だといって、元妻は勝手に献金しました。悪霊がいるから土地を売るなどといったことを30年以上も繰り返してきました。そして長男は3年ほど前に自ら命を絶ちました。7月に(安倍首相を銃撃した)山上徹也君の事件が起こって、自分の子供と同じだと思いました。山上君は外に向けて出た(刃を向けた)。しかしうちの息子は自分(内)に向けて出てしまった」と話して、その形の違いだけに過ぎないと、悔しそうに話します。

なぜ息子が亡くならなければならなかったのか。

橋田さんは、なぜ息子が亡くならなければならなかったのか。調査をしようと信者の家を回ったこともあったそうです。しかし信者からは「知りません」「わかりません。帰って下さい」と言われるだけだったと言います。

「教団は逃げている。その繰り返しで調査もできない。被害を訴えても無視される。警察や弁護士、市町村に話をしても、誰もかかわってくれなかった。これが現実です。2000万円の返金を求めて、教団に何度も行きました。しかし『奥さんが勝手にやったことなので、帰って下さい』と言われた。本当に悔しくて悔しくて…。毎日、そして今も東京に向かいながら、長男が『なぜ、死んだのか』をずっと考えてきました。当事者である長男は、苦しかったんだろうと思う」と涙をこらえて気丈に話されます。そして「早く解散命令の請求を一日でも早く出してほしい」と訴えます。

「信徒会ではなく、教団として交渉に応じるべき」の指摘

鈴木エイト氏は、第二次の通知書にある「被通知人(旧統一教会)は、あくまで『信徒会』と担当弁護士との個別交渉にこだわり、未だに教団として責任を持って対応されようとされません。このような態度は、これまで被通知人が表明してきた『誠実な対応』とは相反するもの」とした点に触れて「教団は信徒会があるかのよう言っていますが、そんなものはありません。組織ぐるみで(正体隠しの勧誘で)リクルートして、財産を収奪してきたことについて、教団本部は関係ないという。信徒会というワンクッションをおいて、信者らが自主的に経済活動をやっている形をとる。組織的なものではないという流れのなかで(教団本部が)集団交渉に応じず、信徒会が応じるとしているところに、欺瞞性がある」と話します。

阿部弁護士も、先日の報道の取材に答えた(旧統一教会の)田中富広会長の言葉は、最新の統一教会の代表の考え方を示しているとしたうえで、「高額献金について『家庭に対する配慮が足りていない部分があったと認めて、恐怖心をあおって求めたとの指摘には、事実だとすれば申し訳ない。改革しなければならない』と語っていますが、本当に配慮が足りず『申し訳ない』と思っているのならば、過去の罪に真摯に向き合い、被害者に謝罪してしかるべき賠償をするのは当然であると思う。口では述べているけれども、集団交渉には教団として応じていない。欺瞞性は明らかです。信徒会ではなく、教団として交渉に応じるべき」と言います。

両者の意見に、筆者もまったくの同意見です。

高額献金「家庭に配慮足りず」旧統一教会の田中会長(共同通信)

不当寄付勧誘防止法(被害者救済法)の行政措置や罰則の規定が本格施行

4月1日から不当寄付勧誘防止法(被害者救済法)の行政措置や罰則の規定が本格的に施行されました。消費者庁の松本室長から説明がありました。

「何より情報収集が必要だと考えています。4月1日からウェブサイト『法人等による寄附の不当な勧誘と考えられる行為に関する情報提供フォーム』で受け付けています。消費者センターや、法テラスに寄せられたトラブル相談の情報も集めて、しっかりと運用をしていきたい」

今後、組織的な不当寄付勧誘による被害を絶対に生みだしてはいけませんので、ぜひとも多くの方からの情報提供が必要です。

宗教2世の被害を二度と生み出さないために

Zoomで参加した小川さゆりさん(仮名)から「先日も2世信者を救済するための記者会見を行いましたが、被害に遭った人が2次被害に遭わないように法整備をしてほしい」との訴えもありました。

まさに、今回の橋田さんの長男は、山上徹也被告と同じように信仰2世として育てられたなかで、亡くなられました。こうした2次被害というべきものをいかに防ぐのか。そのための法整備が何より急務です。

立憲民主党の山井和則議員からの「10月4日の記者会見で、“統一教会”教会改革推進本部・勅使河原秀行本部長が『高知の問題に関しては私のほうで直接対応いたします。基本的には教会が話も聞かないということはあってはならないことでありますから、何が起きたかということに真摯に耳を傾けて、私どもが改めるべき点は改め、もし返金が必要であれば、それに応じる』とおっしゃっていますが、その通りになっているでしょうか」との質問に対して、橋田さんは「まったくなっていません。高知の教会に5回くらい留守番電話をいれました。彼らは電話に出ません。連絡も何もありません」と答えます。

それを受けて山井議員は「被害者救済法を政府与野党、役所をあげて、必死な思いで成立させました。それにより教団が集団交渉に応じたり、橋田さんの被害に対しても、誠実な対応をするかと思ったらしていません。この不誠実な対応により、被害者が何十年も出続けています」と指摘します。

家族を地獄に突き落としておいて、天国を作れるわけがない

「自分たちが悪かったと思えば、被害者に謝罪すべきです。勅使河原氏は『調査をします』といっておきながら、一切連絡なし。(旧統一教会からも)謝罪は何もありません。僕は(旧統一教会は)カルトであり、反社会団体と言いたい。被害があれば、寄り添いますよね。それが一切ありませんよ。これが宗教かと。田中会長も勅使河原氏も、被害者を回って謝罪して、補償するべきではないですか。悔しい。家族を地獄に突き落としておいて、天国を作れるわけがないじゃないですか!これが本当の気持ちです!」(橋田さん)

筆者も教団を辞める時に、自分が長年、教団に入り続けることでいかに家族が苦しんできたかを知りました。それは教団が唱える地上天国とはまったく違っている、まるで地獄のような姿でした。

地上天国を作るための犠牲はやむを得ない。家庭を破壊して被害者が生まれても仕方がない。そんな考えでの天国は存在しません。

教団は、これまでにどれだけの多くの人に被害と悲しみを与えてきたのか。今、目の前で起きている現実を直視する必要があります。被害を口にする人たちを、サタン(悪魔)とみて敵視、攻撃するのではなく、彼らの言葉こそが教団が過去に犯してきた罪を見つめさせる真実の声として、しっかりと耳を傾けなければなりません。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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